フク〜
もうフクッたら、目を丸くしちゃって、そんな可愛い顔してももう遊んであげれないよ。コタツを片付けてお布団敷きたいの、早く天板から降りてちょうだい。それから、もう走っちゃダメだよ、ブチとクロが目を覚ますからね。
82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98恩他は倒れたまま、全く動かない。
あの強気で小ずるい恩他が、
このまま引き下がるようにも思えないが、
とりあえず一応
決着がついたと言う事だろう。
ママも英二に抱かれたまま動かず、
こちらの方はしばらく
放っておくしか無いみたいだ。
犬山さんが恩他の様子を見に行こうと
言いだしたので、
「良太君、恵子をお願いね」
と涼子さんが良太君に声を掛けた。
良太君は興味深々の顔で
ずっとママと英二を見ていたが、
涼子さんに恵子ちゃんを託され、
分かったと言う代わりに頷いた。
中田先生はと見ると、さっきまで
あんぐりと開けていた口を閉じ、
今は眉間に皺を寄せた
険しい顔をして、
無言のまま腰を擦っている。
このままここに突っ立っていても
仕方が無いので、
私も恩他の様子を見に行く事にした。
「先生はどうする?」と聞くと、
先生は私の顔も見ず、ブスッとしたまま
首を横に振る。それを見た良太君が、
「先生、まだ痛いのか?」
と心配そうに聞いても、
うるさそうに手を振っただけで
返事もしない。良太君と恵子ちゃんが
顔を見合わせて溜息をついた。
やれやれ、きっと先生は
ママと英二の事でムカついて、
気持ちの持って行き場が無いのだろう。
私だって同じ気持ちなんだからねと
胸の中で呟き、私は先生と良太君、
恵子ちゃんをその場に残し、
もう先に行っている犬山さん達の
後を追い、恩他の所に走って行った。
恩他は目を閉じて仰向けに倒れていた。
犬山さんがしゃがみ込んで恩他の胸に
耳をくっつけ心臓の音を聞いている。
「どう、生きている?」
とリリーさんが聞くと、犬山さんは
恩他の胸から耳を外し、
うーん、と唸って首を傾げた。
「何にも聞こえないから、
死んでいるんだろうけど、
それは我々も同じだからねえ・・・
つい胸の音を確かめてしまったけど、
そんな事無意味だったね」
犬山さんは照れ臭そうに
リリーさんを見て笑った。
「あら、私達は死んでいるけど、
ちゃんと心臓動いているわ、
ほら聞いてみて」
リリーさんが犬山さんに向けて
胸を突き出した。
犬山さんが今にもリリーさんの胸に
耳をくっつけそうになったので、
私は慌ててゴホンと咳きをした。
冗談じゃない、やめてくれ。
犬山さん達までイチャツクなよと
私はついイラッとしてしまったのだ。
「まあ、どうなっているのか
ママさんに聞いて見ない事には
何とも言えないねえ」
犬山さんがそう言うと、リリーさんは
一瞬恨めしそうに私を見てから、
そうね、と言って頷いた。
「ねえ、この人こんなに若かった?」
涼子さんがいきなりびっくりしたような
声を出したので、恩他の顔を見ると、
確かに恩他はまるで別人のように
若くなっている。
恩他は中田先生や犬山さんの年齢と
同じくらいだと思っていた。
いや、へたをすると
四十を出ているかもと踏んでいたのだ。
それが今目の前にいるのは、
まるで少年のように若々しい。
どう言う訳だ、若返ったのか、
それとも本当の年齢がこれなのか。
あの時ママが言った言葉を思い出した。
「おいたが過ぎるわよ、坊や」
ママは恩他の本当の年齢を
知っていたのだろうか。
〜つづく
別荘「ママの店16(前編)」 「ママの店16(中編)」 「ママの店16(後編)」 「ママの店17前」 「ママの店17(中編)」をHPにUPしました。
「怪談奇談」に
(幽霊屋敷) 連載小説「ドタバタ 新米刑事とベテラン刑事」9話目ブログに書き溜めたものをアレンジしておりますが、
暴力シーンやグロテスクな表現が含まれておりますので
ご注意ください。
出版「ハレルヤ」「ひとでなしの倫理」電子出版「短編集 闇の中の住人」
2007.04.17. (00:50)
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