
釜揚げちりめん(しらす)が不評だったので、今日は「かなぎちりめん」を買ってきた。
しらすを毛嫌いしていたカスガが、
かなぎちりめんを必死に食べた。かなぎちりめんは乾燥してあるので固いが、猫達にとっては最高に美味しいらしい。
乾燥させた魚と言えば、出しじゃこなんか猫は好きそうなのだが、
我が家の猫どもは出しじゃこを食べると吐いてしまう。
出しじゃこは結構高いし、猫達も食べないので我が家では出しをエビで取ったりする。
出汁用の乾燥エビを冷凍しておいて、小出しにして使うのだが、同じエビで二回は使える。味も良くて夏は素麺の出汁にもってこいだ。もちろん出汁を取った後のエビは猫達のおかずになる。
「ママの店15」 1 2いきなりドアがバタンッと乱暴に開けられ、
四十歳くらいの女性が飛び込んで来た。
肩まで伸びた髪を振り乱し、
黒っぽいスーツを着ている。
青白い顔だが、少し化粧でもすれば
見違えるほど綺麗になりそうな、
整った顔立ちだ。
「あぁ、また
こんな所に来てしまったわ・・・」
女性はイライラした様子で
店内を見回した後、
スタスタと奥の方まで歩いて行き、
ドカッとソファーに腰を下ろした。
私らは何が何だか訳がわからず、
ポカンとして只見ているだけだったが、
ママは落ち着いた様子でカウンターを抜け、
女性の側に近づいて行った。
「あのう・・・」とママが聞く。
女性はイライラをもろに顔に出し、
「かまわないで、
どうせここも夢の中なんでしょ、
あんたも、そこに座っている人達も
皆私が作り上げた幻よ」
おっ、私らの存在を何と心得る。
私らはお前さんの想像物などではないのだ。
私はムカムカしながら、立とうとしたが、
中田先生に引き止められた。
「ママさんにまかせといたほうがいい」
でも・・・と言い掛けたが、
ここのところは
しばらく様子をみたほうが
いいかもしれない。
私の座っている場所からは、
ママの後姿しか見えないが、
多分ママは今その失礼な女性に、
微笑みを投げかけてやっているに違いない。
ママはいつだって、
ここを訪れる客達にやさしい。
あのときの
犬山さんにだってそうだったし、
壁に掛かっている
写真の少年の時もそうだった。
「何かお飲みになられますか」
ママが聞くと、
女性は感情の無い顔でママを見上げ、
「飲み物まで出るってわけね、
フッ、どうせ飲んでも
味も何もわかるわけないでしょうけど、
一応たのんでみるわ。
じゃ、ホットココアをお願い」
「かしこまりました」
ママは頭を軽く下げ、
カウンターまで戻って来る。
「涼子さん、牛乳をお願い」
ママは涼子さんにそう言うと、
小鍋の中にココアの粉を入れた。
「あの人どうしたんでしょうね」
涼子さんがママに牛乳を渡しながら聞いた。
ママは首を少し傾げ、
唇を引き結んだままだ。
「あんなのほっときゃいいんだ。
いったい自分を何様だと思ってんだろ。
偉そうに・・・」
私が腹立ち紛れにそう言うと、犬山さんが
眉を潜めて、聞こえますよと小声で言う。
聞こえたってかまやしない、
あの人が礼儀をわきまえないからいけないんだ。
「多分、夢の中の彷徨い人なんだろうよ・・・」
中田先生がつぶやいた。
〜つづく
(ママの店12前編) (ママの店12後編)(ママの店13) (ママの店14) ブログに書き溜めたものをアレンジしておりますが、
暴力シーンやグロテスクな表現が含まれておりますので
ご注意ください。
電子出版「短編集 闇の中の住人」
2006.10.12. (00:53)
小説 文学 /
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