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樋口裕子

  • 名前:樋口裕子
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オンライン小説&出版本紹介のHP「ハレルヤ-樋口裕子-」のブログ、夢日記や短編小説など書いていく予定です。(コメントの欄に業者の方の宣伝はご遠慮願います)
 改訂版 『ママの店』


・・・前回までのお話・・・   


「何でもありますよ、お客さんのお望みのものが」

ママが優しく声をかけてやっているのに、
男は目を丸くして口をすぼめ、
人を小馬鹿にしたような顔でホホーと言った。

「と言うことはメニュー以外にも出来るってことなの?」

気持ちの悪い猫なで声だ。
はい、と言ってママが笑顔で頷く。

「じゃあ、メニューには書いてないけど、
アボカドジュースを貰おうか」

男は平然とした顔でそう言った。
ぬぁにい?よりにもよってアボカドかい!
ママがちょっとでも困った顔をしたら
男を外に引きずり出してやろうと思っていた。
しかしママは少しも動ぜず、ニコニコ笑っている。

「承知いたしました。でも、アボカドジュースは
ちゃんとメニューに書いてございますよ」

ママは男の持っているメニューの何処かを指さした。

「何?そんなもん何処に・・・あっ!」

男はメニューに顔を近づけて絶句した。
ウヒャヒャッ、ざまあ見ろ
アボカドジュースはあったんだよっ!
私はとても愉快だった。

「アボカドジュースでよろしいですか?」

男は苦々しい顔をして、もういいよとばかりに
ママにメニューを返した。

「ホットコーヒーにして」

小さい声でボソッとそう言うと、
つまらなさそうに横を向いた。
カウンターに男が二人離れて座っている。
一人は水割りのグラスをじっと見つめている
孤独な医者。
もう一人は、アボカドジュースと言ったくせに
ホットコーヒーを飲んでいる馬鹿。
ママが私の側に戻ってきた。
あの人、ヤな奴だねえと小声で言うと、
ママはふっと悲しい顔をして首をかしげる。
鳶色の瞳が涙で潤み始めているのに気がついて、
私はドキッとした。

「ママ、どうかしたの?」

慌てて声をかけると、
ママはスーッと私に顔を近づけた。

「あれを見て・・・」

囁くような小さな声でそう言うと、
ドアの方を目で指した。
いったい何が?と思いながら目をやった瞬間、
いきなりブアッと全身の毛が逆立った。
何と驚いたことに、
ドアの枠にはめ込んである大きな飾りガラスに
ベッタリくっついたたくさんの顔が、
目をキョロキョロ動かして
店の中をのぞいているのだ。
誰が垂れたのか、顔と顔の隙間を縫う様に、
ガラスの表面をヨダレが流れていく。
ゲッ気持ち悪りぃ・・・吐きそう。

「な、何をしているのかな?あの人達」

口を押さえた為か恐怖のせいか、
私の声が恥ずかしいくらい裏返る。

「恨んでるのよ」

ママの声はとても小さいのに、
地の底にまで響きそうなくらい重く響いた。

「恨むって、誰をさ・・・」 

その後の、まさか私じゃないよねの言葉を
ゴクリと飲み込んだ。

「あんたじゃないわ安心して」

ママは私の不安がわかったのか、
フッと笑って軽く首を横に振った。
そしてカウンターでのんびりコーヒーを飲んでいる
アボカド野郎を目で指した。

〜つづく

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2008.03.04. (18:51) 小説 文学 / TRACKBACK(-) / COMMENT(-) /
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