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樋口裕子

  • 名前:樋口裕子
  • HP⇒ハレルヤ

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2006.11

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オンライン小説&出版本紹介のHP「ハレルヤ-樋口裕子-」のブログ、夢日記や短編小説など書いていく予定です。(コメントの欄に業者の方の宣伝はご遠慮願います)
 我が家の猫達&ママの店
ブチの後ろにチャー

いつもこういうふうに並んで座り、チャーはブチをガブッと噛む。
ブチは湯たんぽで禿た腰の毛が未だ生えてこず、むき出しの地肌を噛まれるとさすがに痛い。私が用事していて手が離せないのを良いことにしてチャーは何度もブチを噛むのだ。動物の世界も人間と同じだ。チャー陰でコソコソ悪いことするのはやめろ、後ろから襲うなんて最低だよ。そんなことばかりしていると私はもうお前をダッコしてあげないからね。

別荘
「ママの店15」           10 11 12 13 14 15 16 17 18  19  20 21 22 23 24 25 26 27 28

私は沈鬱な思いで皆の後について行き、
一番最後にソファーに座った。
頭も上げられず見つめるは足元ばかり。

「でも、僕にはどうすることも
 出来ないよ。僕は自分の意思だけで
 こっちにいるんじゃないんだからね。
 そりゃこっちには
 親もいるしゴンもいる。
 だから僕としてはずっとここに
 いたいと思ってるけど・・・」

そこで私ははっと気がついた。
そうなんだ、私はこの世界にいたいと
思っているのだ。

だからいつまでも戻れない・・・

「ちねばいいのよ」

いきなり
甲高い声が耳に飛び込んできたので、
驚いて顔を上げると、私の目の前に
無邪気な笑みを浮かべて座っている
恵子ちゃんがいた。

「恵子そんなこと言っちゃダメよ」

恵子ちゃんを咎める涼子さんの顔が
笑っているように見えるのは
気のせいだろうか。

だって・・・
と恵子ちゃんは口を尖らせ、
隣にいる良太君の顔を見た。

「つまりは豊兄ちゃん、こっちの世界に
 いたいってわけなんだろ、だったら
 恵子ちゃんの言う通りなんじゃないか。
 兄ちゃんが死ねばすべて解決さ」

良太君、君まで
そんなことを言うのか・・・嘘だろう
すがるような思いで皆の顔を見回すと、
私の横でママは目を閉じて黙り込み、
恵子ちゃんや良太君は
嬉しそうにクスクス笑い合い、
犬山さんとリリーさん、中田先生も、
したり顔を見合わせて頷きあっている。

「皆ちょっと待ってよ、
 死ぬということは
 とっても重いことなんだよ。
 そりゃ僕はこっちの世界にいたいと
 いつも思っているよ、
 でもだからと言って
 死ねばいいなんて、
 そんなふうに軽く口に出来る
 言葉じゃないんじゃないかな」

私はだんだん腹が立ってきた。

「私も死にたくなんかなかったんですよ」
犬山さんがポツリと言った。

「家族を残して
 私は死んでも死に切れない思いに
 苛まれましたよ。
 正直言いますが、
 我々の中で豊さんだけが生きている。
 そんなのは不公平だ」

犬山さんの顔から笑顔が消えている。
そして気がつくと他の皆の顔からも
笑顔が消えていて、青白く冷たい
無表情な顔になってしまっている。

「皆どうしたんだよ、何か変だよ。
 ママ目つぶってないで
 皆に言ってやってよ、
 ママは言ったじゃないか、
 豊には私達の分まで生きて欲しいって。
 あの言葉忘れたの ? 」

私の心はちぢに乱れる。
何とか気を強く持とうと
必死になってはいるが、 
今でも本心は死にたいと思っている。
ある日突然目が覚めて、
この世界から
消えてしまうかもしれない不安に
耐えられなくて、
早く死んでこの町の人間になりたいと
いつもいつも思っている。

でも、やっぱり私は死なない。
あんたにだけは生きていてほしいのよと
泣きながら言ったママの言葉に
死ぬことを考えるのは
止めようと決心したんだ。

死ねと言われて死ぬなんて嫌だ !

「私は中学もまともに出てないんですよ」
今度はリリーさんだ。

「女の子にとって一番輝いている時に、
 私はもう金と男との間を漂っていたんです。
 やっと生活に困らない蓄えが
 出来たときには、私はもうお婆ちゃん。
 こんな年寄りになってしまって
 何の喜びがあると言うのでしょう。
 私は青春を取り戻したいと
 泣きながらあの日バスルームで手首に
 カミソリを当てたんです。
 本当は生きて幸せになりたかったけど、
 失った時は決して戻りはしません」

今まで黙っていたリリーさんが、
誰にも話したことの無い辛い過去を口にした。
その顔は蝋のように白く
血の気が引いてしまっている。

こりゃダメだ、皆過去を思い出して
生きている私を羨んでいる。
このままでは、取り殺されてしまうだろう。
そうだ、さっきから中田先生が黙ったままだ。
先生ならきっと皆を静めてくれる。
私はすがるような思いを込めて
先生の顔を見た。

「私を見るな」

先生は顔に暗い陰を落とし目を逸らす。
先生まで・・・

「私なんて死に損なった為に
 恵子を殺してしまいました」
涼子さんだ・・・

「生き残った私は死ぬことも出来ず、
 薬漬けにされて
 一人生き地獄を味わっていたんです」

涼子さんがポツポツと話始める。
この人もどうせ私に
死ねと言いたいんだろうと、
私は耳を塞ぎたくなった。
クソッ死んでたまるか、
私は自分の目が
ギラギラしてきているのを感じていた。

涼子さんは話の途中で
いきなり黙り込んでしまったようだ。
もっと恨みつらみを
言うかと思っていたので、
中途半端が気になる。

「涼子さん、だからどうなんだよ、
 一人生き地獄を味わったから
 僕にも味わえって言うのか」

私は涼子さんに向かって吼えた。
涼子さんは私の声に
はっと我に帰った顔になった。

「わ、私は豊さんに助けて頂きました。
 豊さんがいなかったら、
 今の幸せはありません。
 私と恵子が
 今こうしてここにいられるのは、
 豊さんが
 生きた人間だからこそだと思うんです。
 死人に死人は救えませんとも」

涼子さんの顔に精気が戻り、
呪縛が解けたような顔になっていた。
私の全身から一気に力が抜け、
助けが現れたことにホッとして
思わず涼子さんにすがりついて
泣きたくなったが、
頭を下げるだけで我慢した。

「涼子さん、ありがとう。
 皆も何かおかしいよ、しっかりして」

私は涼子さんと二人でぼんやりと
抜け殻のようになっている
中田先生達を揺さぶり
正気に戻るように頬っぺたを叩いたりした。

「犬山さん、しっかりして ! 」

私に思い切り叩かれ、
犬山さんの頬がベチッと鈍い音を立てる。
なんとなくムカついて
つい力を入れすぎた。
犬山さんの顔が
みるみるうちに真っ赤になり
我に返ったのか
ビックリしたような顔をしている。
同じく涼子さんに引っ叩かれて
正気に戻ったリリーさんが、
鼻血を流し始めた
犬山さんを見て悲鳴を上げた。

タハッ、やりすぎた・・・
私は隠れて舌を出す。

でも、リリーさんの
絹を裂くような悲鳴で
全員正気に戻ったらしく、
中田先生なんかは
こめかみを押さえて首を傾げている。

ママ はと見ると、
ママはソファーに倒れ込んだまま
ピクリとも動かなくなっているではないか。
慌ててママの側に行こうとした時、
空気がゾワッと振動した。

「あっ、影があんなところに・・」
涼子さんが震えながら
指差す方向を見ると、
消えたはずのあの影が
またドアの横の壁に出現していた。

〜つづく

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(ママの店13) (ママの店14)
ブログに書き溜めたものをアレンジしておりますが、
暴力シーンやグロテスクな表現が含まれておりますので
ご注意ください。

出版「ハレルヤ」「ひとでなしの倫理」

電子出版「短編集 闇の中の住人」

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2006.11.16. (00:19)  / TRACKBACK(-) / COMMENT(11) /
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