
ナナはいつも長女と寝ている。長女は一泊旅行に出かけ、
今夜はナナのヒトリ寝だ。
猫には旅行なんて解らない。「姉はいつ帰る・・・」
玄関と部屋を行ったり来たり・・・
まるで忠犬ハチ公みたいで可哀相だった。
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「で、それからどうなったのよ」
ママがうるさく私に聞いてくる。
「だからさあ・・・あの後すぐにこっちに
戻っちゃって、それからどうなったなんて
知らないよ。
私よりママの方が何でもお見通しだから
良く知ってるはずでしょ 」
私は冷たく突き放す。
無理も無い。さっきからママに
何回も聞かれてうんざりしていたのだ。
しかしママが私の態度を許すはずがない。
思った通り、しっぺ返しはすぐに来た。
ママは腕組みをして
右の眉を上げ、
意地悪い顔でほくそ笑む。
「そうよ、私は何でも知ってるわ。
刈谷君は無事よ。
あの後、満知子さんが救急車を呼んで
無事病院に運んだの。
もちろん彼女がピッタリ寄り添ってね」
あんまり自慢げに言うものだから
さすがに私もカチンときた。
「ほらあ、ちゃんと知ってるじゃないか。
私をからかってたんだろ」
私がブスッとした顔をしたので、ママは
反省どころかますます悪い顔になった。
「あんたがちゃんと
二人の心の中まで見てきたかどうか、
テストしてあげたんじゃない。
ここの世界であんたが経験することは
みんな勉強させて頂いてると思いなさい」
ママが完全に怒り出したので私はうろたえた。
「わかりました。私が悪うございました」
何で私が
あやまらないといけないのかと思ったが、
ママには到底勝てっこないことを
私は知っている。
「わかりゃあいいのよ」
ママは満足そうに笑い、
「じゃあ、コーヒー入れてきてあげる」
いきなり機嫌が良くなった。
そんなことはさておき、
私は是非中田先生とママに
聞いてみたいことがあった。
あの時刈谷君は確かに
何回も『田中満知子』と胸に刻んだ。
私はこの目で見ていたのだ。
それが何故
『満知子愛してる』に変わっていたのだろう。
ひょっとしてママがやったのだろうか・・・
「ママ、刈谷君が胸に刻んでいた文字を覚えてるよね」
ママはちょっと考えるような仕草をしたが、
「ここに現れた時に見ただけだけど、
どんな文字だったかまでは血がこびりついていて
わからなかったわねえ・・・
それがどうかしたの」
ママの仕業じゃないようだ。
中田先生ならどう考えるだろう。
「先生じつは、最初彼が胸に刻んだ文字は
『田中満知子』 だったんだ。
それが、彼女が現れたとたん
『満知子愛してる』に変わっちゃってた。
どういうことなんだろう・・・」
私がそう言うとママが
「あんたの見間違いじゃないの ? 」
と疑わしい目をする。
冗談じゃない、私は見間違いなどしていない。
「多分それはだね」
ママと私の視線が中田先生に集中する。
「刈谷君は満知子さんのことを愛していた。
だから、彼女に結婚すると告げられて
もの凄いショックを受けたんだ。
振られた腹いせに
彼女の名前を刻んだんじゃ無くて、
何故もっと早く
本心を伝えておかなかったんだろうと
自分を責めたんだ。
あの時刈谷君の胸の中は、
彼女への思いでいっぱいだった。
だから、伝えられなかった言葉を
せめて胸に刻み込もうとしたんだ。
君の目には憎しみを込めて
『田中満知子』と刻んだように
見えたんだろうけど、
それは君がそう思い込んでいただけで、
実際は 『満知子愛してる』 だ。
刈谷君は命がけで満知子さんに
自分の思いを伝えようとしたんだよ」
〜つづく
ママの店9
2006.05.01. (00:04)
小説 文学 /
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