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樋口裕子

  • 名前:樋口裕子
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オンライン小説&出版本紹介のHP「ハレルヤ-樋口裕子-」のブログ、夢日記や短編小説など書いていく予定です。(コメントの欄に業者の方の宣伝はご遠慮願います)
 改訂版 『ママの店



・・・前回までのお話・・・   


普通なら恥ずかしくて真っ赤になるところだが、
誰も見てもいないし聞いてもいない。
それに、そんなことを気にしている場合じゃないのだ。
かくなる上は諦めるしかない。
どうやら私には、次元を超える力など
備わっていないようだ。
信二君は、時折ビビッと水面に電気を走らせながら、
ジリジリと自分を苛めた連中目がけて
進んで行っている。

「し、しんちゃん・・・」

ゴリラのけんちゃんが膝を突き、
胸まで水に浸かりながら頭の上で手を合わせ、
声を震わせてナンマイダナンマイダと
お経を唱え出した。

「しんちゃん、ごめん。俺達が悪かった」

他の連中もけんちゃんの横に並んで膝を突き、
頭の上で組んだ手をブルブル震わせて、
泣きながら詫びている。
やがてけんちゃんの前に立った信二君は
放電するのを止め、生気のない青白い顔で
みんなの顔を見回し始めた。

「けんちゃん、よしちゃん、
ゴキブリと便所の水の味は
とても気持ち悪かったよ」

彼の顔が、優しくなっているように思うのは
私の気のせいか?

「ナンマイダ、しんちゃん、
ナンマイダ。許してくれ・・・全部俺が悪いんだ。
俺が最初にお前を疑ったんだよ。
ヤキを入れるように命令したのも俺だ。
恨むなら俺を恨め、
連れていくなら俺だけを連れていけ。
頼むから他のみんなは許してやってくれ」

けんちゃんは激しく掌をこすり合わせ、
必死に信二君に謝っている。

「けんちゃん、もういいよ。
これでおあいこだ。
僕達はまた友達に戻れるよね」

気のせいなんかじゃなかった、
信二君はもうみんなを許している。
そしていつの間にか教室の中から
ゲロ水もゴキブリも消えていた。
思いがけない信二君の言葉に、みんな
ポカンと口を開けたままだったが、
いち早くけんちゃんが正気に戻った。

「もちろんだよ、しんちゃん
俺達は親友だ。これから先もずっと親友だ」

けんちゃんが目と鼻の頭を真っ赤にしてそう言うと、
他のみんなもその通りだと言わんばかりに、
涙をポロポロこぼしながら頷いている。

「嬉しいな、ありがとう。これで安心して逝けるよ」

信二君は笑顔を残し、あちら側から見れば
多分かき消えたように見えたと思うが、
やっとこちら側に戻ってきた。
信二君が消えた教室では、
けんちゃんやよしちゃん達が尻餅をついたまま
ボンヤリしており、
心臓麻痺で死んだかと思っていた男子生徒が
目を覚まして上半身を起こし、
辺りを見回しながら不思議そうに
首を何度も傾げている。
今まで恐怖のあまりに声も出せず
動くことすら出来なかった生徒達は
各々悲鳴を上げながら、
やっと開くようになったドアから
散り散りに外に飛び出して逃げて行ってしまった。

「信二君、気がすんだかい?」  

私の問いに、信二君は照れくさそうに笑って頷き、
やがて足元から少しずつ薄くなって
すーっと消えてしまった。
彼の笑顔、綺麗だったなあ・・・と
感慨にふけっていたとき、
いきなり視界がグニャリと歪んだ。
ここに来る前に
『ママの店』で体験したのと同じ感覚だ。
ショックで目が回り、歪むのが治まっても、
しばらくは自分が何処にいるのかわからなかったが、
辺りを見回しているうちに
『ママの店』に戻っていることに気がついた。

「どうだった?」

ママが心配そうな顔で私の顔をのぞき込んでくる。

〜つづく

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2008.02.23. (10:34) 小説 文学 / TRACKBACK(-) / COMMENT(-) /
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