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樋口裕子

  • 名前:樋口裕子
  • HP⇒ハレルヤ

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2006.07

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オンライン小説&出版本紹介のHP「ハレルヤ-樋口裕子-」のブログ、夢日記や短編小説など書いていく予定です。(コメントの欄に業者の方の宣伝はご遠慮願います)
 我が家の猫達&晩御飯&ママの店


今日もカスガとシュウの雲行きが怪しくなったので、
また怪我をしては大変とばかりにシュウを叱った。
シュウは目をウルウルさせて強烈に悲しみを訴えてくる。
そんな顔をされるともうたまらなくなり、結局は抱っこして
可愛がることになるのだが・・・
だいたいシュウは台所で悪いことをする他の猫どもを
威嚇して追い払ってくれたりする賢い猫だ。
自分が怒られるいわれはないと堅く信じているに違いない。
カスガの怪我のことも、ひょっとしたら
カスガに原因があるのかもと思えてきた。


ハンバーグ・・・今日は私が作った。
みじん切り玉ねぎと、食パンを牛乳にひたして軟らかくしたもの、卵、ナツメッグ、塩コショウ、ミンチをすべて混ぜて練って焼く。
両面こんがりと焼けたら、ケチャップ、ウスターソース、赤ワインを直接フライパンに入れてからめるようにして煮る。
付け添えはグリンアスパラとしめじのソテー。これは長女が作った。
いつも思うが盛り付けのセンス無し・・・でも美味しかった。

別荘

       「ママの店」

どうやら私が慰めてあげたから
落ち着いたのではないらしい。
けいこちゃんはコックリコックリ居眠りを始めた。
やっぱり子供だ・・・お腹が一杯になったら
寝ちゃうんだ。
私はけいこちゃんをそっと抱きあげ、
ソファーに寝かせてあげた。
たかだか二歳くらいの幼児の体は、
まるでお人形のように軽く頼りない。
この小さな体で彼女は
とんでもない経験をしたに違いないのだ。
どのような理由があるにせよ、この子を
悲しいめにあわせた奴が許せないと思った。
口元についたケチャップの汚れを
そっとナプキンで拭き取ってあげながら、
無邪気な寝顔を見つめていたとき、
部屋全体がいきなりガタガタ揺れ始めた。、
けいこちゃんやソファー、机、壁、
私の視界にあるものすべてがグニャリと歪み、
激しいめまいが襲ってくる。

またどこかに飛ばされるんだ・・・
そう思ったとき、
私の耳にいきなりカーンカーンカーンという
警報のような音が飛び込んできた。
慌てて辺りを見回すと、薄ぼんやりとした目の前に
黄色と黒のテープを交互に、斜めに巻きつけた棒が
横倒しの状態で浮かんで見える。
しかし私は、その棒が浮かんでいるんじゃないと
すぐに気がついた。
それは遮断機の棒だ・・・  
踏み切り、私は今踏み切りの中にいる。

「ママ・・・危ないよう、電車が来るよう、
 ねえったら、立ってよう」

小さな女の子が
線路の上にあぐらをかいて座り込んでいる
母親の手を引っ張り、泣きそうな声をあげている。

けいこちゃんだ・・・
それじゃこの人が母親か。
ざっと見たところまだ二十代の初め、
今までどこかで酒をしこたま飲んでいたのだろう。
後ろで束ねてあった髪が
半分ずり落ちて首に巻きついている。
ピンクの半袖シャツにジーパンを穿いているが、
悪酔いして失禁したのか
腰の辺りに濡れたような染みが出来ている。
最低の姿だと私は思った。
お前はそれでも母親かと罵りたかったが我慢した。
言ってもどうせ聞こえないのだが、
けいこちゃんを前にして、母親の悪口は言えなかった。

「うっさいなあ・・・ママはもう寝るの、
 ずうっとずうっと寝るの。
 だからけいこは、あっちに行きなさい。
 一緒にいるとあんたも死んじゃうよ」

水に溺れているように両手を動かして、
子供の手を振りほどこうとしている。
いい年をした女がまるで小さな子供のように
駄々を捏ねているのを見ていると腹が立ってくる。
それでもけいこちゃんは、
左方向の闇の中を覗き込みながら、
一生懸命母親を線路から引きずり出そうとしている。
やがて警報音が一段と激しくなり、
電車が接近する振動が足元に伝わって来た。

「けいこちゃん、逃げるんだ ! 」

私は思わず駆け寄りけいこちゃんの腕を引っ張ろうとした。
でもやはり私の手は、
けいこちゃんに触れることすら出来ない。
とっさに駆け寄ったものの、
何をしても無駄なことは、わかっていた。
けいこちゃんはここで死ぬことになっている。
過去は変えることが出来ないのだ。
しかし私は黙ってこのまま、
この小さな女の子が電車に轢かれるのを
見ていなければならないのか・・・
私は千切れそうになるほど唇を噛み締めた。

クソッこんなもん見たくない。 
ママ、 僕は自分の運命を呪うよっ ! 

暗い空に向かって両手の拳を握り締め、
私は絶叫した。
そのとき・・・
母親がようやく自分のしようとしていることの
愚かさに気がついたみたいで、
ヨロヨロと起き上がろうとし始めた。

「早く、早く、電車、来ちゃうよ」
けいこちゃんが左の方向を気にしながら
一生懸命母親の手を引く。
プァアアアアッ・・・・
電車の警笛が聞こえる、ガタンガタンと枕木が振動を始める。

もうだめだと諦めた母親は、渾身の力を振り絞り
我が子を掴んで向かい側の線路に放り投げた。
それはあっという間の出来事だった。
右方向から来た電車が母親の目の前を、
何かを車輪に巻き込んだような不自然な音をたて、
フルスピードで通過していった。
電車は左からじゃなく、右から走ってきたのだ。
電車は左からしか来ないという二歳の幼児の思い込みが、
とんでもない悲劇を招いてしまった。
酔っ払って判断能力の無くなっている母親は、
けいこちゃんの見ている方向から
電車が来ると信じていた。
だから、電車の来ない方に我が子を投げた。
一瞬正気に戻った母親の
我が子を助けたいという思いは、
反対に我が子を殺してしまう結果を招いてしまったのだ。

我が子が目の前で電車に轢かれるのを見て、
母親は精神が壊れてしまったのか、
泣くことも叫ぶこともなく、
呆然とその場に座り込んだままだった。
やがて彼女の周りに人が集まりだし、

人身事故だ ! 子供らしいぞ ! 

誰かが叫ぶのが聞こえてきた。 

〜つづく

ホームページ上に今までの分を「ママの店13」としてアップしましたので、ご覧ください。
(ママの店12前編) (ママの店12後編)

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2006.07.29. (00:18) 小説 文学 / TRACKBACK(-) / COMMENT(-) /
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