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樋口裕子

  • 名前:樋口裕子
  • HP⇒ハレルヤ

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オンライン小説&出版本紹介のHP「ハレルヤ-樋口裕子-」のブログ、夢日記や短編小説など書いていく予定です。(コメントの欄に業者の方の宣伝はご遠慮願います)
 チャオand 続ママの店


食事の時の慌ただしさに怖気づき、ノイローゼになっていた
チャオも最近ようやく落ち着いてきた。
一時はイライラして他の猫に当り散らし、喧嘩を売っては
反対に殴られていた。
猫は普通引っかくものだと思っていたが、我が家の猫の
喧嘩は殴り合いと噛み付き合いだ。
早く止めないとどちらかが死に至る。

1 (続ママの店)

「行ってみましょうか」とママがつぶやく。

ママは目を閉じ、両手を広げ呪文を唱えだす。

例の儀式が始まったのだ。

私も慌てて目を閉じ、何の意味もないが手を胸の辺りで組む。
キリスト教のお祈りのような格好でいると、辺りの空気が変わった。

ここはどこだろう・・・

「ママ、もう目を開けていい ?」と聞いてみたが返事がない。
また私一人か・・・
今までもそうだったが、大抵私だけが飛ばされる。

あの女性のいる世界、つまり私の本来いるべき世界に
戻っているのだ。
しかし、今行動しているのは私の意識だけ、
これが果たして真実なのかどうかは解らない。
私が夢の中で勝手に作り上げた
出来事なのかも知れないのだ。
複雑な思いに囚われながら、私はそっと目を開ける。

寝室だ・・・見たことのない他人の部屋だ。
部屋は六畳くらいだろうか、
目の前にベッドがある。
ベッド以外には何も置いていない。
中で若い女性が寝ている。

ママと言い争いをしていた人だ。

自殺したのなら、薬とかナイフなどの
遺留品があるはずだと思い、
私はベッドの辺りを丹念に調べたが、
これと言って何も無い。
次に掛け布団をめくろうとしたが、
それは出来なかった。

忘れていた・・・

私はこの世界に飛ばされた影なのだから、
どんなものにも触れることが出来ないのだ。

仕方がないので彼女の寝顔を覗き込む。
血色もいいし、小さな寝息をたてている。
とても自殺などしたようには思えない。
おかしいなと首を捻っていると、
床下から話し声が聞こえてきた。

ここは二階か・・・下に誰かいるらしい。
私は寝室を出て、左側にある階段を降りた。

下はリビングとキッチンになっており、
初老の夫婦と、息子かと思える男性がソファーに座り、
深刻な顔を突き合わせて話しをしている。

「洋子さんはやっぱり病院に入れたほうがいいと思う」
母親が冷たい声できっぱりと言った。

息子は下を向いて黙り込んだままだ。
母親の突き刺すような言葉が続く。
「あの人自分の生んだ子が可愛くないのかしら。
 いくら薬の副作用だとしても、
 自分の子供を殺そうとするなんて最低よ」

「病院と言ったら精神病院だろ ?
 そんな所に洋子をいれるだなんてあんまりだよ。
 だいたい母さんが洋子に辛く当たるから、
 薬に頼らないと眠れなくなったんじゃないか」
恨めしそうな顔をして息子が言うと、
一瞬にして母親の目が吊り上がった。

「じゃあ何かい ? 私が洋子さんを変にしたって言うのかい ? 」

「今はそんなことを言ってる場合じゃないだろ ! 」
父親が一喝した。

母親は怒りがおさまらずプイッと横を向く。 

「とりあえず、やっちゃんはわしらが預かる。
 お前は洋子さんと出来るだけ一緒にいてやるんだ。
 いいか、目を離すと死ぬぞ。
 台所に包丁を置いておくなよ」

「そりゃあんたは好きでもらった嫁さんなんだから、
 殺されたって本望でしょうよ。
 でも、私はどうなるのよ。
 この年になってもう一度子育てかい」

このクソババア、
どれだけ嫌味を言えば気がすむのだろうと、
私はだんだん腹がたって来た。

「もうやめろ、道雄もよくわかっているはずだ。
 そうだな、道雄」父親の方は物分りが良さそうだ。

彼女の夫は道雄と言うらしい。

道雄さんは無言のまま頷き、

「それじゃ靖男を連れてくるよ」
と言って二階に上がって行った。

息子がいなくなると、
待ってましたとばかりにババアが夫に噛み付いた。

「私が嫁いびりをしたからああなったなんて、
 とんでもない言いがかりだよ。
 あんたも一緒になって私ばっかり責めるけど、
 あんな頭のおかしい嫁」

「やめないか ! 」
夫の顔が怒りに震えている。

それを見てババアは黙ったが、完全にふて腐れている。

こんなババアにいびられたら死にたくもなる。
私は洋子さんが不憫に思えてならなかった。

やがて二階から、道雄さんが赤ん坊を抱いて降りて来た。
ふかふかした柔らかそうなタオルに包まれて
すやすやと眠っている。

ババアは、ぶつぶつと文句を言いながら赤ん坊を受け取り、
夫と一緒に帰って行った。
両親を見送った後、
二階に上がって行く道雄さんの顔が、
何かを思いつめているように見える。

私はとても悪い予感がした。
2006.04.01. (23:41) 小説 文学 / TRACKBACK(-) / COMMENT(-) /
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