オンライン小説&出版本紹介のHP「ハレルヤ-樋口裕子-」のブログ、夢日記や短編小説など書いていく予定です。(コメントの欄に業者の方の宣伝はご遠慮願います)
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 カスガに親兄弟はいない。 生まれた時はもちろんあっただろうが、 我が家の猫になって七年、皆の仲間に入れて もらおうと必死に生きてきた。 そのことは、ずっと見守り続けた私が一番よく知っている。 人間には決して媚を売らず、猫達の間を渡り歩く。 ある時はブチ達と、ある時はカリン、トウとだけ 仲良くした。そして今自分を一番大事にしてくれる シュウと一緒に、仲むつまじく暮らしている。 あの細っそりとして憂いをふくんだ体は面影もなく、 果てしなくデブの貫禄を持ち、したたかな顔になった。 (続ママの店) ママの店に行った。 今日はカウンターに見慣れない女性がいて、 ママとの間に妙な空気が流れている。 私がいつもの席に座っても、ママはこちらに来ようとしない。 何か深刻な話をしているみたいだ。 私はカバンから本を取り出し、ママの話が終わるまで 本でも読もうとしたのだが、 「いいかげんにしなさい ! 」 いきなりママが女性の頬にビンタをくらわせた。 ビックリして床に落とした本を拾いながら、 二人の様子を窺う。 かなり険悪なムードだ。 仲裁に入ろうかどうしようかと迷ったが、 相手は女性だし しばらく様子を見ることにする。 「それじゃ、あんたは自分のやったことが正しいとでも言うの ? 」 ママが重く厳しい口調で言うと、 「私の生んだ子よ、どうしようとあんたに関係ないでしょう ! 」 甲高い声で女性が叫ぶ。 この女、赤ん坊でも殺したか・・・と思ったが、 「ちゃんとミルクもあげているし世話もしているわよ」 その言葉で私は胸をなでおろす。 「ただ、もう・・・ゆっくり休みたいだけなのよ。 いいじゃない、あの子にはパパもいるし立派な お祖父ちゃんとお祖母ちゃんがいるんだから。 私がいなくなったら、あの人達新しい嫁でももらって あの子を育てていくわよ。私はいてもいなくても、 どっちでもいい存在なのよ」 女性はとうとう、カウンターにつっぷして 泣きだしてしまった。 ママはもう何も言わず、溜息をついて女性から離れ 私の所へやって来た。 「ごめんなさい、大変なとこ見られちゃったわね」 ママが小さく笑う。 「そんなことちっともかまわないけど、いったいどうしたのさ、 あの人子供を残して自殺でも図ったの ? 」 ママはビックリしたような顔で 「話、聞いていたの ? 」と言う。 「そりゃあ、この近さじゃまる聞こえだよ。で、そうなの ? 」 「何が ? 」 「だから自殺・・・」 ママの顔が急に暗くなる。 「それがねえ・・・本人は自殺したと思っているけど、 実際はもっと酷いことになっちゃってるのよ」 カウンターの女性の泣き声が一段と激しくなった。
2006.03.31. (00:04) 小説 文学 /
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 寝る前の牛乳タイムは猫達の楽しみだ。 温めた牛乳を好きな子と、冷たいのしか飲まない子がいる。 我が家の猫達の食事は、ご飯に鰹節、缶詰添えだ。 水をあまり飲まないので、 牛乳タイムの時はものすごい勢いで飲む。 そして朝までぐっすり眠るのだ。 ママの店71 2 3 4 5 6 7 8(続ママの店) 私の夢の中でのお話。 私の家族は、両親と猫一匹。 昭日町(あけびまち)に住んでいる。 自宅はマンションであったり、一戸建てであったりする。 現実の世界と私の幼少時代の記憶が どこかで屈折して繋がっているのだ。 いずれにしても私の部屋の窓からは 広々とした海が見える。 両親はママの店の近くにある商店街で レストランをしている。 最近モーニングサービスを始めたらしく、 毎朝六時に二人そろって出て行くようになった。 私は七時頃に起きて自分でパンを焼き、 コーヒーを飲んで学校に行く。 学校から帰って来ても、誰もいない。 結局「行ってきます」と「ただいま」は 使ったことのない言葉なのだ。 夜は九時頃に店を閉めるので、 時々散歩がてらに迎えに行く。 店は半馬蹄形のカウンターだけの造りで、 二十人くらいの客で満員だ。 父は奥にある調理場で料理を作り、 母はカウンターの中で客の注文を聞いたり、 料理を出したりしている。 店は二階建てで、入り口右横のドアから 上がれるようになっている。 私はここに来ると真っ先に二階に行くのだ。 二階には応接セットが置かれてあり、 床には階下に物音が響かないように ふかふかの絨毯が敷いてある。 部屋は下の店の広さを考えると一部屋だけのはずだが、 何故か奥行きが広く、洞窟のような通路がある。 その先の部屋には、 昔あったタンスとか、食器小物類、 マンガ本などが置いてある。 私の二階に上がる目的は、この奥の部屋にあるのだ。 古いタンスの引き出しを開けると、 頭の中でとっくに忘れている物が入っている。 象牙のハンコや数珠、数ページで終わっている母の日記。 父のラクダのシャツや股引、母の下着・・・ そして父や母がよく着ていた洋服の数々。 それらが全部引き出しの中に入ったままだ。 ソファーに座って昔よく読んだマンガ本を広げていると、 父が上がってきて、 「もうすぐ帰るからな」と声をかけ、 またすぐに下に下りて行った。 私は急に隣にある薬局を思い出す。 薬局は、ゆき子ちゃんといつ子ちゃんの家だ。 おじさんとおばさんはいつも白衣を着て店にいる。 私が行くと、 「ゆき子、いつ子、○○ちゃんが来たよ」 と奥に向かって声をかける。 隣もそろそろ店じまいなのか、 シャッターを閉める音がしだした。
2006.03.30. (00:23) 小説 文学 /
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 オムツをつけたシマジロウが、トレイの上に座っている。 後ろ姿が何かおかしいから、写真を撮ろうとしたら、 いきなり振り向いた。 最近はトイレにちゃんと行くようになってきた。 このぶんならオムツをはずしても大丈夫かな。 夏までにはオムツが取れますように。 ママの店71 2 3 4 5 6 7 (続ママの店) 私はしばらくママと一緒に、 中田先生と良太君が 楽しそうに語り合っているのを見ていたが、 良太君の腕に抱かれている子犬を見て、 突然ゴンに会いたくなった。 ゴンは去年死んだ私の猫で、 この前郵便屋のお兄さんに聞いて、 今はこちらの世界に来ていることを知った。 時々私の家の前にある浜辺で、 日向ぼっこをしているらしい。 さっきのママの説明から考えると、 ゴンも私に会いたいと思っているはずだ。 「ママ、もう帰るわ」 「えっ、もう帰るの? 先生と良太君に ケーキを出してあげようと思ってたのよ。 一緒に食べようよ」 ママは引き留めようとしたが、私はまた来るよと言って店を出た。 出る時、中田先生に声をかけようと思ったがやめた。 今の先生には良太君しか見えていない。 二人だけの世界に入り込んでいるのだ。 私も早くゴンの所へ行ってやりたい。 浜辺に着いた。今日も海は静かで波一つない。 辺りに人がいないのはいつものことで、 うんと遠くの方まで見渡せる。 私はゴンのちいさな姿を見つけようと必死になった。 「会いたいと言う気持ちがあれば会えるはずよ」 ママの言葉を思い出す。 私はゴンに会いたい・・・ いつの間にか一匹の猫が私の足元にいる。 ゴンじゃないか ! 私は小躍りして喜こんだ。 ゴンも嬉しそうに体を摺り寄せて来る。 「ゴン、もう体は大丈夫なのか ? 」と聞くと、 ゴンは嬉しそうにニャアと鳴いた。
2006.03.29. (00:58) 小説 文学 /
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 アマゾンの海老ホロホロが脱皮しているのを今日発見した。 いつものように水槽をカチカチと鳴らし、エビが寄ってくるのを 待ったが、中央にある木の枝にくっついたまま動かない。 ひょっとしてとうとう死んじゃった・・・と思ったら その横からピューとエビが現れた。アレ?と思いよく見たら 枝にいるのは透き通っている。脱皮だ。長く生きても狭い水槽、 それでも長生きしてねってエールを送った。 左上の方に写っているのだが、わかるだろうか・・・ ママの店71 2 3 4 5 6(続ママの店) 「長いのも一生、短いのも一生、 生きていればみんな必ず死ぬ時が来るわ。 そんなことは誰でも分かっているはずなのに、 いざ死を目の前に突きつけられるとね、 何とかして死なずにすむ方法はないかって、 焦るのよ。 他人の臓器をもらって、たとえその場は生きながらえても いずれ必ず死ぬの。 医学の発達は素晴らしいと思うけど、 死を受け入れるということも 大事なことなんだけどねえ・・・」 今までずっと黙っていたママがしんみりとした声で言う。 「中田先生は、もう死んでいるんだよね」と私。 先生は今更何を聞くのかというような顔で、頷く。 「それじゃさ・・・良太って子にもう会ったの?」 先生は、目を閉じて寂しく首を横に振る。 「会ってないよ。 ここは死んだ者同士が再会する場所じゃないからね」 「会えるかもしれないわよ」 ママが突然嬉しそうな声を出した。 「それはどういうことですか?」 中田先生がびっくりしたような顔をして聞き、 私も思わずママの顔を見た。 「犬山さんの娘さんがここに来たのを覚えてるでしょ、 それからあの少年・・・」 ママはカウンター側の壁に掛けてある少年の写真を見る。 「あの時あの子がトラックで轢き殺した人達が みんな一緒にこの店に入ってきたわよね、 たまたま同時刻に同じ場所で死んだから、 波長が合って 一緒にこっちの世界に流れ込んだ。 だから、死んだら絶対別の世界に行くってことは 言い切れないと思うの。 良太君と中田先生は死んだ日時が別だったから 一緒の場所に流れ込むということは不可能に近いけど、 良太君が先生の死をもし知ったとしたら、 絶対会いたいと思うに決まってる。 お互いが会いたいと思ったら・・・ 犬山さん父娘のように会えるはずよ」 「しかし良太は、私が死んだことを 知らないからなあ・・・ それにあの子は私が自殺するだなんて 絶対思っていないはずだ。 たとえ会えたとしても、 死ぬのは弱虫だって言われそうで怖いよ」 中田先生は会うのが怖いと言いながらも、 本当は良太君に会いたくてたまらないのだ。 やはり先生と良太君が会うってことは 無理なのだろうかと考えていた時、 カラ〜ンコロ〜ン 軽やかなチャイムとともに、 ドアが開いた。 そこには子犬を抱いた小学生くらいの男の子が立っている。 「りょ、良太じゃないか!」 中田先生が椅子をひっくり返さんばかりに立ち上がり、 その子の側に飛んで行く。 「オスッ!先生久しぶり」 少年は白い歯を出してニッと笑う。 良太、良太・・・中田先生は良太の体を子犬ごと 抱きしめた。 「ちょっ、先生ワンコが苦しがってるよ」 少年は笑いながら先生を軽く押し戻す。 流れる涙を拭おうともせず中田先生が しきりに少年に話かけているのを 私とママはじっと眺めていた。 「あの子も先生に会いたがっていたのかな、 それにしてもこりゃ、奇跡に近い」 「そうね、奇跡が起こったのよ・・・」 ママが笑いながら私に向かってウインクした。
2006.03.28. (00:38) 小説 文学 /
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 つまんないよ・・・という顔をして フクがパソコンに向かっている私の側で寝ている。 そりゃそうだ、パソコンをしている間は 話かけてもあげないし、なでてもあげないからなあ・・・ ママの店71 2 3 4 5 (続ママの店) 「私は自分の無力さを思い知ったよ。 組織の中での私はただの部品でしかない。 しかもその部品の替えはいくらでもある。 そんな私があの子を助けられたかどうかもわからない。 それでも、せめて自分のいる時に発作が起こっていたら、 良太は死なずにすんだかも知れない。 どうして私の留守の間に死んだんだ・・・ 良太は確かに酷い喘息持ちだった。 でも、あんなに急に死んでしまうなんてことは・・・」 そんなことはあり得ないと言うように 先生は目を閉じ、ゆっくりと首をふった。 「先生は良太君のその時の状態をみんなに聞いたの?」 と私が聞くと、 「当然聞いたよ。 そりゃもう掴みかかるほどの勢いで 病院にいる全員に聞きまくった。 でも、みんな知らん存ぜぬの繰り返しで、 私が側に来ると逃げまくる。 とうとう院長に呼ばれて注意されてしまったよ。 何も聞くな、ほじくり返すな、子供の親とは話がついている。 お前ももっと大人になれとまで言われたよ。 何を訳の分からぬことを言っているのかと その時は思ったが、やはり裏があったんだ。 理事長は糖尿から来る膵臓疾患と 腎不全を起こしていた。 移植しか助かる道はなかったのだけれど、 何も将来のある良太を犠牲にしなくても よかったはずだ。 私は理事長と病院の関係者全員を恨んだ。 これは正真正銘立派な殺人だ。 すべてを暴いて白日のもとに曝してやろうかと考えたが、 貧しい生活の中から私に仕送りをしてくれた 両親のことを思うと出来なかった。 結局私は良太の死を隠滅することに加担したんだ。 そうまでして医者に固執するしかない自分に腹が立つ。 私は良太が死んでから人生の希望を失ったんだ。 何の為に苦労して、 自分は医者になったのかと言う疑問が いつも頭の中をついてまわる。 そして、病院に来る患者を診る度に、 この患者も必要とあらば殺して 臓器を頂くんだとまで思い込むようにになっていた。 頭が変になっていたんだな」 そうか・・・それであの日先生は病院の屋上から 飛び降り自殺を図ったのだ。 私は悲しい真実を知ってしまった。
2006.03.27. (00:11) 小説 文学 /
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 今日は久しぶりの上天気だった。 ポカポカと暖かい日差しの中で、 自分の前足を吸いながらチャコが眠っている。 お母さんの夢を見ているのだろうかな。 とても気持ちよさそうだ。 ママの店71 2 3 4 (続ママの店) 私は複雑な思いで中田先生を見る。 先生があんなに取り乱し、 土星にくってかかるなんて思いもしなかった。 私達に気づき、先生が振り向く。 バツが悪いのか、 無理やり笑おうとしている。 「いや、大変な醜態を見られてしまったね」 「とんでもないです。大丈夫ですか?」と私 ママはコーヒーを入れなおしてくるわね、 と言って席をはずした。 先生は私の隣に移動してきたのだが、 何も言わない。 私も何を話せばいいのかわからないので、 しばらくは気まずい空気が流れた。 「私は何の為に医者になったんだろうな・・・」 先生が重い口を開く。 「親父は昔小さな鉄工所に勤めていて、 お袋は近所の弁当屋でパートをしていた。 普通の大学に行くのでも大変なのに、 私は医者になりたかった。 だから奨学金をもらえるように、 死ぬ気で勉強したよ。 受ける大学はもちろん国立で、 一発合格するのが条件だ。 塾に行く金もないから自力で頑張った。 そのかいがあって私は合格したんだ。 嬉しかったねえ・・・ 親父とお袋が泣いて喜んでくれたよ。 授業料とか教科書、 実習費も奨学金で賄えたが、 大学が遠くて、 自宅から通えないから下宿することになった。 家賃は自腹だし、生活費もいる。 アルバイトしようにも勉強が忙しく、 そんな暇もない。 親父達が必死に働いた金を送ってくれる度、 卒業したら親孝行するから待っていてくれと、 何度も壁に向かって頭を下げたよ」 ママがコーヒーを持ってきて、 少し離れたところに腰をおろした。 「医学部は、親も医者だという 裕福な学生が多くて、 私のような苦学生はあまりいない。 私自身にひがみがあったんだろうけど、 どんなイベントも勉強以外だったら 参加しなかった。 そのせいか、友達も出来なくてねえ、 寂しいと言えば寂しいが、 そのぶん沢山勉強が出来たよ。 何しろ奨学金をもらうには、 成績を常に 上位に保っておかねばならなかったからね。 お陰で私は高成績で卒業して、 大学病院でインターンをしてから、 そのままその病院の小児科に 勤務することになった。 やっと親孝行が出来るようになったんだ。 それに、小児科は私に合っていたようで、 毎日が充実していたよ。 そんなある日、小学校五年生の 良太という喘息持ちの男の子を入院させた。 酷い喘息でね、自宅の環境が悪かったので 入院したほうが早く治ると判断したんだ。 生活保護をうけている家庭の子供だったが、 底抜けに明るくて病室の人気者だった」 先生は懐かしくてたまらない というような顔になった。 「その頃病院では、 生体移植のドナー探しが始まっていた。 理事長が難病で、 移植するしか治療方法がなかったんだが、 本人が海外ではなく 国内での移植を希望した。 八方手を尽くしたんだけど、適合するドナーが なかなか見つからない。、 もちろん我々職員の血液も調べられたけど、 正直、入院患者まで調べるとは思わなかった。 不愉快を通り越して怒りを感じたね。 結局やっと合うドナーが見つかったんだけど、 そのドナーってのが良太だったんだ・・・」 先生は急に言葉を詰まらせた。 私はママからさっき大体のことを聞いているので、 心が痛んで仕方がない。 「良太には三つ下の弟と、 まだ乳飲み子の妹がいた。 父親は日雇いの土方で賃金も少なく、 生活保護を受けながら細々と暮らしていた。 私も裕福でない家庭に育っているから、 よけいに良太が身近に思えたのかもしれないな。 私がパンを持っていってやると、 先生は医者より パン屋の方が向いてるなんて・・・」 先生の目から涙があふれ、言葉が途切れた。 「先生、私はその後 良太君の身に起こった不幸を ママから聞いて知っているんです。 辛かったら、それ以上話さなくても・・・」 それでも先生は、 目を真っ赤にしながら話を止めなかった。
2006.03.26. (00:35) 小説 文学 /
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 シュウとカスガは我が家の猫達の間では、 珍しく仲が良い。 初めはシュウが一方的にカスガを好きになったのだが、 今ではカスガもまんざらでもなく、 あれやこれやとシュウの世話を焼く そんな時、シュウはとても嬉しそうだ。 ケージで仲良く寝ている二匹の姿を見ると、 思わず顔がほころんでしまう。 ママの店71 2 3 (続ママの店) 私は一瞬、飲みかけていたコーヒーを こぼしそうになった。 「あの患者は多臓器不全で 助かる見込みはほとんどなかった。 本人も献体を望んでいて、 医学の為に貢献しようと言ってくれたんだ。 その志をくんで、 臓器を有効利用させてもらった、 それのどこがいけないんだ」土星が中田先生に食って掛かる。 「青くさいことを言うようですが、 医者は患者の命を救うためにあると考えています。 たとえ助からないと予測していても、助けようと努力 するのが医者ではないでしょうか。 移植する臓器は新鮮な物じゃないといけない。 あなたは心の中で、早く心臓が止まってくれりゃあ いいのにと願ったはずだ。 あなたは患者の死を待つ死神だ!」 し、死神は言いすぎでは・・・ 私は土星が怒り狂うのではないかと心配になった。 ママは・・・そう、ママはどうなったかと隣を見ると、 ママはまたトランス状態に陥っている。 「脳の移植さえ出来れば、救える命もあるのだ。 私だって何も好き好んで脳の移植手術をしたのではない。 君も医者の端くれなら、そんな分かりきったことを いちいち青筋立てて言うのはおかしいんじゃないのかね」 土星が吐き捨てるように言う。 中田先生の背中が怒りで燃えている。 「あなたは延命の為に脳の移植をしたのではない。 ただの実験材料として二人の人間を殺したんだ」 何を言うかと、土星は完全にキレ、 「失礼するよ、君とこれ以上話をする気はないのでね」 と言い残し、ドアを乱暴に開けて出て行った。 止まり木で中田先生がカウンターに肘をつき、 苦悶に満ちた顔を両手で覆っている。 小刻みに肩が震えているのは 泣いているのか・・・ 「先生・・・」 本当は先生の側まで行って声をかけたかったのだが、 足が床にくっついたように動かず、 声もつぶやくようにしか出せなかった。 隣ではママがトリップ先から戻ったらしく、 見てきたことを話し始める。 「中田先生は、自分が主治医をしていた子供の臓器を 移植に使われた経験があるのよ。 その子は喘息がひどくて入院していたんだけど 決して今すぐ死ぬような状態ではなかった。 ただ・・・家が貧しくて、 生活保護を受けていたのよね。 もちろん医療費も福祉から出ていた。 そこにつけこんだ院長が親に多額のお金を渡して 死亡後の献体を承諾させる。 まあ、どこにでもありそうな話しなんだけど、 子供は夜中に発作を起こして死亡した。 薬の吸入が間に合わなかったなんて言ってるけど、 それは多分嘘。 中田先生はその子が死亡する前日に 出張を命じられているの。 地方にある大学病院に患者のレントゲン写真を 届けるようにいわれたんだけど、 タイミングが良すぎるわ。 戻って来た時、子供はもう死んでいて、 複数の臓器を摘出されてしまった後。 移植はさっきあの二人が話していたように 生体反応のあるうちに行わねばならないから 多分治療もせずに殺したのね。 でも、その子にはもっと小さい弟や妹がいて、 親はお金が必要だった。 だから泣き寝入りするしかなかったのよ」
2006.03.25. (00:16) 小説 文学 /
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 カリンはフクの娘で、一番親を嫌っている。 フクを見ると実に嫌な顔をして、ブン殴って逃げる。 それでもフクは娘には手を出さない。 少し不機嫌そうにフニャーと鳴くだけだ。 カリンのシッポは普段は細くてしなやかなのだが、 機嫌の悪い時はこんなに太くなる。 ママの店71 2 (続ママの店) 土星は、私がよく勉強している優秀な学生だと 勘違いをしたのか、さっき教室でした講義の続き をやりだした。 とんでもない、授業はもう終わったのだ。 ここに来てまでやりたくない・・・ 私は心の中で叫んでいた。 「先生は移植手術をなさったのですか」 突然耳の近くで声がした。 中田先生だ・・・ 何回注意してもこの人は、急に変な所から現れる。 今回は私と土星の間にある止まり木に、 いきなり出没した。 もう慣れたとは言え、やはり驚く。 一言無礼に対する文句を言おうとしたが、 私を無視して、早くも土星との会話が始まっている。 私は中田先生に怒るどころか、 感謝せねばならない事に気がついた。 土星から離れるのなら今がチャンスだ。 元いた席にまいもどり、 ママと一緒にさりげなく コーヒーの入ったカップを口にしながら、 耳をそばだてて 止まり木にいる二人の会話を聞いていた。 少し沈黙が続いたあと、 「やったよ・・・」と土星がつぶやいた。 中田先生は落ち着いた話し方をしているが、 なんとなく土星に対して一物を持っている感じだ。 「じゃあ、生体移植を行われたのですね」 土星の背中が一瞬ぷるっと震えた。 「もちろんだとも・・・」その一言の後、 土星はいきなり早口になった。 「私のしたことは間違ってなどいない。 肝臓、腎臓、心臓も今は普通に移植を行っている。 脳の移植が行われないのは、医者の信念の無さと バカな人間どもの宗教的な考えからだ。 傷んだ脳を新しくすることが出来たら、 人間はもっと楽しく生きられる。そんな結構な研究を 何故実現しようとしないんだ」 土星が興奮しているのがわかる。 「生体移植は、脳死の決定によって行われていますよね、 じゃあ、脳の生体移植の場合でも脳死した物を使う のですか」 後ろからではわからないが、中田先生はおそらく 私やママが今までに一度も見たことのないような 真剣な表情で土星と対峙しているに違いない。 土星は黙ったままだ。中田先生が話を続ける。 「脳死ということは、脳が死んだ状態を言います。 つまり、体に対して何の指令も出せなくなった臓物です。 そんなものを移植したとしても、 移植された人間は生き返りゃしませんよね。 とても無駄な手術だと思いますが」 少し間を置いて、中田先生は落ち着いた声で 恐ろしい言葉を口にした。 「あなたは生きている人の頭から脳を取り出したんだ」
2006.03.24. (00:38) 小説 文学 /
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 実物のフクはもっと子供っぽく愛らしいが、写真に撮ると オスはオスらしい顔になってしまうから不思議だ。 フクはチャー達兄妹のパパだが、ナナが子育てを放棄してから パパではなくなった。 子猫の時あれほど可愛がってくれたフクパパなのに、 きっとシッポが無いからという理由で、 誰も親とは思わないのだ。 猫の世界ではシッポの美しさが物を言う。 通りすがりにフクを殴って行く子供達・・・ だからフクは時々こうして遠い目をして、 寂しさに耐えているのだ。 ママの店71 (続ママの店) カウンターに客が一人いる。 私にはそれが誰かすぐにわかった。 見慣れた土星の頭・・・ あれは生命科学論理の先生だ。 私の様子がおかしいので、 ママが小首を傾げ、どうしたの?と聞いてきた。 「あそこに座っているのは、ウチの学校の先生なんだ」 私の声が小さくなる。 「そんなにおどおどしちゃって、あんた授業中に何か やったの?」 ママも意地悪い顔でささやく。 「いや・・・何もべつに・・・」 まさかずっと寝てたとは言えまい。 「どうしよう、側に行って挨拶するべきかな・・・」 知らん振りを決め込んでもよさそうなものだが、 それでは自分自身が気持ち悪い。 「行ってきなさいよ、行くべきよ。そしてあやまりなさい」 ママは私が何か悪いことをしたと勝手に決め込んでいる。 私は重い腰を上げて先生の側に行った。 「あの・・・先生、こんにちは」 どう声をかければ良いか分からぬまま挨拶をすると、 先生は首を半回転させて私を見た。 「おー・・・君は僕の授業を取っているのかな?」 よく見ると土星頭もやさしく見える。 「あ、はい・・・今日の授業にも出ていました」 確かに出てはいたが眠っていた。 「まあ、ここに座りたまえ。僕もちょうど話相手が ほしかったんだ」 私は渋々先生の隣に座った。 「で、君はどう思う?」 私はいきなり聞かれて血の気が引き、 オカルト映画に登場する化け物みたいに、 黒目が後ろにひっくり返ってしまいそうになったが、 あの時教室で意識が無くなる5秒前に、 先生が喋っていた言葉を思い出した。 「の、脳の移植と記憶の記録についてですか?」 「うん、移植された脳に記録されている記憶は そのまま保存され続けるのだろうか、ということで、 僕の意見はさっきの授業で言った通りだが、 君の意見を聞きたいね」 えっ?さっきの授業で私が眠っている間に、 あなたはそんな重大な発言を・・・ 私は先生に声をかけたことを後悔し始めていた。 しかたがない、何とか適当に言ってごまかそう。 「私は、脳を移植した時点にあった記憶は いつまでも 残っているとは思えないのですが、 つまり徐々に消えて行くのではないかと・・・」 かなり適当に言ったのだが、先生は目を丸くして、 「感心感心、よく僕の話を聞いていた証拠だ」 何と私はほめられてしまった。 ハレルヤ
2006.03.23. (00:58) 小説 文学 /
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 日差しが良くてポカポカ気持ちがいいものだから、 チャコは机の上から落ちかかっているのに気がつかない。 ママの店7(続ママの店) 「生命科学論理」の先生は、白髪がこめかみから後頭部にかけて 半ドーナツ状にこんもりと生えており、後ろから見ると土星のような 頭をしている。 いかにも科学者らしい風貌だが、実際生命科学にかけては わが国において第一人者らしい。 今日のテーマは「脳の移植と記憶の保持」だ。 先生の講義が始まる。 「脳の移植は外科的においてまず、大変難しい手術である。 脳には血管だけではなく、全身の神経組織が繋がっている。 それらのものを切断縫合するという作業が困難きわまり、 脳の神経だけでも・・・」 何だか先生の声が遠ざかって行く。 私の横は窓で、気持ちのいい風が入ってくるため 頭の中まで気持ち良くなってくるのだ。 「であるからして、脳をコンピューターに例えると 記憶は記録された物であるからして、 移植してからも提供者の記憶がそのまま移植後にも 存在すると考えられる」 あのオジサン何を言ってるんだろう・・・ そこで意識が別世界にトリップした。 空高く、赤、青、黄色、緑、白、色とりどりの鳥の群れが まるで航空自衛隊のショーを見るように先頭一羽を中心に 三角形を作り飛んで行く。 なんと私も一緒に飛んでいるではないか。 私は今鳥になっている・・・・ あっ! パチッ、と音がして先頭の鳥が消えた。 それを合図に後に続く鳥達が次々に消えて行く。 私の体がまるでエンジンが止まったように、 地面めがけて急降下する。 もうだめだ!とあきらめた時 授業終了のベルの音で我に返った。 恐かった・・・ 額にうっすらと汗をかいている。 どうやら居眠りをして夢を見ていたようだ。 土星がドアを開けて出て行くのが見える。 今日はもう後の授業を受けずに帰ろう。 天気も良いし、 こんな日は外に出て清々しい空気を吸うべきだ。 いつのまにか学校を後にして、いつのまにか電車に乗り、 そして、 いつのまにかママの店に入っていた。 「あら、今日は早いのね」 ママは、「また授業をさぼったんでしょう」と笑いながら、 私に暖かいコーヒーを出してくれた。 つづく ハレルヤ
2006.03.22. (00:00) 小説 文学 /
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 今日は朝からHPの部分修繕を行なっていた為、 ママの店は今日も休業です。 続ママの店をご覧になって頂ければ幸いです。 「ママの店」を書くようになってから、 次々と嬉しいことが起こっています。 私にとって「ママの店」はラッキ−な店になりました。 「ママの店」と一緒に書いている、我が家の猫達も、 少しもタネが尽きないほど毎日問題を起こしてくれます。 写真のブチも可愛い子なのですが、さすが兄弟だけあって、 クロと同じように噛み付く・・・ 抱く時でも、あまり高く抱くと顎やホッペタ、 唇までやられかねません。 もう、この二匹のお陰で私の顔や首は傷だらけです。 でも、我が家の猫達は壁をバリバリかいたりしないし、 さほど家も汚さない。 まあ、満点のネコちゃん達です。 今日は最初の方にも書いた通り、HPの修正をしていた為 右の奥歯が痛み出し、なんか腫れてるような感じがします。 虫歯じゃなくて、肩凝りが原因のようです。 私はコタツの上にノ−トパソコンを置いて作業するのですが、 長時間同じ姿勢で座っていると、エコノミ−なんとかと言う 血行障害を起こしそうになります。 でも、寒い時はどうしてもコタツに入りたいですものねえ・・・
2006.03.21. (00:20) 小説 文学 /
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続ママの店(HPにUPしました) 13匹(内1匹はゴ−ストになった)の猫達と暮らして、 もう10年になる。 本当にいろいろあった。猫は犬と違って手が掛からないから 育てやすいとよく言うが、こう数が多けりゃ話は別。 まさに一日が猫で明け、猫で終わる。 我が家はリビングに応接セットを置けない。 我が家は部屋に植物を置けない。 我が家は家族旅行が出来ない。 我が家はお客様を呼べない。 我が家はベランダを開けっ放しに出来ない。 放し飼いにすると喧嘩が絶えないからケ−ジが必要だ。 リビングには二階建てのケ−ジが二つと 平屋のが二つデン!とある。 どこに応接セットが置ける・・・ それでも我が家の人間はよく働く者ばかりで、 朝から晩まで何回も掃除する。 普通なら壁はバリバリ、床はシッコだらけになるだろうが、 我が家は、綺麗だ。 猫がいるから汚いなんて思われたくない。 猫は本当は綺麗好きなのだ。 砂にウンチやシッコの塊が転がっていたら とても嫌がる。 掃除してくれと言いに来る。 猫がいて部屋が臭いのは人間の怠慢だ。 消臭剤ばかりに頼らず、こまめに掃除しないとダメだ。 ゴンはよくオカアサンと叫んでいた。 今クロが私を探してオカアサン、オカアサンと叫ぶ 猫が人間の言葉をしゃべれるわけがないが、 確かにそう聞こえるのだ。 去年ゴンが逝って悲しかった。 あと12回泣かねばならない。 耐えられるだろうか・・・ 今日は何故か我が家の猫達の話を書きたくなった。 ハレルヤ
2006.03.20. (00:40) 小説 文学 /
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1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 (続ママの店) 「人の人生を覗くなんて本当は嫌なんだけど、 見えてしまうのよ・・・ いいものばかりじゃないものね、 大抵悲しくて辛くて、どうにもやりきれない ことばっかりだもん」 ママは青い顔をしてソファ−に座り、額に手を当てた。 「その人の人生のすべてを見るわけ?」と私は聞いた。 「そうよ・・・でも」 ママが深い溜息をつく。 「見るというより、その人の記憶がそっくり私に 送り込まれると言った方が当たってる。 だから、辛いわよ・・・ さっきのお婆さん、子供の頃家が貧しくて、 売られるようにして都会に出てきたの。 都会の片隅で女が一人で生きてゆく。 それを聞いただけで、 彼女がどんな人生を送ったか わかると言うもんだわ」 「じゃあ貧しさと孤独に耐えかねて自殺を・・・」 私の言葉にママは首を横にふり、 「いいえ、彼女はお金に不自由はしていないわ。 美人は得ね、 黙っていても男がお金を貢いでくるのよ。 ワタシも覚えがあるけど」 「えっ、ママもそうなの?」 私の疑問は無視された・・・ 「でも、決して幸せではなかった。 やりなおしたかったのよ、人生を。 彼女の願いは、 もう一度生まれ変わって、 汚れを知らない純心無垢な乙女になること。 今やっと願いが叶ったの。 そりゃ自殺はいけないことよ、 でも、七十年彼女は頑張った。 だから・・・もう開放してあげたい」 幼い少女が一人の女になった時、 美貌の体を武器にして、 夜の世界でのしあがる。 ある朝ふと鏡を見ると、 皺を化粧で誤魔化した 醜い自分がそこにいる。 老いはお金で止められない。 失ってしまった日々に涙する。 そんな時に夢を見て、 こちらの世界にやって来た。 満たされない心が満たされる、 もう現実の世界になんか戻れない。 そこで彼女は薬を飲んで手首を切った。 覚悟の自殺だ。 それでいいじゃないか、彼女は十分頑張った。 ママが言うように 私も彼女の心がわかる気がする。 ママが彼女の為に泣いている。 ママはまるでマザ−テレサのようだ。 私は思わず ママを抱きしめてやりたくなった。 「ママ・・・」 ママの肩に手を回したとたん、 強烈なパンチが私の顔に飛んで来た。 「何すんのよ、いやらしいわね!」 私は椅子ごと吹っ飛んだ。 私には夢の世界でも こんなふうに厳しい試練が与えられるのだ。 ハレルヤ
2006.03.19. (00:41) 小説 文学 /
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 トウ(女)はカリン、シュウ、チャ−、シマジロウの兄妹だ。 こうして近くで見ると、なかなか可愛らしい。 大きな瞳がキラキラしていて体も小さいから さぞかし皆に可愛がられると思うだろうが、 見てくれは良くても、この子はたいそう気がきつい。 ノイロ−ゼのチャオは、 いつもトウに追いかけ回されているのだ。 1 2 3 4 5 6 7 8 9 (続ママの店) ママが席に戻ってきたとき、 中田先生と犬山さんがいなくなっていた。 きっと少女のことで意気投合して、 一緒にどこか別の場所に行ったのだろう。 私はママと二人きりになった。 「ねえ、あの子ビジタ−かな」 ママはこの店に来る客のことは何でもわかっているのだ。 「さっきまではそうだったけど、 今こっちの住人になった」 「えっ、それじゃ死んだってこと?」 「・・・ママ?」 ママが遠い目をしている。 きっと今、あの子の真実を見ているに違いない。 こういう時には話しかけてもムダなのだ。 「彼女、お風呂場で倒れている・・・」 ママは今、とんでもない光景を見ているらしい。 「手首を切ったのね、床にカミソリが落ちてる。 切った方の手をお湯に浸けてるから、 バスタブの中が真っ赤になってるわ。 薬も飲んだのね、 空ビンが転がってる。 自殺を図ったんだ・・・」 ママの顔が青ざめている。 「彼女は最初夢で偶然こっちに来た。 それでこっちの世界が気に入った。 でも、そうそう毎回来られない。 彼女わかったのよ。 こっちの世界に住もうと思ったら、 死ぬしかないって」 こっちの世界が気に入ったから、 死にたいなんてとんでもないことだ。 しかし私も時々、 もうこっちにずっといてもいいかななんて 思うことがある。 生きるということは楽しいことばかりじゃない。 時には死んで楽になりたいと思う時もあるのだ。 それにしてもあの子は若すぎる。 生きてさえいればきっと、 幸せになれる。 ママが目をパチパチしだした。 やっと正気に戻ったようだ。 待ってましたとばかりに私は声をかけた。 「ママ、何とかならないの? あの子は死ぬには早すぎるよ。 まだ子供じゃないか・・・」 ママは寂しく首を横に振った。 「もうダメよ。死んじゃったわ・・・ それに彼女、子供なんかじゃないわよ」 私はママの言葉に驚いた。 「何を言ってんのさ、どう見てもありゃ子供だよ」 ママは私の顔をじっと見つめ、 「あっちの世界の自分と、こっちの世界の自分が 必ずしも同じとは限らないわ。 彼女はお婆さんだったわ。 こっちでは、自分がなりたい姿になれるの。 だから、少女って言うのはこっちでの姿なのよ」 あの子が、お婆さんだったなんて・・・ とてもじゃないが私には信じられない。 ハレルヤ
2006.03.18. (00:24) 小説 文学 /
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 カスガとチャコは女同士でとても仲がいい。 もともとチャコは擬似ママだから、 仲がいいのは当たり前だ。 1 2 3 4 5 6 7 8 ( 続ママの店) 「また沢山の林檎だねえ」 中田先生があきれたように言う。 少女はママに出してもらった メロンソ−ダを飲みながら、 「私絵を描くんです。 林檎をモチ−フにしようと思って 買いに行ったら、お店のおじさんが 全部持ってっていいよって言ってくれて こんなにいっぱいくれたの」 少女はとても嬉しそうだ。 「君、中学生?」と私が聞くと、 少女は首を傾げ、じっと考え込んでしまった。 「どうしたの、まさか忘れてしまった なんてことはないよね」ともう一度聞くと、 少女の顔から笑顔が消えた。 「あっ、べつに言いたくなかったら・・・」 犬山さんと中田先生の冷たい視線を感じながら、 私は必死で少女の機嫌を直すには どうすればいいかを考えていた。 その時、 「覚えてないんです。私学校には行ってないから」 一瞬寂しそうな顔をしたものの、 少女はすぐにまた明るい笑顔にもどる。 そのあと少女が話してくれたことによると、 もともと学校にはほとんど行ってなかったが、 ある日この町に来てからは、 毎日自由気ままに買い物を楽しんだり、 景色の綺麗な場所を見つけては スケッチをしに行ったりしているらしい。 「じつは僕も絵を描くのが趣味なんだよ」 中田先生が少女をナンパしようとしている。 犬山さんも、何故か話に加わろうと必死だ。 私はママのことが気になった。 ママはさっきからずっと、 悲しげな顔をして少女をみつめている。 どうしたんだろうと考えていると少女が、 「私もう帰らなきゃ」と言って立ち上がった。 「えっ、もう帰っちゃうの?」 中田先生と犬山さんが残念そうな顔をする。 「また是非きてね、皆待ってるから」 とママは林檎の籠を持ってあげ、 ドアの外まで少女を送って行く。 ママから籠を受け取って、 少女は開けたドアの向こうから バイバイと手を振って帰って行った。 「あの子はまた来ると思う」 中田先生が言うと、犬山さんも 「来るといいですね」と嬉しそうだ。 二人とも久しぶりに見る可愛い女の子に 夢中になったようだ。 ハレルヤ
2006.03.17. (00:00) 小説 文学 /
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 チャ−はシュウと兄弟だが、体の色が違う。 シュウがカフェオ−レなら、 チャ−はオレンジキャラメルのようだ。 尻尾も丸まっており、クロワッサンに見える。 とにかく二匹ともおいしそうな猫だ。 でもこの兄弟は、人間大好き猫嫌いで、 仲間からいつも浮いている。 1 2 3 4 5 6 7 ( 続ママの店) 何かおもしろい話はないか、 私は頭の中を探し回っていた。 カラ〜ンコロ〜ン・・・ 軽やかな音色にドアの方を見ると、 真っ白いドレスを着た少女が、 林檎をいっぱい入れた籠を抱えて立っている。 年の頃は十二、三歳といったとこか。 「あら・・・可愛らしいお客様」 ママが立ち上がり、少女の側に行く。 我々男どもは、コ−ヒ−を飲みながら ママと少女をさりげなく、しかし しっかりと観察している。 「いらっしゃい」ママがニッコリと笑いかけると、 少女は白いホッペタを赤く染めた。 「買い物をしていたら急に喉が渇いて あの、何か飲ませてください」 「何がいいかしら?」 「あ・・・じゃあメロンソ−ダお願いします」 「メロンソ−ダだって・・・」 中田先生が小声で言う。 「聞こえますよ」 私は咎めるようにささやいた。 お好きな所に座って待っていてねとママが言い、 メロンソ−ダを作りに行こうとしたとき、 少女が籠を落として林檎をばら撒いた。 四方八方コロコロと転がって、 あっと言う間に床中が林檎だらけだ。 「ごめんなさい!」 少女は泣きそうな声を出して、 散らばった林檎を拾いだす。 「こりゃ大変だ」 私も中田先生も犬山さんもママも みんなで林檎拾いを手伝った。 やっとのことで、全部の林檎を籠に戻すと、 少女は嬉しそうな顔で ありがとうございましたと頭をさげる。 それがきっかけで、 少女は私達の横に座り、 暗かった店内が、一気に明るくなった。 ハレルヤ
2006.03.16. (00:37) 小説 文学 /
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 ナナはシュウ達の母親なのに、絶対側に近寄らない。 でもシュウはナナを慕う。見ていて可哀相になるが、 ナナにもいろいろ事情があるのだろう。 猫の世界は私らにはわからないことだ。 ただ、親子だから顔が似ているだけに 悲しいなと思う。 1 2 3 4 5 6 (続ママの店) 「何?」 ママはトランプを持ったままニッコリと笑う。 今日のママは機嫌がよさそうだから、 私は例の暗いス−パ−のことを聞こうと思った。 「あのさ、うちの近所にあるス−パ−なんだけど なんか暗くてさあ・・・私もあっちこっち出かける けど、あんな暗い雰囲気の所は珍しいよ。 こちらの世界は何でもかんでも派手で、カラフルで 明るいってイメ−ジがあるから、よけいにジメジメ しているように思うのかもしれないけどね」 ママは、トランプをテ−ブルの上に置き、 私の顔をじっと見ている。 気のせいかの顔が少し暗くなった気がする 「えっ、どうしたの?何か変なこと言っちゃったかな」 私はドキドキしながらママの様子をうかがう。 「あのね・・・」ママがゆっくりと口を開いた。 「あちらの世界で自分がしていたことを、 こっちに来てからもしたがるのは、 生きていた時の 自分のままであり続けたいからよ」 「えっ、どういう意味?ちょっとわからない」 私が首を傾げると、 中田先生と犬山さんも身を乗り出してきた。 「つまりね、死んだ人にとっては食事も仕事も、 本当はもう必要ないんだけど、 それをやめてしまったら 自分を見失ってしまいそうで怖いの。 そんなことをしても、 生きていた時の記憶に しがみついているだけなんだと、 わかっていても止められないのね、 だから暗いの」 こちらの世界の住人になっても、 過去にあった自分の生活を崩したくない。 でもそれが、 どんなにむなしい事か知っているから、 あそこの人達は暗かったんだと、 私は今ようやく理解が出来た。 「みんなそうですよ、 私だって生きていた時と同じでいたいです。 幽霊生活をエンジョイ出来れば幸せなんでしょうが、 そんなことは無理な話です」 犬山さんがしみじみとした声で言う。 「私もまだ、この白衣を脱ぐことが出来ないんだ・・・」 中田先生がテ−ブルに額をくっつけ、 両手で頭を抱えてつぶやいた。 先生まで暗くなってしまったじゃないか、 私はよけいなことを言ってしまった自分を呪いたくなった。 ハレルヤ
2006.03.15. (00:52) 小説 文学 /
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 チャオはブチ、クロ、チャコの兄弟なのだが、 いつもはみ出ている。原因は食事の時 異常にパワフルになるブチ達に、 ご飯を横取りされてからノイロ−ゼ気味で、 誰彼なしに殴る為相手にされなくなった。 可哀相だが、どうしようもない。 1 2 3 4 5 (続ママの店) 昭日町(あけびまち)の自宅にいた。 机に向かって勉強しようとしても、 いろいろな思いが頭を巡り、集中出来ない。 こういう時は気分転換に外を散歩するのがいい。 海に出ようか、それとも買い物に行こうか・・・ 冷蔵庫を覗くと何も無い。 こりゃ買い物に決まりだなとつぶやいて外に出た。 空からピンク色の雪が降ってくる。 本当にこの世界にあるものはすべてカラフルだ。 それなのに、今から行くス−パ−は 何であんなに暗いのだろう・・・ 店内が暗いというのもあるが、 肉も野菜も果物もみんな新鮮なのに、 買い物をする人と、品物を売る人の顔に生気がない。 外に立っているガ−ドマンはまるでロボットみたいだ。 そりゃあ、ここは死んだ人の世界だが、 他の人達は結構楽しく暮らしているじゃないか。 とにかく、このス−パ−の暗さが 私はたまらなく嫌なのだ。 そうだ、買い物なんてどうでもいい。 ママの店に行こう。 私はス−パ−に行くのをやめて、 ママの店に足を向けた。 「あら、いらっしゃい」 ママがニコニコしている・・・ 何かいいことがあったのかな、 そう思ったらいきなり、 「トランプやろ」 ゲッ・・・それがしたかったのか。 「べつにいいけど、あのさあ・・・バツゲ−ムは」 止めとこうと言いかけると、 「もちろんアリよ」と言われてしまった。 こういう時はまたあの二人が参加するに決まっている。 私は青白い人魂が浮かんでいないか 辺りを見回したが、それらしき物はどこにもなかった。 珍しいことに二人がいない・・・ 「あれっ、中田先生と犬山さんは来てないの?」 「おりますですよ・・・」 テ−ブルの下からいきなり顔がぬっと出た為、 私はソファ−ごと後ろにひっくり返りそうになった。 「いっ、犬山さん、びっくりするじゃないですか!」 私は思わず大声を出していた。 「すみませんねえ・・・、コントロ−ルが難しいんですよ。 まだこちらに来て日が浅いものですから、 どうやって現れたらいいかわからなくて・・・」 犬山さんは申し訳なさそうに頭を下げる。 ママは依然とニコニコしている。 「じゃあ中田先生も一緒だろ」 私は犬山さんを押しのけて机の下を覗き込んだ。 誰もいないなと思った瞬間背中から 「よおっ!青年、僕はここだよ」 いきなり声を掛けられて、私は二度びっくりさせられた。 「もう・・・中田先生びっくりするじゃないですか。 やめてくださいよ二人とも」 すまんすまんと中田先生が頭を掻いてあやまる。 犬山さんも苦笑いしながら頭を下げている。 ママはケラケラ笑うし、 私は何か面白くない・・・ はずなのに何故か笑いがこみあげて来る。 お腹の皮がよじれるくらい笑いながら、 私は心の中で繰り返す。 ママの店に来てよかったと。 ハレルヤ
2006.03.14. (00:51) 小説 文学 /
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 シュウの足はやっと痛みが無くなったようで、 今日は少し走ったりしていた。でも、他の猫が来ると やっぱり不安らしく、台所にいる私の足元から離れない。 よっぽど痛かったんだと思うと可哀相でならない。 しかし、シュウばかり気にしていたら、 今度はどの猫が怪我や病気をするかわからない。 数が多いと大変なのだ。 1 2 3 4 (続ママの店) 犬山さんも中田先生も、 あちらの世界から見ると もう死んでしまった人達だ。 いつも一緒に話をしたり、 飲んだり食べたり遊んだりしているから、 死んだ人という実感がなかった。 しかしそれは、 私だけが思っていることで、 二人にとって私は あちらの世界から時々やって来る ビジタ−にすぎない。 中田先生も犬山さんも、 どんなにあちらの世界が懐かしくても、 もう決して戻ることが出来ないのだ。 死んでしまった人よりも、 残された者のほうが辛いとよく言うが、 それは本当だろうか。 生きている人達は日々の生活に追われ、 いつまでも死んだ人のことを悲しんではいられない。 あちらの世界では、 時が悲しみを風化させてくれるけれど、 死んだ者達に与えられた永久の時間は、 残して来た者達への思いを 決して忘れさせてはくれないだろう。 ここは死者達の世界だ。 そしてママも・・・ 中田先生や犬山さんと 同じ世界にいるのだということを 私は忘れてはいけなかった。 ハレルヤ
2006.03.13. (00:36) 小説 文学 /
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 シュウは今朝からリビングデビュ−です。 でも、他の猫が側を通ると不安なのか 私の顔を見つめ、ニャ−と鳴いて助けを求めます。 結局ほとんど抱きっぱなしになりました。 足もだいぶしっかりと歩けるようになり、 もうすぐ走れるようになると思います。 1 2 3 (続ママの店) 悪夢から覚めると現実に戻るのが普通だが、 時たま目が覚めずに、 夢の中の世界を移動するだけのことがある。 自分が居心地の良い場所に行けさえすればいいので、 それが必ずしも現実の世界だとは限らない。 私にとって居心地の良い場所とは、 同じ夢の中に存在する ママの店に他ならないのだ。 「そんな言い方しなくてもいいじゃないか。 本当に死ぬかと思ったんだから・・・」 私はママを恨めしそうに見た。 「確かに、 恐ろしい夢を見た為にショック死をする場合がある」 中田先生が私の味方をしてくれようとしている。 「そりゃあ・・・そんなことになったら大変だわ。 だから助けてあげたんじゃない」 ママに言われなくても、 そのことについては私も感謝している。 あの時ママの助けがなかったら、 今頃どうなっていたかわからない。 「そうですよね、もしものことがあったら ご家族がどれほど悲しまれるか・・・」 犬山さんが寂しそうな顔をする。 犬山さんは、奥さんと娘さんを残して死んでいる。 でも正直なところ、私はべつにこのままママ達と ここで暮らすのも悪くないなと思い始めていた。 いや、むしろこの世界にだけ住みたいかもしれない。 今日一日の仕事をこなす為に目を覚まし、 疲れた体を癒す為に眠る。 一生が後どのくらい残っているのかわからないが、 多分何十年と同じことを繰り返すだろう。 なんだかとても馬鹿らしく思えてくる。 「あんた今、あっちの世界にバイバイしたいなんて 思ったんじゃないでしょうね」 ママが意地悪い顔をする。 よくわかったねえ・・・と思いながら、 「そんなことは思ってない、絶対ない」 私は首をブンブン振る。 「あの・・・」 今まで黙っていた犬山さんが口を開いた。 「どんなにこっちの世界が快適であっても、 私はあっちの世界で妻や娘ともう一度暮らしたいです。 生きていたときは一人で食事をしていました。 もちろん自分が悪かったんです。 だから・・・今度こそ、 もし生き返ることが出来るなら・・・私は 家族と一緒に食事がしたい」 犬山さんの目から涙があふれ出る。 ママが犬山さんの背中をさすり、私を見る。 「生きていたくても、死ななきゃならない人もいるの。 あんたはまだ生きていられることを感謝しなくっちゃ いけないのよ」 「だからさ、私は死んでもいいなんて言ってないでしょ」 私は慌てて否定した。 ひょっとしてママは私の心がお見通しなのでは・・・ 「そう・・・そうよ、生きなきゃダメ。 私達のぶんまで生きてほしいのよ」 ママは何故泣いているのだろう、 犬山さんに同情しているだけではなさそうだ。 中田先生も目尻を押さえている。 私はとても不思議な気分になっていた。 ハレルヤ
2006.03.12. (00:47) 小説 文学 /
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 シュウの足は少しづつ回復に向かっている。 今ここで部屋をウロウロさせたら、また追いかけられて 飛び上がり、昨日のようになりかねない。 だから、トイレに行く時もつきっきりだ。 そんなに見られちゃ落ち着いてオシッコ出来ないよ・・・ そう思っているだろうな。 でも、もう少し我慢我慢。足が治ったら、 いっぱい走らせてあげるからね。 1 2 (続ママの店) そうだ、これは夢なんだ。 だから出ようと思えば出口は必ず現れる。 そう心に念じようとすると、 肉壁がまるで逃がすものかと言わんばかりに、 消化を急ぐように伸縮を始めた。 ぐぐっと収縮するたびに、黄色い液体が ぶしゅっという音をたてて放出される。 その繰り返しが次第に激しくなり、 瞬く間に消化液が足首のところまで満ちてきた。 これはやばい、足から溶けていく。 何とかしなくてはと焦るのだが、 出口は依然見つからない。 本当は出口がちゃんとあるのだが、 見えていないだけかもしれない。 私は半ばヤケクソになり、 目を閉じたまま手探りで出口を探すことにした。 ぬらぬらとぬめる 熱を帯びた肉の壁を触りながら歩いて行くと、 いきなり誰かに手を掴まれた。 そのまま前のめりに引きずられたと思ったとたん、 鼻腔から新鮮な冷たい空気が入り込んでくる。 あ・・・空気がおいしい・・・ 出られたんだ・・・ 喜びを感じながら目を開けると、 そこは懐かしいママの店だった。 私を心配そうに見ている面々は、 ママと犬山さんと中田先生だ。 「お帰り、大変なめにあっちゃったね」 とママがニッコリ笑う。 私を引っ張り出してくれたのは、 どうやらママだったみたいだ。 「悪夢に囚われていたんだね・・・怖かっただろう」 中田先生が私の顔を覗き込む。 犬山さんも、良かった良かったと言ってくれた。 「あんた、どんな場所にいたの?」とママが聞く。 「まるで動物の胃の中にいたみたいだった」と私。 顎をひねりながら何か考えていた中田先生が、 いきなり人差し指を一本立てて、 何かひらめいた仕草をした。 「君、今胃が悪いんじゃないか、 何か食べ過ぎたとかしていないかい?」 そう言えば、思い当たることがある。 私はあちらの世界で 冷蔵庫に残っている材料で多量の焼き飯を作り、 満腹状態で昼寝している。 「原因は焼き飯と昼寝だ・・・」 私がそうつぶやくと、 「大飯を食らって昼寝をした挙句、悪夢を見た。 そんなことだろうと思ったわ」 ママの目が冷たくなった。 ハレルヤ
2006.03.11. (00:42) 小説 文学 /
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 シュウの足がだいぶ良くなったので、 今日初めてケ−ジから出て歩いたのだが、 たちまち他の猫に追いかけられてジャンプしてしまい、 また歩けなくなった。 ションボリと寝ているシュウが可哀相で、 我が家の猫がどうしょうもないバカに思えた。 傷ついた仲間を労わる気持ちなど 全然ないのだ。 1 (続ママの店) ママの店に行った。 ドアを開けようと取っ手を握ったとき、 何故かとても重く感じた。 いつものカラ〜ンコロ〜ンも鳴らないし、 中も何故か薄暗い。 「ママ・・・あれっ」 ママがいない。 休業日かなと一瞬思ったが、 ママが店を休むなんて今まで一度もなかったことだ。 そういえば鍵も掛けていなかったし、 これはおかしいなと考えていると、 急に激しいめまいが襲って来た。 部屋がドクンドクンと波打ち始め、 圧縮された空気が一気に肺の中に流れ込む。 苦しさのあまりに胸を押さえて目を閉じたのだが、 次に目を開けた時、私の目の前に 恐ろしい光景がひろがっていた。 いつもならそこに、 落ち着いたエンジ色のストライプが入った壁がある。 それが今目の前にあるのは、 生臭い臭気を発している赤黒い肉の壁。 しかも表面にある無数の小さな穴から、 じわじわと黄色い液体まで滲み出ている。 ここは胃だ。 私は何か得体の知れない生き物に 食われてしまったのだ。 このままじっとしているわけにはいかない。 いつまでもここにいると、この黄色い 消化液に溶かされてしまうだろう。 私は肉壁の中をぐるぐると歩き回り出口を探した。 しかし、いくら探しても出口は無く、 もはやこれまでとあきらめかけた時 「あんたは悪夢をみているのよ。 これは夢だと気づきなさい。 出口はあんたの目の前にあるの、 よく見て! 私が手を伸ばしているのが見えるはずよ」 頭の中でママの声がした。 ハレルヤ
2006.03.10. (00:51) 小説 文学 /
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 シュウは まだ足が痛むようで今日はケ−ジに入ったままだ。 先生から頂いた抗生物質を飲ませると 胃が荒れるのか吐く。 栄養も取れないし、苦しそうだから 飲ませるのを止めた。 牛乳も飲めているし、きっと明日は元気になる。 ママの店6(続ママの店) 今日学校に行くと、二時間目が休講だった。 ママの店に寄らないで真っ直ぐ帰って来ると、 家の前に郵便屋さんがいた。 「ご苦労様 私に手紙ある?」 「ありますよ。はい、」 郵便屋のお兄さんはニコッと笑って手紙を差し出した。 そして 思い出したように 「さっき浜辺で、猫が一匹気持ち良さそうに 寝ていましたよ」と海岸の方を指差す。 へえ・・・と思って首を伸ばして見ると、 見覚えのある灰色の大きな猫が、 砂の上に寝そべっている。 青い空と静かな海、 その猫は真っ白い砂の上で 眩しそうに顔を上げた。 思い出した・・・ あの猫は、私の猫だ。 あちらではもう、決して抱くことが出来ない 私の大切な猫なのだ。 生きている者しか存在しない世界と、 死んだ者が生きている世界、 両方を行き来することが出来る私は 何て幸せなんだろう・・・ 静かな感動に包まれて、ボ−ッとしている私の横で、 何故か郵便屋のお兄さんも遠い目をして 海の方を見ている。 「次の配達はもう無いの?」と聞いた。 「いえ、まだあります。でも・・・ 急がなくてもいいんです。 ここでは時間がたっぷり用意されていますからね。 あっ、良かったら後ろに乗ってみませんか」 自転車の荷台には、さっきまで確かにあった 郵便物の入った箱が無くなっている。 そうだ、乗せてもらおう・・・ 久しぶりに海岸沿いを走り、清々しい風を感じてみたい。 「じゃあ、乗せてください」 私は郵便屋のお兄さんと自転車に乗って、 今海岸沿いを走っている。 海を眺め、空との接点を確かめる。 しかし、海は空の色と溶け込んで、 どこまでが海で どこから空が始まるのかわからない。 曖昧で不可解で、美しい世界だ ハレルヤ
2006.03.09. (00:52) 小説 文学 /
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 (続ママの店)はHPにupしました。 そちらのほうが読みやすいと思いますのでご覧ください。 ママの店6 シュウは、一晩たっても元気がない。 夜中に吐いて、一緒にケ−ジで寝ているカスガに 散々意地悪をされていた。 湯たんぽに乗せてもらえないのだ。 いつも思うのだが、どうして猫どもは体の弱っている 仲間のことをいじめるのだろう。 いたわるという優しさが無いように思える。 それも、多頭飼いのせいなのだろうか。 そのくせ死を恐れるみたいで、 ゴンが死んだ時、遺体に絶対近寄らなかった。 でも、ナナだけはゴンの遺体に寄り添って 最後の別れをしていた。 ナナは昔ノラだった。死というものが きっと身近にあったのだろう。 ナナは子育てを途中で放棄したが、 あんなバカ息子や娘、ほったらかしにされて 当然な気がする。 ハレルヤ
2006.03.08. (09:45) 小説 文学 /
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 (続ママの店)はHPにupしました。 そちらのほうが読みやすいと思いますのでご覧ください。 ママの店6 今日の昼、猫達の写真を撮りまくっていたのだが、 シュウちゃんが何故かいつもより 可愛いポ−ズばかりする。 もともとこの子は写真が好きで、 可愛い格好をしてくれるのだが、 それにしても今日は私の顔ばかり追うし、 片足を上げて ニャアニャア鳴きたおす。 でもまあ、撮らねばソンとばかりに カメラに収めたのだが、夜大変な騒動になった。 夕食の用意をしているとき、 シュウの妙な姿が目に入った。 右足を上げて全身をプルプル震わせている。 どうやら足が変になったようだ。 しばらく様子を見ていたがだんだん不安になってきた。 シュウの目が涙で潤んできたとき、 もう我慢が出来ずに病院に電話した。 嬉しいことに院長先生が出てくださって、 事情を説明すると今すぐつれて来いとのこと。 シュウをバスケットに入れて自転車の後ろに積み 病院にすっとんで行った。 診察時間はとうに終わっているのに、 我が家は多頭飼いの為 いつも親切に診てくださるのだ。 ゴンが末期の時も、正月なのに休みもせず、 毎日点滴をしてくださった。 それで、いろいろ調べてもらったのだが、 どうも猫どうしで喧嘩して、 足に他の猫の爪が突き刺さっていたらしい。 抗生物質の薬を頂き、 「今度から、一晩様子を見てからつれて来てね」 と苦笑いされてしまった。 ゴンやブチの病気が頭に残っていた為 シュウも大変な状態になっているのではと、 焦ってしまったのだ。 先生にはいつも申し訳ないなとおもいつつ、 我が家は毎回こんな騒ぎを起こしている。 院長先生に感謝。 ハレルヤ
2006.03.08. (00:50) 小説 文学 /
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 ブチはクロと同じ年で、もう十一歳になるのに 今だ手を吸う癖がある。人間の子供で言うと 指吸いみたいなものだ。 吸い過ぎると血が滲んで痛そうだから 止めさせたい。どうすればよいのだろう。 兄弟とはよく似たもので、うっかりすると チャオがブチの手を一緒に吸っていたりする。 困ったものだ。 1 2 3 4 5 6 7 8(続ママの店) 美術科がある校舎は、すぐ目の前にあった。 教授の部屋は確か五階だ。 我々はエレベ−タ−に乗り五階で降りた。 ここには用具置き場と教授の部屋がある。 我々は目指す教授の部屋に直行した。 ドアに名札が掛かっている。 海原と書いてある。 そう、確かにウナバラ先生の部屋だ。 私はこの前ここに来たことがある。 「海原先生、いらっしゃいますか?」 ドアを叩いて呼びかけても返事が無い。 宮下刑事が体当たりしてドアを開けると、 我々は一気に部屋の中へ飛び込んだ。 部屋の中に見覚えがあった。 正面に窓があり、 そこからさっきまで我々がいた フリ−ジャ−の植え込みが見えるはずだ。 その窓の側、 本も書類もきちんと整理された机に 海原先生がもたれ掛かるように死んでいた。 遺書と書かれた白封筒が机の上に置かれてあり、 その横に空になった薬ビンが倒れている。 宮下刑事は先生の目をライトで照らして見た。 次に腕を取り、脈拍があるかどうか確かめて、 静かに首を振った。 海原先生・・・私は胸が熱くなった。 宮下刑事が遺書を読み始める。 「私はもっとも大切な友、 山田恵一郎君を殺してしまいました。 山田君に私の作品をけなされて、 カッとなってしまったからです。 山田君をモデルにした彫像は私の力作でした。 心を込めて造った為、 自分でもかなりの作品になったと 思っていたのですが、 山田君が私の交友関係を誤解して 彫像を壊した挙句に、 こんなヘタクソな作品のモデルだなんて 思われたくないとまで言いました。 私は悲しかった。この世で一番大切な山田君に そういう暴言を吐かれるなんて思いもしませんでした。 すべて誤解から始まったことです。 私は誓って山田君以外に心を寄せる人などおりません。 しかし、はずみとは言え、私は山田君を殺しました。 もう生きてなどおられません。 私も彼の後を追おうと思います。 フリ−ジャ−の花は山田君が好きだった花です。 その花で布団を作ってあげたら、 彼も私を許してくれるかもしれません。 私によくしてくださった方々、また生徒の皆様、 私が犯した恥ずべき犯罪をお許しください。 海原慶呉 」 読み終わった宮下刑事は、軽く握った手を口に当て、 ゴホンと一つ咳払いをしてから説明を始めた。 「つまり害者の山田氏と、海原は恋愛関係にあり、 なんらかの事情で、海原が浮気をしたと 勘違いした山田氏が、怒って彫像を壊した。 それでカッとなった海原が山田氏の口に 彫像の腕の部分をねじ込んで死なせてしまった、 と まあ、そういうことですな・・」 海原先生は大柄で立派な体格をしている。 腕力も相当な物だろう。 殺された山田君は、ほっそりとした 女性的な体つきだったように思う。 海原先生が本気で怒ったら、山田君などすぐに死んで しまうだろう。 それに、たとえ先生一人でも、 死体があんなに華奢な体だったら 下に運ぶのはたやすいことだ。 それにしても恋愛関係だなんて、 二人とも男・・・まいったな・・・ と思っていたらママが 「一件落着ね、宮下刑事」 と笑いながら言った。 宮下は険しい顔をしながらも、ママに 「あなたの想像力はたいしたものだ。 ご協力感謝します」と頭を下げる。 その時携帯の着信音が鳴り出した。 宮下が懐から携帯を出す。 「もしもし、宮下ですが・・・えっ? 六丁目の交差点で殺しが・・・はい、 今からそちらに向かいます」 宮下は電話を切ると、私とママに、 「それではまた・・・」と軽く頭を下げて走り去る。 「えっ、あの・・・海原先生はどうするの」 彼に私の声は届かなかったようだ。 「ママ、どうしたらいいのさ。海原先生とか 例の箱詰め死体・・・」 ママは笑いながら、 「夢の中、夢の中・・・見て御覧なさい」 ママが海原先生を指差すと、先生の姿は掻き消えて、 部屋の中もいつのまにか ママの店に変わっていた。 私は口を開けたまま呆然としていたようだ。 「何だらしない顔してんのよ!早く口を閉じなさい、 よだれが垂れてるわよ」 ママの意地の悪い声で我に返った。 「よだれなんか垂れてません!それより何で こうなったか説明してよ」 ママは右の眉をピクッと動かして不機嫌な顔になった。 「だって、あの刑事さんたら、自分でどんどん恐ろしい 事件にしたてあげていっちゃうんだもの。 あれ以上怖い物みせられたらたまんないわよ。 ホラ−映画じゃないんだからね」 「それじゃ、やっぱりママが 筋書きを変えちゃったんだね」 「そうよ。 我ながらステキなスト−リ−になったと思うんだけど どうだった?」 「何がステキなスト−リ−だよ、 海原先生のイメ−ジが ものすごく気持ち悪くなっちゃったじゃないか。 どうせ死んだってのも嘘でしょ、 明日学校で会ったら どうすりゃいいんだよ・・・」 ママが声を出して笑う。 「オホホホじゃないよ、 でもまあ先生が死んでなかって良かったよ」 私のホッとした顔を見てママが首を傾げる。 「ねえ・・・海原先生って本当にいるの?」 「えっ・・・・?」 私にあったはずの海原先生に関する記憶が 少しずつ消えていく。 つづく ハレルヤ
2006.03.07. (00:27) 小説 文学 /
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 クロはとても寂しがりやで、目を合わせると すぐに飛びかかってくる。 頭をスリスリする様子が可愛く、 出来るだけ抱いてやることにしている。 クロももう十一歳だ。 大事にしてやらなくちゃ。 1 2 3 4 5 6 7(続ママの店) 内臓の損傷まではわからないが、ざっと見たところ 顔や体に目立った外傷はなさそうだ。 問題は口の中、歯が折れるほど何をしたのか。 しかも被害者は息のあるうちに 凄まじい拷問を受けたに違いない。 多量の出血と恐怖に引きつる顔が、 生きている時に加えられたものであることを 証明している。 そして、死体を花で覆いつくしたのは何故なのか。 発見を遅らす為だけではないように思えるのだが・・・ そんなことを考えていたら、向こうの方から ママがハンカチで口を押さえて戻って来た。 手に三十センチくらいの透明な棒のような物を持っている。 「ママ、大丈夫?何持って来たの」と私。 宮下刑事も鋭い目をしてママの手元を見る。 「それは・・・どこにあったんですか」 「あっちの草むらの中にあったんです」 ママが来た方向を指差す。 宮下はポケットから白いハンカチを出して、 ママの手から物(ぶつ)を受け取った。 「ガラス細工の手の部分みたいだね、 ここに血がこびりついている・・・」 宮下が慎重に検分しながら、つぶやく。 「あの・・・」ママが遠慮がちに話しかけると、 宮下がうるさそうに振り向いた。 「それはガラスではなくって、 もっと高級なものに思えるんですけど。 たとえば、水晶とか・・・」 なるほど、そう言われてみれば、この輝きと硬質感は ただのガラスなんかじゃない。 「水晶で出来た彫像の腕の部分か・・・」と私がつぶやくと、 宮下も唸って頷いた。 「一点の曇りもないところを見ると、 かなり高級な美術品ってとこかな。 親指の位置からすると、右手の部分ね」 ママはこういう物には詳しいようだ。 「この血痕が害者の物と一致したとすれば、 これが凶器に使われたということだ。 こいつで殺しといて、死体を花で埋める・・・」 宮下は何とかママの持ってきた物と、 死体の状況を関連づけようと考えているようだ。 「ねえ、こんな想像はどう?」ママがいきなり切り出した。 「犯人と被害者のいた場所に水晶で出来た彫像があった。 どちらかが 故意か過失でそれを壊してしまう。 犯人は割れて外れた腕の部分を 被害者の口にねじ込んで殺害した。 その時はカッとなって 自分のしたことがわからなかったけど、 殺すつもりは全然なかった。 自首しようかと思ったけれど、その勇気もなくて、 遺体を捨てるしかないと考える。 そんな時目の前にあった花が フリ−ジャ−だったのではないかしら。 本当はやさしい人だったのね、 お詫びのつもりで遺体を入れた箱に 花をたくさん詰めたのよ。 そして、同じ花がたくさん咲いている この場所に置いた。 ここがすぐ思い浮かぶということは、この大学の構内を よく知っている人ということになるわね。 そして芸術に関係のある人。 凶器を何の考えもなしに遺棄したのは、 計画性のない犯行だった証拠。 そして犯人は殺人を犯したことを心から後悔している。 ひょっとしたらもう自殺しているかも・・・」 構内をよく知っている人、 水晶のオブジェ・・・芸術家・・・アッ! 私はだいぶ前に何かの用事で 美術科の教授の部屋に行ったことを思い出した。 たしか、その教授の専門は彫刻だった。 部屋に水晶の彫像が飾られてあった・・・カモ。 私の目が宮下刑事の目と合った。 「何か心当たりがあるのですか?」宮下が聞いてくる。 「今から行ってみたい所があります。ひよっとしたら えらいことになっているかもしれません」 何で早く思い出さなかったのだろう・・・ 私はママと宮下刑事を連れて 美術科の教授の部屋に飛んでいった。 つづく |