
最近のカスガは本当に可愛くなってきた。今までは人間にはあまり
懐かず、猫の中でうまくやっていくことにだけ一生懸命だった。
カスガには親兄弟がないから
本当に可哀想だと私も思っていたのだが、
今では私ら人間の膝に乗ってきたり、擦り寄ってきたりする。
他の猫達とも仲良く暮らし、一番太って元気になった。
去年大病をしたから、気持ちの中で何かが吹っ切れて
おおらかになったからかもしれないな。
別荘1 2 3 4 5 6 7 8 「ママの店」
群集のざわめきが遠くに聞こえる・・・
悲しみと苦しみの慟哭の渦中に私は飲み込まれ、
どこまでも深く沈んでいく。
今まで数多くの死を目撃してきたが、
これほどまで激しいショックは受けなかった。
体がだるい。熱が出てきたようだ。
胸がむかついて、
吐きたいのに吐けない・・・苦しい、
どうか胃の中のものを吐かせてくれ・・・
私は次元と次元とを繋ぐトンネルの中を、
回転しながらゆっくりと潜り抜けていく。
ようやく前方に丸い光が見え、
私の体はその穴から外に飛び出した。
気がついたら目の前に
けいこちゃんの可愛い寝顔があった。
ぐふっという音とともに
肺の中に溜まっていた空気が鼻腔から押し出され、
そのとたん涙腺の蓋が全開になり、
私の両目に涙が溢れ出す。
けいこちゃん・・・君はこんなに小さい体で、
母親をを助けようと一生懸命頑張ったんだね。
私はけいこちゃんの頭をやさしく撫でた。
眠っている彼女を起こさないように、
そうっと、そうっと撫でてあげた。
「この子の母親は所謂シングルマザーだったみたいね」
いきなり耳もとで声がしたので、おどろいてふりむくと
ママの顔とぶつかりそうになった。
ギョッとして思わず顔を引いたが、
「危ないわね ! いきなり振り向かないでよ」
怒声とともに、ママの眉が吊り上がった。
「ご、ごめん・・・」
とっさに私は謝ったが、
いきなり耳元で声を出したママの方が悪い。
しかし、そんなことを言ったらママが本気でブチ切れる。
気を取り直し、ママに、
「この子のこと調べてきたの ? 」と聞くと、
ママは唇をギュッと引き結び、頷いた。
「母親は中学を出てからすぐに家出をして、
遠い都会で水商売していたの。
もちろん本当の年を隠してね。
そこで知り合った男と恋愛したんだけど、
子供が出来たとわかった途端捨てられたの」
家出娘の哀れな末路か・・・
「でもね、その男っていうのが
大金持ちの長男だったみたいで、
ちゃんと妻がいたのだけど
妻は子供が出来ない体質だと後でわかったの。
男は二人兄弟で、弟も結婚していて
こっちにはちゃんと男の子がいるわ。
だから、子供がなかったら将来家督を
次男の息子が継ぐことになっちゃうのよ。
だから男は焦って、彼女の子供、
つまりけいこちゃんを引き取りたいって
弁護士を通じて言ってきたの」
くそっ、汚い奴め !
財産のために一度捨てた子供を・・・
私の目尻が怒りのために吊り上がる。
「だけど、この子の母親はいくらお金を積まれても、
けいこは渡せませんって突っぱねたのよ」
ほーっ、偉いじゃないか、と私は母親を少し見直した。
「でも、その日から
別の男が毎日のように家にやって来るようになった。
多分けいこちゃんが言っていたおじちゃんね。
彼は相手を口説き落とすベテラン、
こういうやっかいな交渉の為に雇われているのよ。
夜の世界にいたとはいえ、
大人の世界のからくりを知るのには、
まだ母親は若すぎた。
娘の将来を本当に大事に考えるなら、悪いけど
あなたのような仕事をしている母親の傍で育つより、
お嬢様としての人生を歩ませてあげるのが
本当の愛情じゃないですか、なんて
そんなことを言われたら、母親の心も揺れるわよねえ」
「それで、けいこちゃんのママは落ちたってこと ? 」
私の言葉にママは頷いた。
〜つづく
ホームページ上に今までの分を
「ママの店13」としてアップしましたので、ご覧ください。
(ママの店12前編) (ママの店12後編)その他の作品紹介
2006.07.31. (00:43)
小説 文学 /
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