クロ は性格がとてもやさしく、がっしりとした体躯で尻尾が太い。
ちょっと困るのは、おっちょこちょいのおせっかい焼き、悪戯っ子、いやしんぼ。そして寂しがりやの小心者。
フクが自分を嫌って無視するのが癪に障るらしく、
いつもフクの側に行ってはシャーシャーと吹き合いになる。
それでクロだけを捕まえて叱ると、
何で俺ばかり怒られるのかとじっと私の目を見つめ、鳴いて抗議する。
クロは私をお母さんと呼ぶ。最初は
オワーワン としか聞こえなかった言葉が最近はっきりと
オカアサン と言うようになった。
それだけにクロとは通じ合うものがあるようで、
私にはクロの考えていることがほぼ分かるのだ。
別荘「ママの店15」 1 2 3 4 5 6 7 8・・・お知らせ・・・
本日のママの店はお休みさせて頂きます。
店主敬白
特別番組 奇談

(一万円のメロン)
数年前のことですが、いつものように
朝刊に挟まれている広告類を
チェックしていました。
スーパーの広告は
後でじっくり見たいので取って置いて、
あとは捨ててしまいます。
その捨てる広告の中で、
以前からちょくちょく気になっていたのが、
『高〇易〇。鑑定料千五百円』
高〇易〇といったら毎年
運勢付きの暦を出していて、
どこからもらうのかわからないけれど、
必ず毎年家にあるアレ。
一白水星とか四緑木星の運勢は・・・
とかいうやつです。
だから、ここなら
怪しい宗教じゃないだろうという
妙な安心感があったんです。
それが、その日の広告には
何と家の近所のビルで鑑定をやるって
書いてあったんですよ。
是非行ってみたいと思いましてね、
でも一人じゃ不安だったんで
娘について行ってもらったんです。
そこは家から十五分くらいのところにある
小さなビルでした。
何階かは忘れましたが、
高〇易〇受付と書いた紙が
貼り付けてある部屋に入ると、
区役所か市役所の窓口によくいる
六十前後の眼鏡をかけた男性が
座っていましてね、
鑑定希望の方ですかって
聞いてきたんで、はいと答えたんです。
そしたら、
「ただいま先生は
他の方の鑑定をされておりますので、
少々お待ちください。
いやあ、あなたはラッキーだ、
さっきまで長蛇の列で
今やっと空いたところです。
待ち時間が
二時間の方もいらっしゃいましたからね」
えっ、このビルの入り口は一つだけ、
来るときも誰にも合わなかった。
それでなくても
人通りの少ないビルの周辺を
知っているだけに
何か変な気持ちになりました。
受付の人が出ていって
十分ほどしてから呼ばれたので、
娘に待っていてもらって、
私一人が先生の部屋に向かいました。
あ、二人で入ると二人分料金を取られますし、
娘は興味ないと言いましたのでね。
部屋は隣にあって、中に入ると
お坊さんが着るような着物を着た
四十歳くらいの太った男の先生が
筮竹やいろいろなものを並べた
机を前にして座っていました。
それで私が
先生の前に行って椅子に座ると、
辛かったなあ・・・苦労したなあって
いきなり
哀れみを込めた声で言い出したんです。
そりゃもうびっくりしましたよ。
何のことか分からないので、
はぁあ?・・・と言ったまま
ポカッと口をあいてしまいました。
さぞかし間の抜けた顔だったでしょうねえ。
それでね、その先生は
ちょっとあきれたような顔になって
「だから、辛かっただろう ?
顔に出てるぞ。
隠すことはないんだ、私にはすべて
お見通しなんだからな」
そんなこと言われても、
心当たりは何にもありゃしません。
私は眉間に皺がよるのが
自分でも分かりましたよ。
口も尖がってきましたし、
いえ、怒ったんじゃないんです。
そういう顔になるのは私の癖なんです。
どうしようって、
頭の中がフル回転してたんですよ。
何のこっちゃまったく分からないというのが
そのときの気持ちでした。
ええ、だいぶ沈黙が続きました。
そしたら先生が、ゴホッと咳きをして、
いったい何の相談がしたくて
ここに来たの ?って聞いてきたんです。
私も料金払っていますから、
鑑定してもらわなきゃ帰れませんからね、
今小説書いているんですが、
このままずっと頑張っていても
無駄じゃないかどうか
知りたいんですって聞いたんです。
そしたら、いきなり怒り出して
「あんた、今それどころじゃないんだよ!
長男が大変なことになっておる。
あんたの後ろには
亡くなった母上が憑いていて、
今警告を発しておられる。
長男の災難を回避しないと、
あんたの家は離散しますぞ!」
私の母は確かに十年前に亡くなっていました。
何で知ってるんだろうと不思議に思いましたが、
それよりも、もっとびっくりしたことが。
「あの、私の子は娘だけで
男の子はおりませんです」
ボソッと言うと、先生は目を丸くして
「おかしいなあ、
母上が長男とおっしゃっているぞ。
水子がおるだろう ?」
これには私もカチッときてしまい、
「いいえっ、おりません。
私は、む・す・め・しか
おりませんしっ、
流した子供もおりません」
と言ってやりました。
先生はおかしいおかしいって言いながら
今度は私の名前を紙に書いて
姓名判断をやりだしたんですが、
あんたの名前は最強だから、
ペンネームはやめて
本名で行きなさいと言ってくれました。
それでまあ、
さっきの気分の悪さは
吹っ飛んでしまったんですが、
その後・・・
井戸があるだろう ?と
またおかしなことを聞いてきたんです。
いいえ、ずっとマンションですからと言うと、
そうか、他に何か相談することはあるか、
と聞くので、じっと考えてから
「あの、実は・・・」
先生は身を乗り出してきました。
「実は、私の家には」
「家には?」
「猫が・・・」
「うん、猫が?」
「はい、子供を生んでとうとう
十三匹になってしまいまして、
何でこんなに増えてしまったのか・・・」
それを聞いたとたん先生は、
全身から力が抜けたみたいに
いきなり椅子にドガッともたれてしまい、
ものすごい大きな溜息をつきました。
そして目を閉じて、
「家庭を守ってもらうにはな、
神様に毎日
お願いしなくてはならない。
メロンなんかをお供えしたら、
そりゃもうお喜びになる。
一個一万円のメロンを
三百六十五日お供えするとしたら、
いくらの祈祷料になるか、わかるね。
それをお供えすれば
悩み因縁すべて取り払われる。
ヨイカ、メロンじゃ」
一個一万円を毎日供えたら、
三百六十五万円・・・
猫の悩みが三百六十五万円・・・
何か馬鹿にされた気がして腹が立ちましてね、
それに
本当にお供えするのかどうかも
怪しいもんです。
心の中で思いましたよ、
「どうせお前らが食べるに決まってる。
お前らに食わすんやったら
ジャスコで一個三百円の
特売メロンで十分じゃ、
自分で買え、何が因縁じゃいアホらしい」
それでもう帰るつもりで席を立とうとしたら、
「五千円のメロンもある」
「ありがとうございました」
私は頭を下げて部屋を出て行きました。
隣で待っていた娘が
どうやった ?って聞くので、
話そうとしたら
さっきの部屋のドアを少し開けて、
先生が覗いてるんです。
ビルを飛び出してから娘に
一部始終話してもう大笑い。
家でもその話で大爆笑になったんですが、
「詐欺や、今度からそんな所に行ったらあかん」
って主人にちょっと叱られました。
でも、千五百円で姓名判断してもらえて、
名前が最強だとまで言ってもらえたんだから
まあ良かったんではと思いましたよ。
それに何より嬉しかったのは、
私の後ろに亡くなった母が憑いている
と言われたことです。
母が守ってくれているんだと思うと
心強いですものねえ。
(ママの店12前編) (ママの店12後編)(ママの店13) (ママの店14) ブログに書き溜めたものをアレンジしておりますが、
暴力シーンやグロテスクな表現が含まれておりますので
ご注意ください。
電子出版「短編集 闇の中の住人」「特別番組 幽霊の話」
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