
朝昼は何かと忙しく猫達の写真を撮るのはどうしても
夜になってしまう。
たまに昼ご飯の後写真を撮ろうとしても
猫達は夜のようにじっとしていてくれない。
我が家の猫は人間と同じような生活リズムで、
朝昼はいろいろと用事(探索とか悪戯)があるみたいだ。
夜はご飯を食べてテレビでも見たらもう寝る準備を始める。
1 2 3 4 5 6 7 「ママの店」
「じゃあ、そろそろ行こうか」
えいじはしずえを抱きしめていた腕を緩めた。
お互いを見つめ合い、頷いて二人は前を向く。
死の淵を前にして、恐れがまったく無いはずがない。
二人の足が微かに震えているのがわかる。
「やっぱり紐を持ってくれば良かったわね。
飛び降りた後で離れ離れになっちゃうわ、きっと」
しずえが不安そうにえいじの顔を見る。
えいじはゆっくりと首を横に振り、やさしく微笑んだ。
「そんなものいらないさ、
僕は君を抱きしめたまま飛び降りるからね。
落ちてから体が離れ離れになったとしても、魂は一つさ」
そんなえいじの言葉に、しずえはとても嬉しそうな顔になった。
死を目前にしているからこその会話だとわかっていても、
私の胸の中で嫉妬が強烈に燃え狂う。
くそ・・・
「死んですべてを終わりにするなんて卑怯者のすることだ。
本当にお互いを愛しているなら、生きる術を考えるべきだろう」
大声で喚きながら両手を広げ二人の前に立ちはだかったが、
二人には私の声も聞こえないし姿も見えていない。
えいじがしずえの手を握り、私の体を通り抜けて一歩前に進み出る。
しずえが目を閉じたその瞬間私は二人を引き戻そうとした。
そんなことをしても無駄だとわかっている。
でも、止めずにはいられなかったのだ。
やはり何の感触もない、もうダメだ !
あきらめかけたそのとき、えいじの体が後ろにのけぞった。
またもや奇跡が起こってくれたと喜びかけたとき、
「え・・い・・じ・・さ・・・ん ・・・ 」
長い言葉の尾を引いて、しずえは一人暗い奈落の底に落ちていった。
なんてこった、私はえいじだけ助けてしまったのか !?
肝心のしずえを死なせては何にもならない。
でも、すぐにえいじが後を追うだろう・・・と思ったが、
えいじは崖っ淵から下を覗き込み、そのままクルリと向きを変えた。
おいっ、お前飛び込まないのか !
私はえいじの胸倉を掴もうとしたが、
やはり今度も服に触れることすら出来なかった。
えいじが上着のポケットから煙草の箱を取り出し、
一本抜いて口に銜え火をつける。
「紐があっちゃ困るんだよ・・・」
煙を吐き出しながらえいじがつぶやく。
どういうことなんだ・・・
考える間もなく、何者かが草むらをかきわけて
こちらにやって来る気配がした。
追っ手だな・・・ さあ、えいじどうするんだ、
死に損なった為にお前は今から地獄を見るんだぞ !
たちまちえいじは五人の男に囲まれる。
派手なシャツを着た男どもは、どいつもこいつも
普通の職業ではありえない風体をしていた。
こいつらが今まで二人を追いかけ回していた連中なんだろう。
男どもの中でも一際目立つ、
頭をツルツルに剃った四十がらみのデブ男が、
ガムか何かをペッと吐き捨ててからえいじの前に出て、
崖の淵から下を見下ろした。
「うまくいったようですね」と男がつぶやくように言うと、
えいじは吸い終わった煙草を捨て、靴で踏みにじった。
「死体は無事見つかるでしょうな・・・」と男がえいじの顔を見る。
「下は岩場だ。ちゃんと確かめてある」
えいじは男の顔を見もせず、冷たく凍った能面のような顔で言った。
「えいじさんも酷いお人だ、あんな上玉もったいねえ・・・」
頭ツルツルのデブが上目遣いでえいじを見ると、
えいじは薄い唇を歪ませ、フンッと鼻をならした。
「女は俺の為に喜んで金に変身してくれるのさ。
しずえは三千万の札束になってくれたんだ、俺の為にね」
黙って聞いていた私の怒りが頂点に達していた。
こいつはしずえに三千万の保険をかけていたんだ。
今までにも、結婚しては妻に多額の保険を掛けて殺していたのだろう。
言葉巧みにしずえに近寄り結婚して、
頃合を見はかり友達の借金の保証人になったと嘘を言う。
仲間のヤクザに芝居をさせて取立てに来させ、
逃げ回らざるをえないように追い込んでいく。
どこに逃げてもすぐ見つかるのは当たり前だ。
こいつが居所を教えていたんだ。
自分の美貌で女の心を奪い、命までも差し出させるなんて・・・
許せない、こいつは人間の皮を被った化け物だ !
〜つづく
(ママの店12前編) (ママの店12後編)その他の作品紹介
2006.07.06. (00:33)
小説 文学 /
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