私なんて・・・
カリンのこのすねた顔がたまらなく好きだ。ヒャアーと言う鳴き声も女の子らしくていい。これと言って悪さもせず、食は細いし食べるのも遅い。逞しい兄ちゃん姉ちゃん、(ついでに)パパとママの中で一生懸命生きている。考えてみればカリンは病気をしたことがない。他の猫達は病気や怪我で病院に何度も行くが、カリンは生まれた時の検診と避妊手術だけだ。ひ弱そうに見えているが実際は我が家の猫達の中で一番逞しいのかもしれないな。
1 2 3「何をお出ししましょうか」
ママが男に声をかけると、
男はカウンターにつけた左手で
後頭部を掻きながら、
何もいらないから
放っておいてくれと言った。
振り回している右手が
とても横柄に見えて
私はちょっとムカッとくる。
ママは黙ってカウンターの向こうで
食器を片付けながらも
チラチラと男の様子を観ている。
男は握り締めた拳を額に当て、
もう一方の手のひらでその拳を包み込み、
撫で擦るような仕草をしながら
ブツブツと何かをつぶやいている。
私はいざと言う時のために、
そっとカウンターの隅に移動した。
「どうすればいいんだ・・・」
声の暗さで、この男が抱えている
悩みの大きさが感じられた。
「大変なことを知ってしまった」
何を知ってしまったのだろう、
身をよじり悩み苦しんでいる男が気になり、
側に行って事情を聞いてやりたくなった。
「ママ、行っていい ? 」
私は目でママに聞いた。
ママは黙って頷く。
四つばかり離れていた席を立ち、
私は男の隣に座った。
「あ、失礼ですが何か悩み事がおありなら、
もし良かったら
話してみられたらいかがですか」
私がそう言うと、
男は両手の中に埋めていた顔を
ゆっくりと上げ、私の顔を見た。
泣いている・・・何と男は涙で顔を
クシャクシャにしているではないか。
思わず私とママは顔を見合わせた。
「どう、なさったんですか・・・」
私がもう一度聞くと
「知ってしまったんだよ・・・
私は知ってはいけないことを
知ってしまったんだ」
そう言って男は唇を震わせたまま、
大きな目で私を食い入るように見つめた。
「何・・・を知ってしまったんですか」
私はとても嫌な予感がしていた。
〜つづく
="#CC0000">「ママの店16(前編)」
「ママの店16(後編)」 「怪談奇談」に
(幽霊屋敷)ブログに書き溜めたものをアレンジしておりますが、
暴力シーンやグロテスクな表現が含まれておりますので
ご注意ください。
別荘出版「ハレルヤ」「ひとでなしの倫理」電子出版「短編集 闇の中の住人」
2006.12.17. (00:56)
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