小さい人(トウ)
私は時々直径二十センチくらいの丸いエビ煎を食べる。私はこのエビ煎が好物なのだ。今日はうっかり机の上に置き忘れ、トウに一枚盗まれた。自分の頭よりはるかに大きなエビ煎を銜え、鬼の首を取ったかのように尻尾をピンと立てて走って行ったまでは良かったが、折角取って来たエビ煎をポトッと床に落とし、ジィッと見つめている。こんな大きな煎餅どうやって食べればいいか途方に暮れたらしい。そんな姿がこれまた可愛いくて怒れなかった私は、親バカ・・・
ビリー十二日目今日は映画を観に行った。帰ってからすぐにビリーをやり、汗だくになってからお風呂に飛び込んだ。明日ビリーバンドを買いに行く予定。
1〜47は「続きを読む」の中 48 49 50 51 52その瞬間誰かが
私の腕を引っ張った。
目の前にママがいて、
心配そうに見ている。
「豊、大丈夫?
また一人で
行っちゃったのね」
ママはそう言いながら、
私の目から
記憶を読み取り始めた。
たちまちママの目が
潤んで来たので、
私は慌てて首を横に振り、
「大丈夫だよ、
ちょっと驚いただけだ。
引き戻してくれてありがとう」
と言って笑って見せた。
「そう、ならいいのだけれど」
ママは優しく私の背中に
手を当ててくれた。
ママの掌の温もりが
とても嬉しかった。
母の遺体を見せられるのは、
これが初めてではない。
何度見せられても
良い気分ではないが、
ショックで泣き崩れるほど、
もう悲しくは無いのだ。
母が横たわる霊安室の世界は
永遠に存在し続けるのだから、
いつ何時その世界に
迷い込まんとも限らない。
楽しく良い思い出よりも、
二度と見たくない出来事の方が、
心に深く焼きついているから、
そこに何度も訪れてしまうのだ。
ママ達の世界が俗に言う
あの世で、
私が一応まだ席を置いている
世界をこの世だとすると、
この世では、
どんなに悲惨極まる
出来事があったとしても、
記録でもしておかない限り、
時とともに、いつか
人々の記憶から
忘れ去られてしまう。
しかし時を刻まないあの世では、
その事実は、おそらく永遠に
宇宙の何処かに
存在し続けるのだ。
我々は死んで肉体を失い
宇宙に帰属した時、
忘れていた過去が
未だ存在している事を知る。
そう言う話しをママから聞いたり、
自分で体験したりして
私にはもう分かっているから、
母の死に顔を何度見せられても、
もう驚きも、悲しみも
感じ無いのだ。
あちこちを見て回っていた
犬山さんや涼子さん、
中田先生に山村が戻って来た。
「みんな布団も掛けて貰わずに
素っ裸で寝てますよ」
犬山さんがそう言うと、
涼子さんがポッと
顔を赤くした。
中田先生が難しい顔をして
顎を指で捻りながら、
「それどころじゃないよ。
私には彼らが、
呼吸をしているようには
見えないんだけどなあ」
と言ったので、私を含めて
みんなも驚いた顔になったが、
ママだけは何故か暗い顔をして
横を向いている。
ママは何か
知っているのだろうか・・・
犬山さんが慌てて、
近くのカーテンの中に
入って行き、出て来るなり
「先生の仰る通りです。
全く息をしていません」
と言った。
我々は手分けして
もう一度全部の
ベッドを見て回る事にした。
「みんな死んでますね」
犬山さんが暗い声で言うと、
山村が苦い顔をして、
「酷い事をしやがって・・・」
と恨めしそうな声で
吐き捨てるように言った。
「でも、死んでいるにしては
血色もいいし、
死斑の一つも出ていない」
犬山さんがそう言うと、
中田先生は
うーん・・・と唸り、
「非常に強い睡眠薬を
投与されていて、呼吸が
極端に細くなっているとも
考えられるが、
それにしては鼻にチューブも
入って無いし、導尿管も
取り付けられていないな」
と言った。
食事は点滴で補ったとしても、
尿は出る。導尿管が無いのは
確かにおかしい・・・
涼子さんが眉を潜め、
「呼吸をしているように
見えないほど、
深く眠らされていたら、
トイレに行けませんから
垂れ流しになります。
排泄しないとしたら、
やっぱり死んでいるって
事ですよね」
と言って首をすくめた。
〜つづく
「ママの店」(激闘編)をHPにUPしました。
別荘「怪談奇談」に
(幽霊屋敷) 連載小説「ドタバタ 新米刑事とベテラン刑事」11話目ブログに書き溜めたものをアレンジしておりますが、
暴力シーンやグロテスクな表現が含まれておりますので
ご注意ください。
出版「ハレルヤ」「ひとでなしの倫理」電子出版「短編集 闇の中の住人」
2007.07.28. (00:04)
小説 文学 /
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