
「ジャーの傍に行っちゃダメって言ってるでしょ ! 火傷するよ」
いくら言ってもトウは電子ジャーに体をくっつける。
こんな暑い日でも、家の中はクーラーがついているから
体が冷えるのだろう。

アマゾンのエビホロホロが凄い成長をした。また脱皮したようで、
今度は姿がはっきりと見える。彼女なのか彼なのかわからないが、
ますます元気で良かった良かった。
別荘電子出版「短編集 闇の中の住人」1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 「ママの店」
二人の様子を見ながら、私も瞼が熱くなる。
拳で目をごしごしこすっていると、
ママがハンカチを渡してくれた。
「で、どうするの ? 僕としてはこの二人を、
このまま一緒に暮らさせてあげたいんだけど」
と私が言うと、ママはとても困った顔になり、
それは・・・ちょっと・・・と口ごもる。
「そうか、彼女はまだ生きているんだもんね」
私も長くこちらの世界にいるから、
生きている者が簡単に
こちらに来れるとは思っていない。
やはり、けいこちゃんの母親は寿命が尽きるまで
我が子のことを思い、苦しみと悲しみの中で
生きていかなければならないのだ。
「彼女ね、親に縁を切られたわ」
ママが暗い声でボソッと言った。
いきなり現実に引き戻されたような気がして
思わず、えっ ? と言ってママを見た。
「彼女は公費で入院治療を受けているのよ。
それがどういうことかわかる ? 」
ママが眉を顰めて声を落とす。
「こ、こうひ・・・? 」
私は全然わけが分からずブンブンと首を振った。
ママは意味ありげな顔で私の顔を見つめたままだ。
「わかんないよ、どういうことさ」
私は何かとても嫌な予感がして、生唾を飲み込んだ。
「国が費用一切面倒見る代わりに、
新薬の実験台になる・・・」
「えっ ? 」
驚く私を尻目にママは声を潜め、話を続ける。
「新しい薬が作られる度に動物実験するのだけど、
やはり一番効果がわかるには
人間そのもので実験するに限る・・・
彼女は一時的な分裂症だったかも。
でも、ひょっとしたら一生治らないかも知れない。
そういう患者を公費で面倒見るからと言って、
親族に了解を得るのよ。
つまり、治療した結果どのようになっても
一切文句は申しませんってやつよ。
彼女の両親にしてみれば
家出して堕落した娘など、
もう面倒見る気がなかった」
なんてこった、そりゃあんまりだ。
「ひどい親だ、そんなんだから彼女は家出したんだ。
もっと暖かい家庭だったら
彼女もこんな不幸なめにあわなかったろうに」
私は怒りというよりも、
何とも言えない複雑な気持ちになってしまった。
〜つづく
ホームページ上に今までの分を
「ママの店13」としてアップしましたので、ご覧ください。
(ママの店12前編) (ママの店12後編)その他の作品紹介
2006.08.10. (00:51)
小説 文学 /
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