二代目奉行
シュウは台所奉行をほとんどやらなくなった。
たまにカウンターの上に座っていることもあるが、
もう横にどんな猫達が乗って来てもジロッと睨むだけで怒らない。
そこで今まで時々シュウの横について猫達を仕切っていた妹のトウが、替わりに奉行の座に着いた。しかし問題が発生。
トウは体が小さすぎるのだ。
シュウの真似をして必死で頑張ってはいるのだが、
食い意地の張っているクロやブチ達大型猫に、小さなトウが
いくら牽制パンチを食らわしても全く応えないし感じない。
その姿がおかしくて、つい笑ってしまった。
折角人間の為に頑張ってくれているのに笑ったりしてごめんね、トウ。
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 私は白いリノリウムの床に
ペタリと座り込み頭を垂れた。
母が死んだ理由を
今はっきりと思い出したからだ。
リセット出来るならばあの日に戻り、
母が転倒しないように守りたい。
それが無理なら、
骨折して運ばれた病院で、
さして意味の無い輸血をしようとした
医師を止めよう。
しかし、そんなこと出来るはずがない。
ゲームじゃないんだから
絶対リセットなど出来ないのだ。
何でまたこんな場面を見ているのだろうか、
折角今すべてを忘れ、昭日町で元気な母と
暮らせているというのに。
「昭日町は、あなたが
現実の苦しみから逃げる為に
作り上げた幻の町にすぎないんですよ」
恩他さんの声は静かだったが、
私の胸にズッシリと重く圧し掛かった。
「それは違う!
僕は絶対自分の意思で、
昭日町を作った訳ではない。
母の死に関しては
もちろん悔しくてたまらないよ。
でも、だからと言って
それと私が今住んでいる
昭日町とは何の関係もないんだ」
私は恩他さんの方に体を向け、
声を荒げた。
何も恩他さんに腹を立てた訳じゃない。
自分自身に言い聞かせるつもりがつい、
声を荒げることになってしまった。
でも恩他さんは、
別に気分を悪くしたようでもなさそうで、
首を横に振りながら、
「いえいえ、何もあなたを
責めているつもりはないんですよ。
すみません言い方が悪かったですね」
申し訳なさそうな顔で謝った。
私も恩他さんに対して、
声を荒立てたことを謝ろうと思ったのだが、
意に反して体が動かず、
ただ黙って下を向いているのが
精一杯だった。
膝の上で握り締めた両手の拳が震え、
涙が拳の上に落ちた。
泣くまいと
我慢すればするほどに全身が震え、
出すまいと唇を固く噛みしめているのに
嗚咽が漏れる。
「お母様は怪我をなさらなかった・・・
そういうシナリオに
書き換えてさしあげましょう」
「・・・・」
それは聞き間違えだと思った。
そんなことが出来るはずがないのだ。
多分私の顔がそう言っていたのだろう。
恩他さんは口元に笑みを浮かべ、
首を横に振った。
「聞き間違えではありませんよ。
怪我をしなかったら、
お母様は死ななくてすむ。
あなたがそう願えばの話ですが」
願えば叶うのか、それなら・・・
願いますと口から出かかったのだが、
まてよ・・・
私の頭の中にいきなり疑問が湧き上がった。
〜つづく
「ママの店16(前編)」 「ママの店16(後編)」 「怪談奇談」に
(幽霊屋敷)ブログに書き溜めたものをアレンジしておりますが、
暴力シーンやグロテスクな表現が含まれておりますので
ご注意ください。
別荘出版「ハレルヤ」「ひとでなしの倫理」電子出版「短編集 闇の中の住人」