俺、クロ 十一歳
クロの様子を遠くから窺っているシマジロウが見える。
本当のクロはもっと少年のように可愛い顔なのに、何で写真だとこんなにゴジラっぽくなるんだろう・・・・
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 男の寂しい顔が胸に痛い。
ひょっとしたら私はこの男を
誤解していたのかも知れない。
この人も、犠牲者なんだ・・・
「お話はよく分かりました。
どうやら僕は
あなたを誤解していたようです。
そしてあなたも
中田先生を誤解していらっしゃる。
もう一度冷静に話し合われては
いかがですか」
そう言って様子を窺うと、
男は下を向き、
しばらくじっと考えているみたいだったが、
分かりましたといって前を向いた時には、
明るい顔に戻っていた。
「僕は豊と申しますが、
あなた、お名前は ? 」
「あぁ、まだ自己紹介
しておりませんでしたね。
恩他査馬(おんたそうま)と申します、
どうぞよろしくお願いします」
恩他と名乗った男は、
ママの店で会った時と違って、
とても良い印象を私に与えていた。
「息子さんは幾つで亡くなられたんですか、
あっ、よけいなことを
聞いてしまいましたね。
お気に障ったら許してください」
何でもすぐに首を突っ込みたがるのが
私の悪い癖だと自分でも分かっているのに、
つい聞いてしまう。
しかし、恩他さんは嫌な顔もせず、
「お気になさらないでください。
雅羽(まさう)は、三つになったばかり
でした。可愛い盛りでねえ・・・
あれは桜が満開の頃でした。
家族で花見に出かけたんです。
雅羽にサッカーボールを
買ってやったんですが、
喜んでボールを蹴っては
追いかけて・・・・」
恩他さんはそこで声を詰まらせた。
私が声を掛けようと身を乗り出した時、
手を振りながら、大丈夫ですと言い、
ぽつぽつとまた語り始めた。
「あれはあっという間の出来事でした。
私と家内がちょっと目を離した隙に、
雅羽は転げたボールを追いかけて、
大通りに飛び出したんです。
走ってきた車に当たって
ひっくり返るのが見えました。
車のスピードも遅かったですし、
当たったといってもそんなに酷い
状態には見えなかった。
雅羽も痛いよう・・・って
泣いていたくらいですから、
まさかあんなことになるとは
思いもよりませんでした。
一応交通事故ですから、
念の為病院へと言うことになって、
救急車で運ばれたんですが、
医師の説明によると
全身打撲の内臓破裂状態で
助かる見込みは無いと言われたんです」
恩他さんはグッと息を飲み込み、
そこで話をやめた。
「えっ、でも事故の瞬間を
ご覧になられたんでしょう?
ちょっと当たって
ひっくり返っただけなのに、
全身打撲はおかしいですよ。
轢かれたんなら話は別ですが・・・」
私がそう言うと、
恩他さんは目から涙を溢れさせ、
首を横に振った。
「罠だったんですよ、何もかもが
仕組まれたことだったんです。
あいつらは最初から雅羽を
ターゲットと決めていたんだ、
運転手も救急車も医者や警察も
皆グルだったんだ。
遺体と対面した時、私と家内は
雅羽が死んでしまったという
悲しみで、もう何も
考えられなくなっていました。
雅羽を家に連れて帰ってから
お葬式の準備をする為に、
雅羽を新しい洋服に
着替えさせてやっていた妻が、
悲鳴をあげたんです。
びっくりして飛んで行って見ると、
雅羽の首下から腹まで真っ直ぐに付いた
手術跡の紫色に変色した縫い目の隙間から、
血が滲んではいるものの
白いガーゼのようなものが
はみ出ていたんです。
私は気が狂ったように雅羽の縫い目を
解いていました。
何故かそうしなくてはいけないと
思ったんです。
家内は放心状態のまま私のすることを
じっと見ているだけでした。
傷口をひらくと案の定
ガーゼが一杯詰め込まれていましてね、
それでそれを取り除くと、
無いんですよ・・・
内臓が皆無くなっていました」
その後の沈黙がどれほどの長さだったのか、
私にはもう分からなくなっていた。
内臓が無くなっていただなんて、
これはどういうことなんだ・・・・
〜つづく
「ママの店16(前編)」
「ママの店16(後編)」 「怪談奇談」に
(幽霊屋敷)ブログに書き溜めたものをアレンジしておりますが、
暴力シーンやグロテスクな表現が含まれておりますので
ご注意ください。
別荘出版「ハレルヤ」「ひとでなしの倫理」電子出版「短編集 闇の中の住人」
2006.12.25. (00:51)
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