
チャオは子猫のときから一番の美形で、末が楽しみだと思っていた。
性格も温和で、おっとりとして
食の方もガツガツしたところがなかった。
それがいつからかは忘れたが、ちょっとしたことで
ヒステリックに叫ぶようになり、機嫌が悪いときは手当たり次第
仲間を殴ったり噛んだりするようになった。
でも皆知らん振りで、また始まったかというような態度で
相手にしないようにしているから、
チャオは大抵一匹孤独に佇んでいる。どうしてこんなことに
なってしまったんだろう・・・チャオに限らない、カスガだって
クロだって皆どこかおかしくなった。
どう考えてもゴンの死が原因としか考えられないのだが・・・
ペットに死なれた飼い主がペットレスになることはよく聞くが、
仲間の死が猫達に陰を落とすことがあるのだろうか。
1 2 3 4 5 6 7 8 9 「ママの店」
崖っ淵に引きずってきたえいじを突き落とそうとした時、
「ちょっと待ってくれ、
最期に一言だけ君に言っておきたいことがある」
てっきり気絶しているかと思っていたえいじが、
ヨロヨロとしずえに向かって手を延ばした。
どうせ命乞いだと思った私は、
「この期に及んで見苦しいぞ、お前は今まで何人の女を
こうやって殺してきたか思い出してみろ。
お前に騙され、殺された彼女達の悔しさがわかるか」
私が諭すようにえいじに言うと、
何とえいじは油断していた私の隙を突き、
死に物狂いで手を振り解き、
いきなり地面に両手を突いて土下座した。
「しずえ、許してくれとは言わない・・・ただひたすら
君に謝るしかないと思っている。すまなかった。
僕は今まで何人もの女を殺してきた。
死んだ彼女達には申し訳ないが、一人とて心から愛した人は
いなかったんだ。
だから後悔は無かった・・・君に出会うまでは」
えいじは涙に濡れた目でしずえを見た。
しずえの姿はまだ血まみれの恐ろしい姿のままだったが、
えいじの言葉に動揺しているのが感じられて
私はとても不愉快になった。
この男はしずえがまだ心の隅で自分を愛していると知っている。
このままえいじに喋らせておくのは絶対に良くない。
「だ・ま・れ・え、え、え・・・」
私は渾身の力を振り絞り、いきなりえいじの体を持ち上げて
崖から放り投げた。
笛を吹くような悲鳴をあげてえいじが落ちて行く。
「あの世で皆に謝るのが筋だろうが、アバヨゥ ! エロ男」
私のいきなりの暴挙を止める間もなく、
しずえはまるで空気が抜けた風船のようにしゃがみ込んだ。
「しゃ・・・喋らせてあげても、良かったんじゃない ? 」
恨めしげに私を見上げるしずえに、
私は怒りを込めて言った。
「君はまたあいつに騙されるところだったんだよ、
いいかげんに目を覚ましなよ。あいつの性根は腐っているんだ
それよりも早くあいつのところに行って死んだかどうか確かめる
のが先じゃないのか」
「そうね、あなたの言う通りよ・・・」
我に返ったのかすぐさましずえはえいじの後を追い、
暗黒の深淵の中に吸い込まれて行った。
私もしずえに続いて飛びかけたが、
グジャグジャに潰れたしずえの頭を思い出し、
恐怖で足がすくんで飛ぶことが出来ない。
小心者の根性無し、私は両手の爪で頭をボリボリ掻きむしり、
飛ぶことも出来ない自分を責めた。
その時いきなりどこからか突風が吹いてきて、
私の体はすくい上げられるようにして地面から離れ、
やがてゆっくりと下に落ち始めた。
不思議と私の心から恐怖が消えていた。
それは落下速度が緩やかだったこともあるが、
私はママの存在を全身で感じていたのだ。
ママが私を下に降ろしてくれている・・・
〜つづく
(ママの店12前編) (ママの店12後編)その他の作品紹介
2006.07.08. (00:18)
小説 文学 /
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