
フクはナナのつれあいだが、ナナはフクをいつも無視している。
たまにフクが追いかけっこを仕掛けると、物凄く怒り猫パンチを
食らわす。でも、昔からナナとフクが噛みあいの大喧嘩をするのは
見たことがない。喧嘩といってもフクが一方的に
ナナに殴られるだけだから、まあこの二匹はやはり夫婦だけあって
仲がいいのだろう。
ナナは自分の側を人間が通るのを嫌う。踏まれたら怖いから
怒るのだろうが、私も足に何回か猫パンチを受けたことがある。
そんなことも不思議の一つで、ナナ以外の猫は誰が側を通ろうと
平気な顔をしている。
別荘「ママの店」1 2 34 5 6「あの・・・」母親が遠慮がちに私を見る。
どうしたんですか、と聞くと彼女は、
これはまた夢の中なのかと不安気に聞いてきた。
夢と言えば夢には違いないのだが、
確か彼女の命はもうそんなに長くはないとママから
聞かされている。
「今のところ夢なんですが・・・
その、つまりですね、あなたはもうすぐ
こちらの住人になる、というわけでして」
私が説明しにくそうにしていると
中田先生が助け舟を出してくれた。
「あなたの体は所謂薬漬けのボロボロの状態で、
半分死んでいるんですよ。だからこちらに
自由に来れるという訳なんですがね、
まあ、豊の言う通り
あなたはもうすぐ完全に死にます」
「そうですか、やっと死ねますか」
母親は嬉しそうな顔になった。
「早く娘の所に行ってやりたいです。
あの子一人ぼっちできっと寂しい思いを
していると思うんです。
あんな恐ろしい姿に変わるほど、
一人にさせた私を憎んでいるんですよきっと。
今度会ったらもう離しません。
思い切り私に憎しみを
ぶつけさせてやるつもりです」
うへえ、また暴れさせるのか・・・
私の脳裏に化け物と化した
けいこちゃんの姿が浮かんで、
思わずプルプルと身震いをしてしまった。
「憎しみなんて初めからなかったと思いますよ」
ママがポツリとつぶやいた。
「えっ、でもあんな姿に変わるということは」
母親が寂しそうな目でママを見る。
ママはニッコリ微笑みながら、
やさしく首を振る。
「けいこちゃんが変身したのは、お母さんがまた
どこかに行ってしまうと思って
駄々を捏ねたんですよ」
駄々をこねた・・・とんでもない駄々の捏ね方だ。
幼女が駄々を捏ねるとあんな怪物になるのか。
私はブツブツと一人ごちた。
ママは私を横目で睨みながら、
「まともな姿のままで、あなたに泣きついても
自分の言い分が通らないと
思ったのではないかしら。
買い物に行っても、けいこちゃんは
買って買ってと駄々を捏ねたりなんか
あまりしない方だったんじゃないですか ? 」
母親は寂しく笑いながら、何度も頷いた。
「あの子は、
欲しいものがあっても我慢する子でした。
私が貧しくて何も買ってやれないことを
知っていたんです。だから私はあの人に、
本当に子供のことを思うんなら
父親に譲るべきだと言われて、
あの子を手放そうと決心したんです。
あの子にもたくさん買ってほしいものが
あったはずなんです。
何一つ買ってやれない私は、
あの子の母親である資格なんか
ありゃしません。
よその子供が玩具でもお菓子でも
買ってもらえるのはお金があるからで、
自分のママにはそんな余裕なんて
ないんだとあきらめていたんですよ。
あの子には随分我慢をさせました。
何年分の我がままなんでしょうかねえ、
あんな姿になってしまうほど
我慢してきたのかと思うと、
母親として、あの子に申し訳なくて・・・
本当にこんなことになるのなら、
もっと早くあの子を
父親に渡しておけば良かったんです。
そうすればあの子は
欲しい物は何でも買ってもらえて
幸せになっていたはずです。
私のつまらない執着心で
あの子を不幸にしてしまいました。
私はあの子がいなくなって、
一人ぼっちになるのが怖かったんです」
そう言って母親は泣き崩れた。
〜つづく
「ママの店14」 をHPにUPしました。
ブログに書き溜めたものをアレンジしておりますが、
暴力シーンやグロテスクな表現が含まれておりますので
ご注意ください。
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