
最近ナナが、何かをくわえて運んで来てくれる回数が増えた。
皆が各自の部屋に閉じこもり、ナナが一人ぼっちになったときによく
例のあの甘い鳴き方をして人を呼ぶ。
きっと寂しいから、誰か傍に来てほしいのだろう。
そう思うから、鳴き声が聞こえたら、
飛んでいってあげることにしている。

可愛い牛のマークがついた白い蒸しパンを食べた。
朝食はいつもトーストとカフェオーレと決めているのだが、
たまには目先を変えて蒸しパン。
フワフワして頼りないかな、と思ったがしっかりお腹にドンときた。
別荘電子出版「短編集 闇の中の住人」1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 「ママの店」
「じゃあ、行こうか」
私は彼女に手を差し出した。
彼女は赤く腫れた顔で怪訝な顔をして私を見る。
「どこに行くの ? 」
「けいこちゃんのいるところにさ」
今彼女を見る私の顔は、
とても慈愛に満ちているに違いない。
ここに来るまでは、彼女を軽蔑していたし、
彼女から子供を奪おうとしていた男のことも憎んでいた。
全員地獄へ堕ちろとまで思い、怒りに燃えていた心が、
この真っ白い靄の中にいて、
ひんやりとした空気を吸った為か、
何故か心が綺麗に洗われて、
神々しい慈悲の気持ちがあふれ出てくる。
「けいこはもう死んだって言ったでしょ。
あなたは死神でもないって言うし・・・
いったいどうやって会わせてくれるの」
私はただ黙って微笑みながら、もう一度手を差し伸べる。
「早く行こう。けいこちゃんが待っているよ」
彼女ははっと何かに気づいた顔をして、
「あぁ、わかったわ、これは夢なのね。
私は夢をみているのね・・・
夢でもいいわ、けいこに会えるなら」
彼女は微笑みを浮かべ手を伸ばしてきた。
私は彼女の手をしっかりと握り締め、目を閉じる。
「ママ、そっちに帰らせて」
そう言ったとたん、
私と彼女のいる白い世界がぐにゃりと歪んだ。
移動が始まる・・・
私にも覚えがあるが、
きっと今彼女の心は不安で一杯のはずだ。
握り締めた手が小さく震えている。
「大丈夫、あっという間に移動します。
しっかり握っていてくださいよ」
私がそう言うと彼女は「はい」と小さな声を出し、
握った手に力を込めてきた。
次元の歪みから大きな丸い穴が生じ、
私達はその穴に吸い込まれ、
何色もの色がごちゃ混ぜになった管の中を、
錐揉みされるようにクルクルと、
体を回転させながら進んでいく。
やがて前方に白く光る小さな丸い穴が見えてくるが、
それは出口。
あっというまに私達は出口にまで到達して放り出された。
そこは見慣れたママの店の中。
私は今まで何度も経験しているからもう平気だが、
彼女は床に尻餅をつき、
目を回したのか半分気絶しているかのようだった。
私も初めてこれを経験したときはそうだったので、
彼女が今どんな気持ちでいるかよくわかる。
「大丈夫 ? 」
床にへたり込んだ彼女に声をかけると、
いつの間に目を覚ましたのか、
けいこちゃんが駆け寄ってきた。
「ママ、ママ、ママ」
けいこちゃんが嬉しそうに彼女の首にしがみつく。
「けいこ・・・けいこなの ? 」
空ろだった彼女の目に生気が蘇る。
「けいこっ ! 」「 ママ ! 」
お互いを呼び合い二人はもう離れまいとばかりに
しっかりと抱き合った。
〜つづく
ホームページ上に今までの分を
「ママの店13」としてアップしましたので、ご覧ください。
(ママの店12前編) (ママの店12後編)その他の作品紹介
2006.08.08. (00:49)
小説 文学 /
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