トウ
台所の隅っこにトウがいた。あんまり小さいのでつい見過ごしてしまう・・・はずはない。トウがいくら小さくてもお母さんはすぐに見つけてあげるよ、今日の一番ダッコはトウに決まりぃ!
82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95「黙れっ、黙れっ!」恩他は狂ったように
怒鳴り始めた。
「おまえは何も分かっちゃいないんだ。
おまえには死を語れない。
それは何故か、それはおまえが死んでは
いないからだ。
死んでいないおまえに死者の気持ちが
分かるもんか」
「やっぱりあんたは只の悪霊ね、
そんな事は最初から分かっていたけど、
自分を魔王だなんて誇示してみたり、
ハリボテの城を造って私達を呼び寄せたけど、
城の中までは造れなかったから、
爆発させて誤魔化したわね、
何で造れなかったか教えてあげましょう。
あんたは城の中が
どうなっているか知らなかったのよ。
単純な答えだけど、見た事も無い物は
あんたには造れない。
想像する事すら出来ないあんたの頭は
まだ未熟なの。
いいかげん本性を現せたらどうなの、
おいたが過ぎるわよ、坊や」
ママは目を細め、恩他に言葉を叩き付けた。
最後の坊やって言葉がちょっと気になったが、
恩他が怒りで全身をブルブル震わせているのを見て、
こいつが今から何をやらかすかの方が心配だった。
こっちには女性と子供が二人もいる。
また人質に取られたら大変だ。
恩他はいきなり両腕を広げて上に突き上げ、
獣のような叫びを上げた。
するといきなり辺りの景色が一変し、
我々は真っ暗な荒野に立っていた。
この前飛ばされた時と同じ場所だ。
リリーさん達とまた離れ離れになったかと、
焦ったが、リリーさんは恵子ちゃんと良太君を
しっかり抱いて少し離れた所にいてくれた。
「涼子さん、犬山さん、あの子達を守って」
ママの言葉が終わらないうちに、
犬山さんと涼子さんはリリーさん達に向かって
走り出した。
「あれは何だっ」中田先生の声と同時に、
私も異変を感じて上を向くと、
上空に真っ赤に焼けた
巨大な溶岩が出現していた。
存在している物すべてを溶かし尽くす火が、
ドロドロと渦を巻きながら上空にある。
暗かった辺りが火に煽られ、焼けるような熱さに
我々は思わず甲冑のついた腕で顔を覆った。
恩他は狂ったように笑っていたが、
いきなり笑うのをやめて、ママを見た。
「静江、地獄はちゃんとあるんだよ。
おまえがかつて愛した英二が、
今あの溶岩の中で
溶かされては再生してを繰り返し、
苦しんでいるんだ。
あの男は確かにおまえの霊力で、
浄化されかかっていた。
だから、ほとんど悪の心は
消えかかっていたんだ。
今は純粋におまえを愛して心から詫びているよ」
恩他は哀れみを込めた声でそう言い、
ママの顔をじっと見ている。
でも、英二は私をたぶらかす為に
和美さんと一緒に恩他の手伝いをしたのは
どう言う訳だ。折角浄化された魂が、
恩他によって再度汚れたって事なのか・・・
おい、恩他、と呼びかけると、
恩他はギロッと私を睨んだ。
「英二は和美さんと一緒に僕を騙そうとしたぞ。
たとえおまえの命令であったとしても、
おまえの言いなりになったと言う事は、
元の悪人に戻ったと言う事じゃないか」
恩他は口を痙攣させて、嫌らしく笑い、
愚か者めがとつぶやいた。
「何っ!」と私は恩他に殺意を向けたが、
「馬鹿者、私は何でも姿を変えられる事を忘れたか」
そう言った瞬間、恩他の姿が消え、
英二がそこに立っていた。
「分身だって出来るんだよ。あたしはだあれ?」
クスクスと笑った英二の横に和美さんが出現していた。
そうか、それじゃ今まで英二や和美さんだと
思っていたのはすべて恩他だったのか。
困惑している私の様子が面白かったのか、
恩他はクスクスと和美さんの声で笑いながら、
また元の自分の姿に戻っていた。
「馬鹿なおまえの、薄い脳が
混乱して発狂してしまわないように、
これでも気を使ってやっているんだ。
私はお前達の誰にだって変身出来るし、
分身も思うが侭だ。
静江や中田達の姿になって
おまえの前に現れたら私だと見破れるかな?」
クソッ、確かにそんな事をされたら
頭が混乱してしまう。
私は唇を噛んで恩他を睨みつけていた。
「しかし、まあ安心しろ。
おまえなんか今はどうでもいい、
興味があるのは静江と英二だ。
静江、おまえは英二をまだ愛している。
たとえあの男に殺されたとしても
愛はそう易々と消えるものじゃない。
その証拠に、おまえは
英二が地獄に落ちないように
ペンダントに封じ込め、後生大事に首から
ぶら下げていたじゃないか。
もう少しの所だったね、
英二はおまえの胸で温められ、
浄化出来る寸前だった・・・」
恩他は哀れみ深い目でママを見つめている。
ママは黙っているが、
心の中は決して穏やかでは無いだろう。
「ママさん、あいつの言う事なんか
まともに信じちゃダメだ」
中田先生がママにそっと耳打ちすると、
ママは恩他の顔をじっと見たままだったが、
分かっていますと言うように、
ゆっくり頷いた。
「恩他、もしおまえの言う通り、
彼が浄化されていたとしたら、
地獄などへは行きはしないだろうよ、
上にあるあの溶岩は煉獄だ。
その中にいるのは英二ではない、
むしろあそこにいるのはおまえ自身なんだと
私は思うね」
中田先生は穏やかな声で恩他にそう言った。
〜つづく
別荘「ママの店16(前編)」 「ママの店16(中編)」 「ママの店16(後編)」 「ママの店17前」 「ママの店17(中編)」をHPにUPしました。
「怪談奇談」に
(幽霊屋敷) 連載小説「ドタバタ 新米刑事とベテラン刑事」9話目ブログに書き溜めたものをアレンジしておりますが、
暴力シーンやグロテスクな表現が含まれておりますので
ご注意ください。
出版「ハレルヤ」「ひとでなしの倫理」電子出版「短編集 闇の中の住人」
2007.04.14. (00:55)
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