オンライン小説&出版本紹介のHP「ハレルヤ-樋口裕子-」のブログ、夢日記や短編小説など書いていく予定です。(コメントの欄に業者の方の宣伝はご遠慮願います)
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 このシュウの顔がたまらなく好きだ。もう八歳にもなろうというのに シュウは子供の頃から少しも変わらない。親バカちゃんりんでそう思う だけなのかもしれないが、私にとってはどの猫も皆まだ子猫だ。  いつもなら、このスペースには晩御飯の写真を載せることにしている。 しかし夏になると私の食欲は激減し、写真に撮ったところでそれを 食べるとは限らないのだ。今日も家族はオムレツとサラダ。 ヒジキの煮物とちゃんと食べたが、私は冷やしうどんですませた。 昔はこんなことはなかった。何でも好き嫌いなく夏でも冬でも モリモリ食べることが出来た。 いつからこんなふうになってしまったのだろうな・・・ 1 2 「ママの店」 どれくらいの間私は眠っていたのだろう・・・ しかし何の夢も見た覚えがないし、 ただ、ポッカリと目が開いて、周りの景色が見えたと いうだけの感覚しかないのだ。 眠るというより意識を失くしていたといったほうが 適当なのかもしれない。 しかも今回は何処かにトリップしたわけでもなさそうだ。 私はまださっきと同じ場所にいる。 違っているのは空の色が紺碧から薄い青になり、 エメラルドグリーンだった海が紫に変わっていることだけだ。 今何時頃なんだろう・・・ ここに来た時はまだお昼にもなっていなかった。 いつもなら腕にはめている時計も 今日は学校に行かないからしてきていない。 とはいっても過ぎた時間を計るのだけが目的であれば、 こちらの世界の時計はまったくもって役にたたないのだが。 あちらの世界では右回りにしか進まない針が、 こちらでは左回りにも進んでいく。 つまり、あちらの世界では未来に向けてしか時を刻まない針が、 こちらでは過去に向かって時を刻みだすことがあるということなのだ。 時間があって無い世界に私は存在している。 ただ考えられることは、三時間は寝ていた。 空と海の色がそう物語っている。 青い空はやがてピンクになり、海は黒に変わっていく。 それがこの世界での夕暮れなのだ。 しまった・・・ママとの約束を破った。 待ってるからね、と言ったママの顔を思い出す。 それじゃ、ひょっとして 海が黒ずんでいるのはママの怒りのせい・・・ 思ったとたんに身震いをしてしまった。 しかし、何であんなに悲しかったのだろう、 いや、あれは悲しみというよりも苦しみだった。 ママが声をかけてくれたから良かったものの・・・アレ ? あっそうか・・・ 私が苦しんでいるときママが声を掛けてくれたんだ。 それなら私が店に戻れなくても、怒っているはずがない。 海の色が変わっているのはもう夕方に近づいているからだ。 ママのことは解決できたが、あの苦しみだけは思い当たることがない。 考えても考えてもわからないのだ。 記憶のかわりにしこたま溜息を吐き出し、 背中の砂をはらい落としながら、私はようよう腰をあげた。 今から両親の店に行こう・・・・ 何故か急に親の顔が見たくなっていた。 〜つづく (ママの店12前編) (ママの店12後編)その他の作品紹介
2006.06.30. (00:11) 小説 文学 /
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 ブチはいつも何かを考えているような顔をしているが、案外何も さほど考えてもいない気がする。温和でめったに喧嘩もしないし、 引っかいたりもない。ただ、ダッコしている時いきなり喉を噛まれた ことがあり、それ以来出来るだけ顔を近づけないようにしている。 頚動脈でも食いちぎられたら、それこそスプラッターホラーだ。 悪気がないのはわかっている。でも何故噛むのかがわからない。 ちなみに兄弟であるクロも噛み付くくせがある。 噛まれた瞬間引くと傷が深くなると言われるが、 噛まれてじっとしておれなんて無理な話だ。  我が家の猫達の食事だ。十二皿のご飯に鰹節をまぶし、 魚の缶詰を添えるのだが、一日二回毎日だから これがまた大変な作業だ。まるで給食だなと思う。 この後人間の食事の用意があるのだが、 力が尽きて作る気がなくなる。主人と子供だけ食べさせておけば 私なんかどうせ家にじっといるだけなんだからべつに何でも かまわないじゃないかと思ってしまうのだ。 そしてだんだん食欲がなくなり、恐怖の夏バテが始まる。 1 「ママの店」 ママの店を出てから、まずどこへ行こうか迷ったが、 とりあえず浜辺に行ってそれからということにした。 店を出て右に行くと広い車道がある。 それを向こう側に渡るともう浜辺なのだ。 歩きながらもずっと考えていた。 昭日町に来てからもうだいぶ長いが、 私の行動範囲は限られていて、一番遠いところで 電車に乗っていく大学。 それも、授業が終われば寄り道せずに すぐにまた同じ電車に乗って帰ってしまう。 学校の周りにも昭日町と同じように公園もあれば商店街もあり、 映画館などの遊戯施設、公共施設があるに違いない。 人によっては自分の住んでいる町の隅々まで知っていたりするが、 また一方では会社や学校と、自宅の往復だけで 日々終わっている人もいる。私はたぶん後のほうだろう。 浜辺に腰をおろし目を閉じる。 ザーッという波の音に心の隅々まで洗われて、 涙が頬を伝い落ちていくのがわかる。 その涙の理由を考える間もなく、 いきなり心臓をわし掴みされるような苦しさに襲われ、 私は砂の上に両手をつき、激しく咳き込んだ。 砂を握り締める拳に涙がとめどなく滴り落ちて、 慟哭が、これでもかこれでもかと胸の奥底から突き上げてくる。 苦しみに耐えようと、必死にもがいていると、 頭の中にママの声が聞こえてきた。 「何を我慢しているの、心ゆくまで泣けばいいのよ。 苦しむことは何もないの、 ここでは誰もあんたを咎めないし笑いもしないわ」 ママの声を聞いて安心したのか、 私の苦しみは潮が引くように消えてゆき、代わりに どっと疲労感が押し寄せてきた。 「ママ、もう疲れちゃって泣く力もないよ・・・」 砂の上に大の字になり、空を見上げてつぶやいた。 白い羽をキラキラと銀色に光らせた鳥の群れが、 紺碧の空をゆっくりと進んで行く。 ぼんやりと眺めているうちに やがて私は深い眠りに落ちていった。 〜つづく (ママの店12前編) (ママの店12後編)その他の作品紹介
2006.06.29. (00:49) 小説 文学 /
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 我が家の猫達の中でチャコだけに発情期が訪れる。前にも書いたが そのときはモレーツに機嫌が悪くなるので、チャコがドラ声で鳴き始めると我が家の猫どもはみんな目を合わさないようにソッポを向く。 皆に無視されて一人ぼっちで床にひっくり返り、前足で耳をこすっている姿はちょっと可哀相だ・・・  「ママの店」 ママの店に行った。 「あら、いらっしゃい今日は早いわね。学校サボったわね」 ママが意地悪い声を出す。 「ちがうよ、今日は授業を取ってない日なの」 私は少しプンプンと怒ったように言い、口を尖らせた。 いつもの席に座ると、コーヒーを盆の上に乗せたママが イソイソとやって来て私の横に座る。 「で、解決したの ? 例のお婆さんのこと・・・」 ママは目をクリクリさせて私が話すのを待っている。 ハハーン・・・本当はそれが聞きたかったんだ。 私は吹き出しそうになるのを堪えて、 コーヒーを一口飲んでから私が見た一部始終をママに 報告した。そして最後に、 「二人はとても幸せな再会を果たしたよ」と付け加えた。 ママは、そう・・・と言って満足そうに微笑む。 「奥さんは上、主人は下にいた。 会おうと思えばいつでも会える距離なのに会えなかった 二人とも会いたくてたまらなかったのに何故なんだろう」 私がそう言うと、 「物事にはキッカケが必要なのよ。豊がそのキッカケを作って あげたというわけね」 ママが目を細めて私を見ている。とてもやさい顔だ。 私はあの二人の話の他に、自分にかんすることで いろいろママに聞いてもらいたいことがあった。 その気持ちは今朝目が覚めて、ここに来るまで確かにあった。 でも今は、何故かもうどうでもいいような気になっている。 コーヒーを飲み終わった私は、久々にブラブラとあちこちを 歩いてみようと思っていた。 「ママ、ちょっと用を思い出したから今日は帰るよ」 そう言うと、ママはちょっぴり残念そうに 「あら・・・もう帰っちゃうの、もう少ししたら 中田先生達が来るから久し振りに皆で トランプでもしようかと思ってたのよ」 私はトランプと聞いただけで一刻も早く脱走したくなった。 「あ、そうだったの・・・いやあ、僕もやりたいんだけど ちょっと急ぎの用があってねえ・・・いや残念。では失礼」 慌てて席を立った私にママの声が追い討ちをかける。 「そんなに残念がるんだったら、用事がすんだら戻ってらっしゃいな。 あんたが来るまで待ってるから」 ゲッ、待たないで、嫌だよう・・・・ 「いや、それは先生達に悪いだろうから先に始めておいてくれないかな。 それに僕も戻れるかどうかわから・・・」 「戻ってくるまで待ってるからね」 ママは微笑んではいるが、その目は絶対逃がさないという 脅しを含んでいる。 「わかったよ・・・すぐにもどってくるよ」 いっきに元気がしぼんでいった。 〜つづく (ママの店12前編) (ママの店12後編)その他の作品紹介
2006.06.28. (00:13) 小説 文学 /
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 写真を撮ろうとするとシマジロウが側に来る。どうもシマジロウとシュウは写真を撮られるのが好きみたいだ。撮ってもらったところで、 写真を見るわけでもないのになあと思うことがある。 最近困ったことにベランダに鳥が来る。プランターの木の実を狙って のことだと思うが、我が家は高層・・・もし鳥をキャッチしたいが為に 我が家の猫達がアミ戸をブチ破ったら・・・考えるだけでも恐ろしい。 これからますます暑くなる、出かける時は窓を閉めてクーラーだな。  次回HPに「ママの店」をUPする時に使おうとパンの写真を撮った。 しかし何かイメージがちょっと違う。自分で焼くか・・・ でもパンを焼くのは久し振りだし、また本を見ながらでないと完全に 忘れているし大変だなあ。 主人公の好きな中田先生の焼く(三つ編みパン)は実は私がいちばん好き なパンなのだ。 ・・・お知らせ・・・ 大量の小説を携帯のサイトにUPしなくてはなりませんので、 まことに勝手ではございますが本日もママの店を お休みさせていただきます。 店主敬白 (ママの店12後編)をHP上にUPしました。ブログに書き溜めたものを校正しています。 (ママの店12前編) その他の作品紹介 下にも書いてるので良かったら読んでみて、暗いヨ〜・・・
2006.06.27. (00:12) 小説 文学 /
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 シマジロウの顔は母親のナナにそっくりだ。ナナに似ると口元が 笑ったみたいな流線型になる。 猫も人間と同じでいろいろな顔があり、クロ達兄妹はどっちかと言えば 真面目です、固いです、冗談は通じません・・・というような顔をして いる。しかしそれでも、おもしろい時は愉快な気分が顔に表れるのだ。 猫をよく知らない人には到底わかってもらえないだろうが。  今日の晩御飯はシチュースパゲティ。梅雨の雨で気温は下がったものの、夏ばて状態は依然変わらずだ。 食欲の無い私に長女が困り、いつも晩御飯に頭を悩ませている。 今日は野菜たっぷりのカレーシチューをスパゲティにかけてくれた。 美味しかったのだが、食進まずで半分も食べられなかった。 でも、その代りにトマトだけはたくさん食べたよ。ごちそうさま ! ・・・お知らせ・・・ 大量の小説を携帯のサイトにUPしなくてはなりませんので、 まことに勝手ではございますが本日もママの店を お休みさせていただきます。 店主敬白 (ママの店12後編)をHP上にUPしました。ブログに書き溜めたものを校正しています。 (ママの店12前編) その他の作品紹介
2006.06.26. (00:06) 小説 文学 /
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 沢田研二さん主演の「太陽を盗んだ男」を買って観た。1979年に公開された古いものだが、プルトニウムや原爆とか今でも映画化されそうな 題材を使っており、話としてもとてもおもしろかった。 でも、猫が出て来るのがちょっと嫌だ。 動物が殺されたり傷つけられたりする場面はどうしても目を背けてしまう。我が家の猫達の顔を思い出すからだ。 この前知人が、猫は感情が乏しいなどと言っていたがそれは間違っている。ヤキモチも焼くし寂しいときは側に来る。もちろん喜怒哀楽もおおいにある。でも、これがわかるようになったのはやっぱりたくさんの猫達と生活するようになってからだ。一匹しか飼っていなかったときは、猫の気持ちなど考えもしなかった。  沢田研二さんの映画のことを書いたら、長く親しくして頂いている西崎みどりさんのことを書きたくなった。もともとは主人がファンで、いろいろ彼女の昔のビデオなどを保管していたのだが、資料として必要なとき貸し出して差し上げるようになったのだ。何かあればファックスで連絡が来る。電話で話すと、会話べた対人恐怖症の私と違い、とてもスラスラと美しい言葉で話しをはずませてくれる。 必殺シリーズに出ていらした時はまだ十代だったっけ・・・ 今でも十分綺麗、いや、ますます綺麗になられたと思う。 私の出版した本を読んでくださって、とても暖かな感想を書いて 送ってくれたのが嬉しかった。 (ママの店12後編)をHP上にUPしました。ブログに書き溜めたものを校正しています。 (ママの店12前編) その他の作品紹介
2006.06.25. (00:21) 小説 文学 /
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 ナナとフクの間に何でシマジロウのような子が生まれたのか不思議。 兄妹の中で唯一長毛種、まるでタヌキだ。生まれた時もただの毛玉 としか認識してもらえなかった可哀相なシマジロウ・・・ それが今ではピカイチに可愛い息子だ。 (ママの店12後編)をHP上にUPしました。ブログに書き溜めたものを校正しています。 (ママの店12前編) その他の作品紹介
2006.06.24. (00:37) 小説 文学 /
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 ぐっすりお休みのフク。思わず出た言葉「よー肥えてんなあ・・・」 しかも黒いから、どこが頭か尻かわかりにくい。 いろんな角度からパチパチやってたら、薄目を開けて見ていた。  今日は体調悪く昼を食べなかった。晩御飯に長女が出来るだけ油を控えた焼きビーフンを作ってくれた。炒めながらキッチンペーパーで油を丁寧に吸い取ってくれたらしい。とても美味しかったよ、サンキュ ! 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 「ママの店」 階段の横に、こじんまりとした赤っぽいレンガ造りの洒落た店がある。 入り口には色とりどりの花を植えたプランターと、 『本日のおすすめメニュー』と白いチョークで書かれた 深緑色の折りたたみ式の看板が立てかけてあり、 一枚ガラスのはめ込みドアには、白の薄いレースの 目隠しカーテンが張ってあった。 これが彼女の言っていた夫のレストランだ・・・ 私は入ってみることにした。 ドアを開けるとカラ〜ンコロ〜ンとチャイムが鳴り、 左側にあるカウンターの中から真っ白い髭を生やした 上品な老主人がいらっしゃいませと声をかけてきた。 右側は四人掛けのテーブル席が五つあったが、 迷わずカウンターに向かう。 椅子に腰を掛け、主人の顔を近くで見ると、 それは確かに彼女の夫に違いなかったが、 オルーバックの髪は真っ白になっており、 禿げてはいないが随分額が広くなっている。 私がジロジロ見たからか、主人は戸惑った顔をしながらも 「お客様どこかでお会いしましたでしょうか、 最近物忘れがひどくて」と微笑みながら言った。 「ご主人に会うように奥さんに頼まれました」と私。 主人は驚いた顔で、 「そんな、家内は一昨年亡くなりましたが・・・」 「ええ、わかってます。僕は奥さんに伝言を頼まれました。 あなたを大嫌いだと言ったのは嘘だったと、ずっと愛して いたんだと、そして指輪は捨ててなんかいない、ちゃんと 今でも指にはめているから。 そう伝えてくれとおっしゃいました」 私の話を聞いた途端主人はポカンと口をあけ、 大きく見開いた目からは涙がこぼれ落ちた。 ○○○が・・・と奥さんの名前を言ったようだが、 声が涙でかき消され、私には聞き取れない。 「部屋であなたを待っていらっしやいます」 私は二階を指さした。 主人は上を見上げ、 「家内の部屋は生前のままにしてありますが、 もう亡くなっているのにどうして」と不思議そうに私を見る。 「あなたも僕と会話が出来るということは、 多分もう生きていらっしゃらないのだと思いますが・・・」 主人は一瞬驚いたような目で私を見たが、 何となく自分ももう死んでいるのことを感じているようだった。 会社はどうなさったんですかと聞くと、 「私が愚かなことをしたばかりに、大事な社員を亡くしました。 その責任を取るという理由もありましたが、 病弱な家内の側にいつもいてやりたくて、 社長の座を退き、会社は他人に譲りました。 その時退職金をもらい、その金でこの店を作ったんです。 二階建てにして上を住居にすれば、 いつでも家内を看てやれますからね」 そう言って主人は遠い目をした。 きっと奥さんと二人だけの生活を思い出しているのだろう。 「奥さんが待っておられます。早く行ってあげてください」 私がそう促すと主人は、 「本当に会えるのですか、夢みたいだなあ・・・」と嬉しそうに、言った。 一緒に外に出ると、 二階に続く階段を前にして主人が立ち止まる。 どうしたんですかと聞くと、 「家内は、本当に私を許すと言ってくれたんでしょうか」 と不安気な声を出す。 「大丈夫、とっくに許していらっしゃいます。 それどころか奥さんはあなたのことをずっと 愛しておられたんですよ。 亡くなった中川さんに申し訳ないから、 嫌っているふりをなさっていただけです。 指輪はあの後こっそり拾って隠しておいたんです。 僕が見たときはちゃんとはめておられました。 さあ・・・早く行っておあげなさい」 私は主人の背中を押した。 今階段を一歩一歩踏みしめながら、主人が上がっていく。 二階のドアを開ければ、きっとあの奥さんが飛びついてくるだろう。 見守っていると主人はドアの前まで行き、 また立ち止まってしまった。 「勇気を出して」私は親指を立て、ガッツポーズをして見せた。 主人は私の方に体を向け、深く頭を下げておじぎをしてから 中に入って行った。 その後すぐに、 ダーリン ! ハニー ! とお互いを呼び合う声が聞こえてきた。 今頃きっと二人は固く抱き合っているに違いない。 二人とも今度こそ仲良く幸せにね、と私は誰もいない 階段の上に向かってつぶやいた。 〜つづく (ママの店12前編) その他の作品紹介
2006.06.23. (00:45) 小説 文学 /
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 今日も暑かった。しかし暑いのは下界だけで、高層のテッペンの 我が家は風がまだ冷たくていい気持ち。我が家の猫達は思い思いの 場所で眠りに落ちる。カスガの寝方があまりにも可愛いのでパチリ ! しかし涼しいのもあとわずか、もうすぐクーラーつけなければ死ぬ日が 来る・・・・・いやだ、いやだ。  夏は徹底的に食欲がなくなる私。長女が四苦八苦しておかずを作って くれている。 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 「ママの店」 暗澹たる思いに耐えかね両手で目を覆った私だったが、 目を開けるとそこは見慣れたあの家のダイニングだった。 いつもなら、お洒落に結い上げている髪をバサバサに広がらせ、 灰色のワンピースを着た彼女がテーブルにつっぷして泣いている。 夫はうろうろと歩き回り落ち着かない。 頭の中でいろいろな考えを整理しているようだが、 どれも現状をクリア出来るアイデアでないことが 彼を苛立たせている原因らしい。 何度も彼女の側で立ち止まり、何か言おうとするのだがやめる。 「私達もうダメね・・・」と彼女。 「そんなことはない、もう二度と同じ過ちを繰り返さないと 約束するよ。この通りだ」 彼女の言葉に慌てた夫は床に座り、 土下座して彼女にあやまった。 彼女は顔をあげ、チラッと夫を見たが また顔を腕の中に埋めてしまう。 「僕は君を失いたくないんだ。 それに僕のせいで君の体はボロボロだ、 僕は一生かけて君を治したい。 もう僕を夫だと認めてくれなくていい。 ただ側にいさせてくれさえすれば満足だ」 彼女はゆっくり顔をあげ、夫の顔を見る。 「私中川さんと赤ちゃんの為にあなたと別れようと決心して あの日彼女のマンションに行ったの。何も言い合いなんて しなかった・・・それなのに何であんなことに・・・」 一度止まっていた涙がまた溢れ出す。 夫は立ち上がり彼女の前の椅子に座りなおした。 テーブルの上で両手を組み合わせ、しばらく考えていたが、 「僕にとって彼女は優秀な部下だった。 それが仕事以外に付き合いをするようになってしまい 越えてはならない一線を越えてしまった・・・ 一度そういう関係になってしまうと、 それが何でもないことに思ってしまい・・・ いや、いや、いや、そんな言い訳はよそう。 僕のせいだ・・・何もかも僕が悪かったんだ。 彼女の妊娠は嘘だった。妊娠したと言えば 僕を引き止められると思ったんだろうな・・・ 可哀相なことをしてしまった。 どれほど惨めな思いをしたことだろう・・・ 彼女を死に追いやったのは僕だ。 君が会いに行ったことが原因なんかじゃない。 それから僕には君を裏切っている自覚すらなかったんだ、 最低だな・・・ 君が心待ちにしていた赤ん坊まで死なせてしまい、 僕こそ死んでお詫びしなくちゃならないんだ」 裏切っている自覚が無かっただって ? そうだよあんた最低だ、 あんたは死んで詫びるべきなんだよ。 私は彼女の夫の側に行き、力を込めて頭を何発も殴った。 手ごたえはなかったが、殴らずにはおられなかったのだ。 彼女の為に・・・ 「わかったわ、私一生あなたの側にいるわ」 言った 言葉のわりに彼女の声が冷たい。 しかし夫は嬉しそうな顔になった。 「でも、忘れないでちょうだい。私はあなたを軽蔑してるの。 あなたが嫌いなの。あなたは私に軽蔑されて、嫌われたまま 一生私の面倒を看ていくのよ」 静かな彼女の言葉に夫は一瞬ポカンとしたが、 やがて泣いているのか笑っているのかわからない 複雑な表情を作り、黙って何度も頷いた。 「指輪・・・捨てるわ」 彼女は左手の薬指から結婚指輪を抜き取りごみ箱に放り込んだ。 そうだったんだ・・・私は初めて彼女の言ったことがわかった。 おそらく彼女は死ぬまでずっと夫を嫌っている演技をし続けたんだ。 心の中では夫を愛していたし、とっくに許していたのだが、 死んだ我が子と中川という女の為に、 夫に許すと言えなかったのだろう。 その後捨てた指輪を夫に隠れて拾い、 宝石箱の底に隠す彼女を見た。 すべての事情がわかった時私の周りにある景色は掻き消え、 暗い闇の中、二階へと続く階段が現れていた。 〜つづく (ママの店12前編) その他の作品紹介
2006.06.22. (00:07) 小説 文学 /
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 クロは台所をウロウロしてゴミ袋を破ったり、走り回って何かを 壊したりするヤンチャ坊主だが時々ものすごく人恋しくなるらしく、 いきなり飛びついてきてダッコを強要する。 私はクロが、我が家の猫達の中で一番性格がいいのではと思う。可愛い男の子なのだ。  ワイルドストロベリーが実をつけだしているが、今日収穫したのは今までの中で一番大粒だった。美味しそうだったので夫に見せたら黙って 口に放り込んだ。本当は私が食べたかったのだ。 見せなきゃ良かった、私のバカ ! 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 「ママの店」 次に私が移動したのは、病院の診察室だった。 検査結果が出たのだろう、血液検査の結果表が机の上にある。 二枚のレントゲン写真をライトで照らしたパネルに掛け、 医師が両方の写真の肺のあたりを指しながら、 淡々とした顔で説明している。 「それじゃあ先生、二人ともまだ肺は侵されてはいないんですね」 夫が安心したように言うと、医師は頷いた。 良かった・・・とつぶやき、 うな垂れる夫の背中を妻がやさしく撫でている。 「しかし、奥さんの方なんですが・・・」 二人ははっとした顔で医師の顔を見た。 「奥さんも肺は今のところ問題はないのですが、 肝臓と膵臓、それに卵巣に深刻なダメージを受けています。 でも、まあそれも投薬で治療していけば改善されるでしょう。 問題は・・・ あの、奥さんが妊娠なさっていたのをご存知でしたか ? 」 医師の言葉に二人は仰天した。 「ちょうど三週目に入ったところでした。残念ですが・・・」 「死んだ・・・ということでしょうか・・・」 夫が苦しそうな声で聞くと医師は黙って頷いた。 わっと泣き出す妻に医師の更なる厳しい言葉が追い討ちをかける。 「お子さんはもう望めない体になってしまわれました」 絶望の宣告だった。子供がほしくてもなかなか出来ず、 知らない間に出来ていた待望のわが子は、 知らない間に死んでいった。 こんなことがあっていいのだろうか 私は怒りに震えながら固く目を閉じた。 ふいに辺りの雰囲気が変わった気がして目を開けると、 私はまた別の場所に移動させられていた。 ここは・・・ あの中川とかいう女の部屋だ。 机をはさんで彼女と中川が対峙している。 「私を罵りにいらしたんですか」と中川。 彼女は黙って首を横に振る。 中川は上目遣いで彼女を見て様子を窺っている。 「私には彼の子供が出来ているんですよ、あなたには望めない・・・」 意地悪く言葉を続けようとする中川を手で制し、 彼女は苦しそうに首を横に振った 「わかっているのよ、だからもう何も言わないで。 主人と別れます」 彼女は微笑みを浮かべ、「それだけを言いたかったの」 そう言って帰って行った。 一人になった中川はテーブルの上を見つめ、 何か考えているようだったが、いきなり立ち上がり ふらふらと出口とは違うドアを開けて中に入って行った。 私も後に続いて入る。 そこはトイレとバスルームが一緒になっている。 白いシャンプードレッサーがあり、観音開きの鏡の中には 薬とかシャンプーとかが入っており、 その中から彼女はカミソリを一本手に取った。 それを持ってバスタブに行き、蛇口をひねる。 すぐに勢いよく水がほとばしり出て、やがて湯に変わった。 もうもうとした湯気の中、 バスタブがいっぱいになると彼女は蛇口を閉め、 バスタブの横に座り込んだ。 右手を湯の中に沈め手首にカミソリを当てる。 えっ、何をする・・・やめろ、やめないか ! 私は焦って止めようとしたが、彼女は手首につけたカミソリを 何のためらいもなくスッと引いた。 その途端湯の中にある手首に赤い横線が出来、 そこから赤ワイン色の雲がもくもくと湧き上がってくるのが見える。 見る見るうちにバスタブが赤く変わっていく。 「そんなこと、出来るわけないじゃないの・・・ 馬鹿なひ・・・と・・・」 そうつぶやいて彼女は崩れるように上半身を湯船の中に沈めていった。 〜つづく (ママの店12前編) その他の作品紹介
2006.06.21. (00:20) 小説 文学 /
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 クロの目は一進一退で、一向に治るように思えない。何が原因なのか よくわからないが、暑くなるとしょっ中消毒しないとすぐにただれてしまう。私が近づくと、消毒されると思い逃げ回る。それでもとっ捕まえて押さえつけるから、とうぶん私はクロに嫌われることだろう。 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 「ママの店」 うわっ馬鹿だな、と私は思った。 男に捨てられかけた女が妊娠を告げたとき、男は困って 発作的に女を殺す・・・よくあるパターンじゃないか。 このダーリンも決して例外じゃないと思う・・・ どんな手段を使うだろう、 ネクタイをはずして首絞めか、 それともテーブルの上にある灰皿で殴るか・・・ これから起こることをテレビのサスペンス劇場さながらに いろいろ想像していたら、ダーリンがいきなり床に這い蹲り 土下座した。あっけにとられたのは私だけではなく、 女も何が何だかわからないようなポカンとした顔をして ダーリンを見下ろしている。 「すまなかった、だらしない僕の為に君を傷つけてしまった。 会社を辞めろなどと酷いことを言って申し訳なかった。 子供が出来ているとは思わなかったんだ。 許してくれ、君の為になることなら何でもする」 女は体から力が抜けたようにテーブルに両肘をつけ、 手のひらで額を覆った。 むせび泣く声が聞こえ始めると、ダーリンは女の横に座り、 やさしく背中を包むようにして抱いてやった。 なんだ、結局はこんな結末か・・・ 私はいささかガッカリした。 子無しの夫婦の夫が浮気して、よその女に子供を生ませた。 それで子供を生めなかった妻は捨てられる・・・ 私は怒りで胸がムカムカしてくるのを覚えた。 そうだ、あのひとはどうなった・・・ 家で夫の帰りを待つ彼女のことが心配になった。 その途端、私はまた瞬間移動してしまい、 気がつくと彼女の家にもどっていた。 台所のテーブルをはさんで、向かい合わせになった 彼女とダーリンがいる。 一部始終を今聞かされたところなのだろう。 夫を見つめる彼女の両の目から涙が零れ落ちた。 「すまない・・・僕は君を裏切っていた」 彼女は嫌々をするように首を何度も横に振る。 そりゃ当たり前だ、こんなことをされて許せるわけがない。 こうなりゃ慰謝料をガッポリ要求して離婚だ。 「パラコートの毒性はどういうものなの ? もう一ヶ月は飲んでるんだけど、命に別状はないの ? 」 そうか、そりゃそうだ。そっちのほうが先だ。 「パラコートはウチの会社がこれから輸入しようと していた製品なんだ。もちろんその毒性も報告されている。 多量に飲めば間違いなく死ぬ。 少しづつ飲めば・・・」ダーリンはそこでハッとした顔で妻を見る。 「大丈夫よ、話を続けて」彼女は無理に笑顔を作って言った。 あきらめたように頷き、ダーリンは話を続ける。 「少しづつ飲んだ場合、毒は肺を徐々に犯していき、 進行性肺線維症をおこして数ヶ月で死ぬ」 「私・・・あなたにそんな毒を飲ませていたのね」 彼女は目に涙を一杯溜めてつぶやいた。 ダーリンは首を横に振り、彼女を見つめた。 「半分は君が・・・いや、ほとんど君が飲んでいたと思う」 どういうこと ? と彼女が首を傾げると、 「せっかくの健康ドリンクを僕に飲ませてくれる君の心が 嬉しくて、途中で君のカップとすり替えていた・・・」 ダーリンの顔が見る見るうちに真っ赤に腫れあがり、 目から滝のように涙が溢れ出た。 「あ・・・それじゃ、ぜんぶあなたが飲んだのではなかったのね」 彼女は嬉しそうに言っていつもの微笑みをダーリンになげかける。 ダーリンは驚いた顔で、彼女を見つめ次の瞬間椅子から立ち上がり 彼女の側に行きその膝をかき抱いた。 「今すぐ病院に行こう。検査してもらうんだ。大丈夫だよきっと 症状はまだ出ていない・・・そうだろ ? 」 ダーリンの言葉に彼女はやさしく頷いた。 なんだ、何故怒らない・・・症状が出ていないかどうか 調べてみなきゃわからないじゃないか。 そういえば彼女、朝がとても辛そうだったぞ・・・ 今朝目覚めたとき、 けだるそうに時計を見て溜息をついていた 彼女を思い出す。 しかし私の憤怒と心配をよそに、 今じゃ二人は立ち上がり固く抱き合ってしまっているのだ。 〜つづく (ママの店12前編) その他の作品紹介
2006.06.20. (00:22) 小説 文学 /
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 ブチを見ていると、本当に和やかな気持ちになってくる。ちょっとした仕草も愛らしく何かムカツクことがあってもブチの顔を見ていると癒される。まあ・・・ブチに限らず、どの子を見てもそうなんだが・・・  長女が みたらしダンゴを作った。私はケーキよりはダンゴのくちなので、時々和菓子屋で買ってくる。しかし、今日食べたこの みたらしダンゴを食べたら、もうアホラシくて売ってるものなんて食べれない。 甘すぎず、ダンゴの食感も丁度良く、これはとても素晴らしく美味しかった。 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 「ママの店」 彼女は何かを思い出したのかのように、いきなり走りだした。 「ダーリン、あなたまだ着替えてないわよ。パジャマのまま 会社に行くつもりなの ? 」 家の横にあるガレージの中で車に乗ろうとしていた夫は、 妻に呼び止められてハッと我に返ったような顔をした。 そして自分がまだパジャマのままだったことに気がついて、 心配そうな顔の妻に一言も話しかけず、 慌てて家の中に入り二階に上がって行った。 そして十分ほどして、 背広に着替えて下りてきた彼は そのまま車に乗って行ってしまったのだ。 後に残された妻はいったい何が起こったのか、 現状を把握できないまま青い顔をして いつまでも夫の去っていった方向を見ていた。 私が次に移動したのは、どこかの部屋の中だった。 奥にベッドが見えている。 この部屋の中にあるものは、小さめのテーブルをはさんで 二人座れるくらいの黄色いソファーが二つ。 あとは奥にダブルベッドが一つと酒類の瓶とグラスが入った サイドボード、ドレッサー、壁に埋め込まれたクローゼット・・・ ソファーに向かい合わせで座っているのは、 彼女のダーリンと見知らぬ女。 ダーリンはさっき家を出たときと同じ背広を着ている。 女もグレーのスーツ姿で、 いかにもビジネスウーマンといったところだ。 二人の間に微妙な空気が流れている。 ダーリンの前にある灰皿には吸殻が盛り上がり、 沈鬱な顔で煙草の煙を吐き出した後 ダーリンは彼女の顔を見る。 「いったいどういうつもりなんだ」とダーリン。 聞かれた彼女は下を向いたまま黙っている。 イライラしたように煙草を灰皿でもみ消したダーリンは 「もうお終いだ。別れよう。君がやったことは犯罪だ、 妻ばかりかこの僕まで殺そうと図ったんだからな」 苦い味を噛み締めるようにダーリンが言う。 女はハッとした顔で、 「私はあなたが欲しかっただけよ。 あなたと家庭を持ちたかったの。 だから奥さんに消えてもらいたかった・・・奥さんによ、 あなたまで殺そうなんて、そんな、まさか・・・ ありえないわ」 そう言って女は苦しそうに首を振った。 「家内は僕にアレを飲まそうとしていたんだ」 苦虫を噛み潰し、ダーリンが唸る。 女は驚き目を見張った。 「何で・・・ 私何か気づかれるようなことをした ? それとも私とあなたの仲を知っていて、 私達が共謀して 自分を殺そうと企んでるとでも思ったのかしら」 ダーリンは首を振りながら、 「違う、違う、違うんだ・・・家内はそんな邪推をする女じゃない。 あれは天使のような女なんだ ! 君から体にいいと言ってもらった ドリンクを素直に家内は信じた。そして、そんなに体にいいのなら、 自分には勿体無い、僕に飲ませてやろうと考えたんだ。 どうせ自分は子供が出来ないのだから、そんな高価なもの 必要ないと思っていたんだよ・・・ そんなやさしい妻を僕は騙した。 君の色香に迷って妻を裏切り、死の危険にさらしてしまった」 ダーリンが伏せた目からポロポロと涙をこぼしているのを見て、 女の顔が鬼のように恐ろしい顔に変わっていく。 「私があなたを迷わせたですって ? あなたこそ私の人生を奪っておいて酷いこと言うわね。 ぜんぶ私だけのせいだって言うの ? ダーリンは女の殺気立った言葉にハッとして顔をあげる。 「いや・・・僕の責任だ。すまない、言い方が悪かった。 君には出来るだけのことをするから、 どうか会社を辞めてくれないか。 もちろん大きな会社に再就職出来るように便宜を図るよ」 それを聞いた女はもの凄い形相でいきなり立ち上がった。 「何ですって・・・私に会社を辞めろですって ? あなた一人良い子になって、ハンッ ! 私だけが悪者かい」 女はもう、憎しみの塊に成り果てているようだった。 「まあ、落ち着いて座りたまえ」 ダーリンは必死に女をなだめようとしている。 女はまだ怒り冷めやらずといった顔で座りなおし、 「だいたいパラコートの毒性を説明してくれたのは あなたじゃない、少しづつ飲めば徐々に体の機能がやられて 死に至るって」 「だからと言って何も家内を殺してくれと頼んだ覚えはない ! 」 ダーリンは顔を真っ赤にして怒鳴った。 女が下を向き、肩を震わせ始めた。自分のしたことの恐ろしさに 今気がついたのかと私は思った。ダーリンもそう思ったのか、 体を乗り出しやさしく女の肩に手を置いたその時、 女はいきなりそっくり返り、ゲラゲラと笑いだした。 真っ赤なルージュをつけた口唇が耳まで裂けているように見えて 私の全身の毛がゾワッと逆立つ。 ダーリンもあっけにとられて彼女を見つめている。 「私とあなたの関係を証明出来るものがあるのよ。 これを突きつけたら、警察は間違いなくあなたが 共犯だと思うはずよ。 いいえ、あなただけが悪者になるかも・・・」 女はそう言ってますますヒステリックに笑う。 ダーリンは顔を強張らせ、 「何なんだ、その証明出来るものって・・・」とつぶやく。 女は黙って薄ら笑いを浮かべながら自分の腹を指差した。 「三ヶ月の終わりなのよ・・・もうすぐ目だってくるわねえ・・・ 男の子かしら、それとも女の子かしらねえ・・・」 そう言って女は愛おしそうに腹を撫でた。 「子供が出来ているのか・・・」ダーリンが静かな声で言った。 〜つづく (ママの店12前編) その他の作品紹介
2006.06.19. (00:20) 小説 文学 /
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 チャーはとても寂しがりやでいつも私の目を追いかける。 目が合うと少しハスキーな声で、 ダッコダッコを連呼するかのように鳴きわめくのだ。  ブタバラ薄切りで人参やインゲンを巻いて米油で転がしながら焼く。 火が通って美味しそうな焦げ目がついたら醤油をまわしかける。 長女作。美味しいのだが、盛り付け方が難しい(笑)でもまあ、そんなことはどうでもいい。要は味だ、味。 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 「ママの店」 新聞を読みながら目玉焼きの皿にフォークを伸ばすから、 目指すものにはなかなか命中せず、 カチカチと皿にフォークの先があたる。 彼女は眉間に軽い縦皺を寄せて彼に注意する。 「あなた、新聞読みながら食べるのはやめて」 「わかったよ、ハニー」夫は溜息をつきながら新聞をたたんだ。 もうハニーでもバニーでもいいから早く食べて出て行ってくれ、 私は早くあの瓶を確かめたいのだ。 妻に叱られ、いきなり目玉焼きにかぶりついた夫は 「goodな焼き具合だよ、とてもdeliciousな目玉焼きだ」 と言って彼女にウインクした。 私の脳は完全に麻痺してしまい、 甘ったるい二人の会話にも、 さほど不快な反応を示さなくなっていた。 すでに目玉焼きとトーストを食べ終わった彼女は、 コーヒーを飲みながらやさしい眼差しで夫を眺めていたが、 「ねえ、ダーリン今日は早く帰れるの ? 」と聞いた。 夫は口の回りについた汚れをナプキンで拭いながら、 「今日は会社の重役達と会議だから遅くなるんだ。 新しい商品の契約を結ぼうとおもっているからね」 「どんな商品なの ? 」と彼女。 「農薬だよ。イギリスではすでに出回っているんだけど、 日本ではまだだ。とても強力な農薬なんだ。 出来るだけ安く売るつもりだから、きっと当たるさ」 夫はそう言ってから、壁に掛かった柱時計を見て、 「そろそろ行くよ、時間だ」といって席を立った。 「あっ、ダーリン、中川さんにまた一瓶お願いしますって 伝えといてくれる ? 」 彼女は思い出したかのように夫の背中に声をかけた。 私の立っている位置からは 妻に背を向けた夫の顔がはっきり見えている。 彼女の言葉を聞いた途端、夫の顔が恐ろしく強張った。 しかし、すぐに夫はニッコリ笑って振り返り 「何のこと ? 何か彼女に頼んでいたのかい」と言った。 この男には何かある・・・ 「ええ、あなたに飲んでもらっている健康飲料を イギリスからわざわざ取り寄せてくれているのは 中川さんなのよ」 「ほう、彼女がまたどうしてそんな物を君に・・・」 夫は目を細めながらやさしく妻に聞いた。 「私ももうすぐ三十・・・だのに子供が出来ない。 きっといつも暗い顔をしていたんでしょうね、 この前書類を届けにウチに来てくれたとき、 とても体にいい健康飲料があるからってすすめてくれたのよ。 彼女会社で輸入管理を任されているでしょ、 だからわざわざイギリスから取り寄せてくれるの。 それがもうすぐ無くなりそうだから、もう一本取り寄せて もらおうかなって思ったから・・・」 恥ずかしそうにモジモジとしながら彼女は言った。 「ねえ、ハニーそのジュースの瓶を僕に見せてくれるかい。 名前が知りたいんだ、中川君に頼む時知っておいたほうが いいだろ ? 」 彼女はうれしそうに台所に走って行き、例の瓶を持って来て 夫に渡した。 私も彼らに姿が見えないのをいいことに、 首を伸ばしてラベルの文字を読む。 paraquat・・・・パラクアト・・パラクァット・・・ パラコート ? パラコート、パラコート、パラコート ! 私の頭の中で 記憶が炸裂する。 これは農薬だ・・・・ 私が思い出した時にはすでに 夫にはそれが何だかわかっていたようで、 真っ青な顔になっていた。 「そんな馬鹿な・・・何故だ・・・」 夫はブツブツとつぶやきながら、パラコートの瓶を持ったまま 夢遊病者のような足取りで外に出て行ってしまった。 「ダーリン・・・ ? 」 後に残された彼女は、何が何だかわからないといった顔で ただぼんやりと、ドアから出て行く夫の後ろ姿を見ている。 〜つづく (ママの店12前編) その他の作品紹介
2006.06.18. (00:09) 小説 文学 /
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 我が家の猫達の中で手術をしていないのはチャコだけだ。 数が多いので最初は男子だけを手術したのだが、人間で言えば婦人科の病気になって結局チャコ以外の女子も手術しなくてはならなくなった。チャコは一人で発情期をやり過ごす。ゴロゴロ喉を鳴らす声が少しばかり大きいが、高層マンションのテッペンに住んでいるから誰にも聞こえない。思う存分鳴いたらいいよと思っていたら、最近鳴かなくなった。その代わり発情期の時はもの凄く機嫌が悪くなる。周りの猫達を殴り倒し、シヤーシヤーフーフー威嚇するから皆恐れて近寄らない。こういうのをヒステリィーと言うのかな。  今日の晩御飯は手作りギョウザ。長女作。 私はヒジキと竹輪、油揚げの煮物を作った。親子で作るのが楽しみの夕食だ。次女も洗い物を手伝ってくれるし、こんな嬉しいことはない。 闘病生活も悪くない。私が一人では何も出来ないから、どこに行くのも、何をするのも親子一緒だ。 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 「ママの店」 私が送る冷たい視線の中、ダーリンは手で口を隠しもせず まばらに生えた髭面の汚ったらしい大きな口を開け、 欠伸をしながら食卓についた。 「グッドモーニン、ハニー」 容姿に似合わぬ言葉がダーリンの口から出た。 おまえらはどこの国の者じゃ、何か気分が悪い。 しかし彼女は嬉しそうにダーリンの側に駆け寄り カバのようにたるんだ首にしがみつきキスをする。 なんと不愉快な朝の光景か・・・ 私は目をそらせたくなった。 ダーリンがテーブルの上に置いてあった新聞を読んでいるあいだ、 彼女は皿に目玉焼きを移し、カップにコーヒーを入れる。 そしてさっきのワイン瓶のようなものを取り、 中の液体を小さなコップに少し入れ、 スポイドで用心深く吸い取った。 「またそれを入れてくれるのかい」 ダーリンが新聞をずらせて嬉しそうな顔で彼女を見る。 「そうよ、少しづつ毎日飲んで、あなたには元気で 頑張ってもらわなきゃね。 沢山飲んだら強すぎて害になるらしいけど 少しづつ毎朝一回飲んだら長生きするそうよ。 イギリスから直接取り寄せたの」 うふふと彼女は笑い彼のカップに スポイドで吸い取った一滴を落とす。 でも自分のカップには入れず、残りを瓶に戻した。 「君も飲まなくちゃ、僕ばかり長生きしても仕方ないんだよ」 夫がやさしく声をかけるが、彼女は首を振り、 「あなただけでいいのよ。 だってこのドリンク輸入品だからとっても高いの。 私はいらないわ、それに太ったらいやだもの」 彼女はそう言ってウインクしてから瓶を棚にしまいに行った。 夫は素早くカップを交換して、 『僕より君さ』そういう顔をして満足そうに一人頷いた。 何ていい夫婦なんだろう・・・妻は夫の為に外国から わざわざ健康飲料を取り寄せて自分は飲まずに夫にだけ飲ます。 夫は妻にも健康になってもらいたいから、 黙ってカップをすり替える。 これぞ夫婦の鏡だ。 「豊・・・」 どこかで私を呼ぶ声がする・・・ママ ? ママが私に話かけようとしている。 「豊、この夫婦がいなくなったらあの瓶を調べなさい」 「えっ、でも僕はここでは何にも触れないよ」 「大丈夫、触れるから・・・必ず調べるのよ。 でも、味見しちゃダメだからね」 「なんで味見はダメなんだよ」思わず不満な声になる。 「絶対ダメよ。あんた、いやしいからすぐ口にするからね、 今度ばかりは飲むと死ぬわよ。わかった ? 」 し、死ぬ・・・? 「死ぬって・・・そんなバカな、そりゃママの考えすぎ」 「何でもいいから言うことを聞いて。 ほら、二人とももうすぐ 食事が終わるわよ」 ママが異常に焦っている。これは絶対ただ事ではない。 でも、健康飲料だとあの人が説明していたし・・・ ムクムクと私の胸の中に黒い雲が頭をもたげ始めていた。 〜つづく (ママの店12前編) その他の作品紹介
2006.06.17. (00:15) 小説 文学 /
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 フクのお気に入りの籠。夜は私の布団の横に置いておくのだが、いつの間にか籠から出て私の肩のところで寝ている。冬はもちろん布団の中で、夏は夜中に移動する。猫達は涼しい場所とか居心地の良い場所を よく知っているみたいだ。同じ場所を動けず、暑い暑いを連発して食事ものどを通らなくなる私は猫を見習わなくてはなるまい。  長女が知り合いのお通夜に出かけたので、晩御飯は久々私が作った。 で、簡単に出来るカレーライスにしたのだ。 煮込む時、インスタントコーヒーを少し入れると味がぐっと締まる。 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10「ママの店」 こんな夢を見ていた。 ここはどこだろう・・・ あたり一面ぼんやりとした白い光に包まれており、 部屋の様子が見えてくるまでにだいぶ時間がかかった。 ベッドがある・・・ということは寝室だ。 ダブルベッドの白いサテン地で出来た掛け布団の中に、 二人分のふくらみがある。 ベッドを正面に見て左にある壁には、薄いブルーの、 ベッドと同じくらいの高さのチェストがあり、 その上に白いレースの縁飾りがついた ピンクのスタンドと、 ハート形の置時計が置いてある。 ベッドは部屋の右側。窓は整理ダンスの左横。 こういうのを出窓っていうのか、 外に向かって飛び出た形の洒落た窓だ。 ストッパーで半開きにされた窓から涼しい風が入り込み、 白いレースのカーテンをヒラヒラとはためかせている。 やがてベッドのふくらみがもぞもぞと動き、 掛け布団を持ち上げて女性が上半身を起こした。 その顔に見覚えがある・・・あっ、彼女だ・・・ 彼女は手のひらで目のあたりをこすり、 あくびをひとつしてから寝乱れた前髪を指でかきあげる。 そして隣で寝ている誰かを気遣うように そっと手を延ばし、スタンドの横の置時計を取った。 時間を見て溜息をつき、それをもう一度元の場所に戻す。 そしてベッドから抜け出し、 部屋の左側の壁にあるクローゼットを開けた。 彼女が着ていたパジャマを脱ぎだしたので、 私は慌てて目を逸らせる。 もういいかな、と思った頃に彼女を見ると、 尻に小さなパンティをつけただけで、 まだほとんど裸のまま。 キュッと引き締まった腹部に形の良いお尻、 細く長い足がスラリと伸びてなかなかのスタイルだ。 彼女はクローゼットの中から黒いスパッツを取り出し、 それを穿いた。 白い半袖のTシャツを着ようとしているが、 前が見えないので残念・・・ 私の方を向いたときはすでに着てしまった後で、 Tシャツの胸には大きな向日葵の花がプリントされていた。 なかなかお洒落な奥さんだったんだなあと、 私は白髪の老婆を思い出す。 こんな綺麗な人に、年月があんなに無残な仕打ちを加える。 まるで艶やかなリンゴが干からびて腐っていくみたいに・・・ そんなことを考えているうちに、 彼女はもうクローゼットの横にある 鏡台に向かって髪をとき始めた。 長めの黒髪はたっぷりな量で、ブラシをあてるのも疲れるだろう。 それでも彼女はさっさとブラッシングを終え、 後ろで束ねた髪をバレッタで留めて急ぐように部屋を出た。 階段をおりると下はダイニングキッチンになっていた。 とても明るく広々として外国の映画を見るようだ。 こういう家に住むということは、かなり裕福に違いない。 そうだな・・・ そういえばあのお婆さんにはどことなく品があった。 キッチンは窓に面しており、 大きな窓から緑も瑞々しい広い庭が一望出来る。 彼女はテーブルの上にあるコーヒーメーカーに 水と粗引きの豆を入れ、スイッチをONにする。 そしてフライパンで目玉焼きを作り、 トースターにパンを二枚差込んだ。 二人分のお皿とカップソーサーをテーブルの上に用意すると、 流しの下にある開き戸を開けて、 ワインの瓶のような物を取り出した。 朝からワインとはまた・・・と思っていると、 開き戸の横にある引き出しの中から スポイドを一個取り出し、瓶と一緒にテーブルの上に置く。 あれは何に使うのだろう・・・ とにかく朝食の準備が出来た。彼女は階段の上に向かって、 「ダーリン、ご飯よぉ、起きてえ」と甘い声で呼んだ。 ゲッ、ダーリンなんて呼んでる・・・ しかし腐っても彼女のダーリンだ。 どんな素敵なダーリンが下りてくるのだろうと 興味深々で待っていると、 ペタペタとスリッパの音をたて、彼女のダーリンが 白地に青いストライプの入ったパジャマのズボンの上から ボリボリと股を掻きながら、ゆっくりと下りてきた。 〜つづく (ママの店12前編) (ママの店11) その他の作品紹介
2006.06.16. (00:24) 小説 文学 /
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 トウは我が家の猫達の中では一番小さいが、落ち着きが無く ちっともじっとしていない。 トウはいつも一人ぼっちだ。 昔はカリンと異常に仲良しで、無理やり引き離したりすると 鳴きながら、互いに求めあっていた。 いつからだろう・・・今では殴り合いばかりしている。  ベランダにある くちなしの花が満開になった。例年ポツポツとしか咲かず、咲いてもすぐに黄色く変色してしまうのに今年はだいぶ長く美しいままだ。ココナツのような甘い香りがベランダに充満している。 くちなしに限らず、ワイルドストロベリーも沢山実をつけている。 赤くなったものから摘んで食べているが、結構甘くて美味しい。 そしてとてもいい匂いだ。 1 2 3 4 5 6 7 8 9 「ママの店」 ママの店に向かいながら、さっきチラッと見たとき 下がまだ両親の店だったことを考えていた。 きっと店の二階だけが異次元なのだ。 階段を上がった所に出来ていたあの扉が 異次元への入り口だ。 扉からこっちは私の世界、あっちは異次元・・・ どんどん若くなっていくあのお婆さんは何物だ ? うーん・・・わからない。 いろいろな疑問が頭の中を駆け巡っているうちにママの店に着いた。 ドアごしにママが見える。 今日は客がいないみたいだ。 中に入るとママがニコッと笑って迎えてくれた。 「あら、いらっしゃい」そう言ってから、 私がただならぬ顔をしているのに気がつき、 眉をひそめて心配そうな顔をした。 「どうしたのよ、青い顔しちゃって・・・何かあったの ? 」 私はまずママに水を一杯飲ませてもらい、 それからあの奥さんのことを話しだした。 「店の二階が自宅で見たあの部屋に変わっていたんだ。 ベッドの中にいるあの人に、 主人のところに行ってくれって頼まれたんだけど、 どうやって行ったらいいかわからない。 だって下だと言うから下におりていっても そこは僕の親の店なんだ。 どうやらその部屋のドアが境界らしい。 ドアを出てしまうともうこっちの世界になってしまう」 「その奥さんは、あんたの家の二階にある お母さんの部屋にいたお婆さんに間違いないの ? 」とママ。 私は即座に頷いた。 「あのときあんたは、お婆さんにもの凄く驚かされたわよね だって気絶するほどだもの」 「そうなんだよ、あのときは恐かった。 逃げようとしたら、 ベッドからお婆さんが滑り下りて来たからね。 でもあのときは、母の部屋だと思って開けたのに 全然別の部屋になっているし、しかも知らないお婆さんが ベッドに寝ていたから驚いただけで、 別に彼女が悪いわけではないんだ」 そのとき私は意識せずして彼女をかばったのだが、 ママがそれを見逃すわけがない。 それとばかりにそこの部分を突っ込んできた。 「何かおかしいわね・・・」 「何がおかしいのさ」と私。 「今会ってきたお婆さんに何か変わったことがあったんじゃない ? 」 ママが私の顔を覗き込むようにして疑わしそうな顔で聞く。 「何かって・・・ああ、そう言えば彼女もの凄く若くなったんだ」 私は自分でもおかしなくらいしどろもどろになっていた。 ママはそれを聞いて目を細め、わかりましたとばかりに頷いた。 「つまり、若くなったら美人だった・・・というわけだ・・・」 私は顔が赤くなるのを感じていた。 「いや・・・べつに彼女が美人だから頼みを聞いてあげようと 思ったんじゃないからね。だって可哀相じゃないか、 そりゃあ、ご主人との間に何があったのかまでは知らない。 でも謝りたいって言ってるんだ。本当は愛していたんだって 伝えたいんだよ。ねえ、ママ何とかしてあげて」 何故か私は必死になっている。 ママは黙って私の顔を見ていたが、眉をひそめて首を少し傾けた。 「ねえ、そのお婆さん大丈夫なのかな・・・? 」 「へえっ ? 」思わず声に出た。 「大丈夫かって、どういうこと・・・」 私の声に少しだけ怒りがこもるのがわかった。 ママはまだ黙って私を見つめている。 「ねえママ、大丈夫かってどういうこと・・・ 彼女が嘘をついているとでも言うわけ ? そりゃ絶対ないよ。 彼女が美人だから僕が騙されているとでも思ってるの ? それは絶対ないからね。ママの思い過ごしだ」 ママは手を振りながら私の言葉をさえぎり、 「まあまあ、そんなに興奮しないの。 そのお婆さんのこと、ちょっと調べてみる必要があるわね」 私は心の中で、彼女に限って・・・と思ったが、 ここでママを怒らせてしまっては何にもならないと気づき、 黙ってママの言うことを聞くことにした。 〜つづく (ママの店12前編) (ママの店11) その他の作品紹介
2006.06.15. (00:16) 小説 文学 /
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 フクは毎晩私と一緒に寝ているが、最近暑くなってきたから布団の中には入って来ない。それでも寝付くまで私の肩らへんにピットリ貼りついていて、いつの間にか涼しい場所をみつけて移動している。 今日の昼間は完全夏日だった。 いやいや、まだまだ暑くなるんだ・・・嫌だなあ・・・早くも食欲がないではないか。 (ママの店12前編) 1 2 3 4 5 6 7 8 「ママの店」 「・・・で、奥さんの頼みって何でしょうか」 私はゴホンと咳を一つしてから話題を変えた。 「そうね、じゃあ言うわ。 私自分がもうすぐ死ぬって知らなかったのよ。だから、主人に あんたのことがずっと大嫌いだったって言っちゃった。 嫌いだ嫌いだって思ってたら、指輪もどこかへ行っちゃった なんて・・・死ぬとわかってたらそんなこと言わなかったわ」 そうか、それじゃ心残りなのは当たり前だ。 婦人は感情が高ぶってきたのか、涙で話が続かない。 ベッドの枕元にあるティシュの箱を引き寄せて鼻をかんだ。 「指輪、ちゃんとあるじゃないですか」と私が言うと、 「嘘をついたのよ・・・」と俯いた。 「だからね、指輪はちゃんと大切に持っているから安心してって 主人に伝えてほしいのよ」婦人は涙に濡れた目で私を見た。 気のせいだと思っていたが、さっきから髪の色が 少しづつ黒くなっている。 顔もふっくらとして、ますます若くなってきているではないか。 面長のすっきりとした顔に長く弧を描く美しい眉、 切れ長の涼しい目には黒水晶のような潤いを湛えた瞳・・・ 高すぎず低すぎない真っ直ぐな鼻、 濁りのないピンクの口唇には化粧など必要ない。 見惚れているうちに口が半開きになっていたらしい。 これがママなら、何ボケッとしてだらしない顔してんのよと 罵声を浴びせかけられるところだ。 慌てて口を閉じ、ここは一つ紳士らしい態度で 彼女に好感を与えねばと姿勢を整える。 「それで・・・どこに行けばご主人に会えるのでしょうか」と私。 婦人は愛らしい顔を少し傾け、指で床を指し、 「この下よ・・・今すぐ行って来てくださるのかしら ? 」と言った。 この下は私の両親の店なんだけど、ともう一度思ったが 今異次元にいるんだとしたら、 下もきっと変わっているに違いない。 行ってみよう、この美人・・・いや、可哀相な奥さんの為に。 「わかりました。今から下に下りてご主人に会って来ます。 出来ることなら上に上がってきてもらいましょう」 私の言葉に婦人は嬉しそうにニコニコ笑い、何度も頷いた。 ドアを開けた。さっきまで消えていた階段が出現している。 階段は両親の店にある古い木造の、 下りる時にキシキシ音をたてるいつもの階段だ。 いったん外に出て横にある店を見る。 壁は赤っぽい茶色と、黒っぽい茶色のレンガを 交互に組み合わせたように造られており、 ドアには透明なガラスがはめ込まれ、 中があまり見えないように 白いレースのカーテンが張られている。 アレ ? これは私の親の店だ・・・ いやいや、中に入ったら次元が変わるカモ。 私はそおっとドアを開けた。 カウンターは客で埋まっており、後ろに並んでいた客は やっと全員座れたようだ。 入り口で私がボーと突っ立ってるのを見た母が、 「どうしたのよ、上で待ってるんじゃなかったの、 お腹でもすいたのかい ? 」と怪訝な顔をする。 私は狐につままれたような思いで、もう一度二階に行くドアを開けた。 階段を上がるとまたドアが出来ており、 振り向くと階段は消えて真っ暗な闇が広がっている。 ドアを開けるとベッドの上に、今やシンデレラか白雪姫かと 思えるばかりに美しく変身した彼女がいた。 「主人も一緒なの・・・? 」と彼女が私の後ろに目をやる。 「いや、それが・・・」と私は口ごもる。 「会えなかったの、それとも会ってくれなかったの ? 」 彼女は憂いを含んだ眼差しで私を見て今にも泣きそうだ。 「そうじゃないんです。 あの・・・やっぱり下は私の両親の店でした」 私が申し訳ない思いを込めて言うと、 そう・・・と彼女は深いため息をついた。 何とかしてあげれないだろうかと思ったとき、 突然ママの顔が浮かんだ。 そうだ、ママなら・・・希望はある。 「近くに知り合いがいるんです。その人なら、きっと何とかして くれると思います。今から行って相談してきますから、 少し時間を頂けませんか」と私。 「時間だなんて・・・そんなものいくらでもあるわ。 是非お願いします」 「わかりました」 すがるような目で言われて私は急いで階段を駆け下り、 ママの店に向かった。 〜つづく (ママの店11) その他の作品紹介
2006.06.14. (00:06) 小説 文学 /
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 クロの目は依然治らない。暑くなりだすと涙で濡れた皮膚がただれてくるので、一日に数回消毒して薬をすり込まないといけない。 クロは猫達の中でもとびきり性格が良く賢い。オッチョコチョイで時々怒られるけど、私はこよなくクロを大事に思っている。なんとか早く治してやりたい。  家の中にいると外の暑さが全然わからない。外から帰ってくる家族は皆今日は蒸し暑かったと言うけれど、まだまだ本格的な夏は訪れていない。ベランダの植物達を室外機の熱風から守る為、完全に移動した。 さあ、これでいつでもクーラーがつけられるゾ。 ・・・お知らせ・・・ (ママの店12前編) HP上にUPしました。 (ママの店11) その他の作品紹介
2006.06.13. (00:16) 小説 文学 /
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 シマジロウはいくつになっても子猫と変わらない仕草をする。 お尻タカタカもそうだし、とにかくダッコが大好き、褒めてもらうの大好き、怒られるの大嫌い・・・は当たり前だが。シマジロウ達が生まれた時を思い出す。手のひらにスッポリと包み込める大きさだった。 抱き上げるなんてとんでもない、人差し指と中指ですくい上げるようにして手のひらに乗せていた。  本日の晩御飯は、イカフライとブナシメジのカレー炒め。プリーツレタスとトマトだ。カレー炒めは食欲の無いときでも食べやすい。 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 「ママの店」  ・・・お知らせ・・・ 申し訳ありませんが店主体調悪い為、本日ママの店はお休みさせていただきます。 (ママの店11) その他の作品紹介
2006.06.12. (00:07) 小説 文学 /
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 クロが最近ブチと一緒に暴れてうるさい。まるでボクシングをするように向かい合ってポカポカ殴り合いをするのだが、その声がものすごく大きい。多分罵り合っている声に違いないが、遊びの一種なのか本気なのかがわからない。しかし、殴り合いの凄まじさのわりに怪我がない。 夜も一緒に仲良く寝ている。やっぱり遊びか・・・  ベランダから下を見下ろして携帯で写した。もうすぐ日が暮れて、マンション群のすべての廊下にポツポツと白い明かりが燈る。 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 「ママの店」 こうなったら仕方が無い。私は彼女の話しを聞いてみることにした。 「ご主人は下のどこにいらっしゃるのですか、 下は僕の両親が経営しているレストランのはずなんですが」 そこまで言っていきなり自信がなくなった。 二階が異次元なら、下も今は 両親の存在している次元ではないかもしれない。 「主人も下でレストランをしているわ。 あなたのご両親もレストランをしていらっしゃるのね、 でも下は私の夫の店よ。あなたの言っている下って どこの下なの ? 」 あなたの真下がそうなんですよ、と口に出かかったがやめた。 今の彼女に異次元の説明などしても、 わかってもらえそうにない。 「いえ、この下ではありません。別の場所です」と私。 老婦人は笑いながら、おかしな人ねと言った。 それから急に真剣な目をしてベッドから身を乗り出してきた。 相手は上品な婦人だし、言葉も少しだが交わしているから 恐れなどはもうとっくに無くなっていたのだが、 白髪の老婆にいきなり迫ってこられると やっぱり反射的に身を引いてしまう。 しかし彼女は逃がさないと言わんばかりに私の両腕を掴んできた。 私の腕に枯れ枝のように細く硬い指が食い込んだ。 痛い ! と言ったが無視される。 彼女の顔は真剣のあまりか、今や般若の面のように恐ろしい。 なまじ丹精な顔をしているからよけいに恐いのだ。 そう考えると般若は美人・・・この人も美人・・・ 自分でも顔の筋肉が緩んでくるのがわかる。 逃げないとわかって安心したのか、 彼女は私の腕から手を離し、またベッドに座りなおした。 「私はもう、死んじゃってるの・・・」 伏せ目がちの顔で、私の顔をチラッと見て彼女がつぶやく。 私はきっと、それがどうしたというような顔に なっていたに違いない。 「あら ? 恐がらないのね」彼女がおかしそうに首を傾げる。 そこで私はいきなり彼女の変化に気がつき目を剥いた。 何と不思議なことに、彼女は若返っている。 確かにいちばん最初に見たときより三十は若くなっている。 しかも、若くなった彼女は凄美人・・・ 私の口がいきなり勝手に喋りだす。 「恐くなんかあるもんですか、 だってここに存在しているってことは 皆死んでるってことですからね、 あ・・・いえ僕はビジターなんで、まだ生きてるんですが、 ママが、いえ、僕の知り合いなんですが、 これがまた意地悪でいつも僕を苛めるんですが、 やさしいところもありまして、 それにまたちょっとばかり美人なもんで、 いえ、あなたほどではないんですが・・・」 婦人は顔をしかめ、目をつぶって両手で×を作った。 「ちょっと、何を言っているのかわからないわ。 落ち着いて話してくれないかしら、私頭が痛くなっちゃった」 「すみません。つい調子に乗っちゃって・・・」 私の元気がいきなりしぼんでいく。 〜つづく (ママの店11) その他の作品紹介
2006.06.11. (00:34) 小説 文学 /
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 カスガはシュウと仲直りしてから、 一匹で寂しそうにしているということは無くなったのだが、 今日はどうしたことかポツンとカウンターの上で 難しい顔をして座っていた。シュウとまた喧嘩したのだろうかと心配になったが、寝るとき一緒だったので多分大丈夫だろう。 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 「ママの店」 よく見ると彼女の髪は真っ白だが、 たっぷりとした量感にあふれる艶、 軽やかなパーマネントウエーブが美しい。 顔は肉が少なく、ほとんど皮だけなのは 年寄りだから仕方ないとしても、 不思議なことに老人特有のシミが一つも見当たらない。 目鼻立ちと色白の肌が、 若かりし頃の美貌を思い起こさせる。 部屋の中も、最初は不気味に思えたが、 今ではオレンジ色の明かりが暖かく感じられ、 とても居心地が良い。 彼女が掛け布団を掴んでいた手を離すと、 上半身が露になった。 着ている白いパジャマは、多分上等のコットンだ。 首をすっぽりと包むような形の襟元には 良く見るとピンクとグリーンの糸で 小さな花の模様の刺繍が散りばめられており、 ふっくらとした袖の先は、たっぷりと取ったシャーリングで 手首をやさしくつつんでいる。 このまま外出着としても十分通用するような 贅沢なパジャマだ。 老婆というより、老婦人と言わなきゃならないだろう。 老婦人が腕を上げ、骨と皮になった指先を私に見せる。 左手の薬指にはめられているのは、 既婚者であることを示すプラチナのリングだ。 でも、哀しいことにどうしても、 細い枯れ枝にひっかかっているリングを想像してしまう。 これじゃ、いつ抜け落ちても不思議じゃない。 「お願いがあるの・・・」小さな声で彼女が喋った。 こりゃ近くに寄らないと聞き逃す。 私は慌てて彼女の口元に耳を近づけた。 「あの人に、主人に伝えて・・・」 私は一瞬面食らう。 主人て誰だ・・・私の知り合いか・・・ 「あのう、ご主人はどこにおられるのでしょうか」 あっ・・・バカバカ、よけいなことを聞いちまった。 ご主人を知りませんので、他の人に頼んでくださいって 言えば良かったんだ。 「主人はね・・・下の・・・」 もう、あとの祭り・・・まんまと彼女のペースに乗せられた。 〜つづく ママの店11 その他の作品紹介
2006.06.10. (00:27) 小説 文学 /
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 チャーは性格が温和で人懐こくて、とても可愛い。 少しオシッコの管理が悪いが、そんなものオムツをすればすむことだ。チャーと呼ぶと可愛い声で返事をする。ただ気が弱いのが玉に瑕で、驚いた拍子に爪を出す。この子の為に私の胸や手足は傷だらけだ。 1 2 |