わずかな温もり
急須にお茶を入れて十分くらいしたら、いつもカリンがやって来る。入れたては熱いと知っているかのようなタイミングだ。外は夏のように暑くても、家の中はちょっぴり冷えるから、こんな小さな温もりが気持ちいいんだろうな。
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16犬山さんが走って行き、すぐに
リリーさん達を連れて戻って来た。
ママ・・・と言って恵子ちゃんが、
涼子さんにしがみつく。
あなたの側におれさえすればと、
言わんばかりの笑顔で、
リリーさんが犬山さんに
寄り添っている。
そして、平気そうな顔をしてはいるが、
本当は不安なのだろう、
良太君はワンコを両手でしっかりと
抱きしめて黙ったままだ。
子供二人と子犬が一匹、
それに戦えない女性が一人・・・
この三人と一匹を連れて、
果たして何かあった時に
満足に戦えるのだろうか。
いや、戦うどころか
守りきる自信すらない。
私の頭の中に、今まで潜り抜けて来た
修羅場の数々が蘇る。
この世界も相当な地獄になりそうだ。
ママの店でトランプをして
バツゲームをやらされ、
ゾンビの群れに襲われた事があった。
あれはママが創った映像だったが、
それでも十分恐ろしかった。
今から我々が出くわすのは
決して映像では無く、
鋭い歯で肉を食い千切り、
血をすすり内臓をむさぼり食らう
本物のゾンビなのだ。
この三人は、足手まといになる・・・
私の思惑がママに伝わったのか、
ママはじっと私の顔を見つめている。
「いや、あの、僕は
恵子ちゃん達を連れて
そのう・・・戦えるかどうか、
いや、足手まといだとは別に
言って無いんだけど」
私はしどろもどろになっていた。
左右から犬山さん涼子さん、
中田先生の冷たい視線が突き刺さる。
「豊の言う通りだわ」
えっ?
ママの言葉でホッと救われた。
ママも私と同意見なんだ。
「しかし、ここに
置いて行くのは危険だと
ママさんがさっき・・・」
犬山さんが慌てたように言うと、
ママは頷き、
「ええ、だから一緒に
連れて行くのよ。ただし、
私達の首から下げて行くの」
首から?私は犬山さんが
リリーさんを布か何かで包み、
首からぶら下げて歩いている姿を
想像して吹きそうになった。
戦うどころか、
そりゃとても歩き難い・・・
「そうじゃないわ、
誰がそんな格好で歩けなんて
言うもんですか」
うへっ、また心を読まれてしまった。
ママは白い目をして私を見ている。
じゃあ、どうするってんだよと
私が口を尖らすと、
「一時的に三人を
石に封じ込めるのよ」
ママは胸元にある
英二が入っている石を見せた。
「石に入れて首から下げる
って事か・・・・」
中田先生が、うーん・・・と唸った。
「リリーさん、恵子ちゃん、
良太君、あなた達を連れては
とてもじゃないけど
この世界は危険すぎる。
だから、しばらく
眠っていてほしいの」
ママがそう言うと、リリーさんと
恵子ちゃんは素直に頷いたが、
良太君が唇を横に引き結び、
下を見て黙り込んでいる。
「どうした良太、不服か」
中田先生が良太君に聞くと、
良太君は上目遣いに先生を見て、
「いや、しょうがないって事は
おいらも良く分かっている。
只、何にも出来ない自分が
いや・・だ・・」
良太君は言葉を詰まらせ、
たちまち目から涙が溢れ出た。
抱きしめられたワンコも
不安そうに首を上げ、
良太君を見てクウンと鳴いた。
中田先生は良太君の両肩に手を置き、
「良太、みんなの為に
潔く身を引くのも男だぞ」と言った。
先生に励まされた良太君は、
心の中にあったモヤモヤが
吹っ切れたのか、
キッとした顔で先生を見上げ、
力強くうんと言って頷いた。
〜つづく
「ママの店」(激闘編)をHPにUPしました。
別荘「怪談奇談」に
(幽霊屋敷) 連載小説「ドタバタ 新米刑事とベテラン刑事」10話目ブログに書き溜めたものをアレンジしておりますが、
暴力シーンやグロテスクな表現が含まれておりますので
ご注意ください。
出版「ハレルヤ」「ひとでなしの倫理」電子出版「短編集 闇の中の住人」
2007.05.30. (00:58)
小説 文学 /
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