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樋口裕子

  • 名前:樋口裕子
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オンライン小説&出版本紹介のHP「ハレルヤ-樋口裕子-」のブログ、夢日記や短編小説など書いていく予定です。(コメントの欄に業者の方の宣伝はご遠慮願います)
 改訂版 「ママの店」


前回までのお話・・・       10 11 12 13 14 15 16

―夢の中の彷徨い人―

「私の店においでになったのも何かのご縁、
もし宜しかったら
みなさん自己紹介をなさって
お友達になられたらいかがですか」

ママがニコニコ笑いながら
提案してくれたので、
私達は自己紹介を兼ねて
奥にある四人かけの広いテーブル席で
お茶をすることにした。
先生はアボカドと一緒にさっさと奥にいき、
二人並んで座って何やら話し込んでいる。
おそらく今までの事情を彼に
聞いているのだろう。
ママ、手伝うよと言って、
私はママに続いてカウンターの中に入った。

「じゃあ、このアップルパイを
人数分に切ってお皿に入れてくれる?」

いつの間にかカウンターの上に
白い箱が置かれてあり、
蓋を開けると褐色の表面にたっぷりと
アプリコットジャムが塗られた、
丸くて大きなアップルパイが入っていた。
ママはコーヒー、私はアップルパイの皿を
盆の上に乗せ、テーブルに運んだ。
広めのテーブルを挟んで向かい合わせに
二人かけのソファーがあるのだが、
片方はすでに
先生とアボカドが座っているので、
私はママと一緒に座った。
私の前はアボカドだ。

「おぉ、アップルパイですか、
こりゃあ美味しそうだ」

先生がそう言って両手を擦り合わせ、
嬉しそうな顔でママを見ると――

「手作りですか、なんて
聞かないでくださいよ」

ママは恥ずかしそうにクスッと笑った。

「私に作れるのはせいぜい
クッキーくらいですからね、このパイは
いつも昭日町スーパーの中にある
ケーキ屋さんで買います。
あそこのケーキは美味しいんですよ」

昭日町スーパーは私の家の近所にあって、
私も買い物はいつもそこですましている。
ママもそこへいくことが
あるんだなと思えば、
ちょっと嬉しい気持ちになった。

「さあ、みなさん折角のコーヒーが
冷めてしまいます。
パイと一緒に召し上がれ」

ママに促された我々は、
さっそくアップルパイにフォークを突き刺し
口に運び出す。たちまち口の中に
アプリコットジャムの甘い香りが広がり、
薄い皮の下にあるリンゴの上品な甘さが
蜜の染み込んだケーキクラムと調和して、
そりゃあもうとても美味しいパイだった。

「こりゃ旨い・・・」

先生が目を細め、ママも嬉しそうな顔で
パイの欠片が膝に落ちないように
手を添えて食べている。
私はパイを大方食べてしまってから
コーヒーを飲んだ。
コーヒーはブラックと決めているのだが、
この苦味がまたパイに合う。
アボカドはと見ると、彼は疲れた顔をして
パイを一口食べただけでフォークを置き、
コーヒーのカップを両手で包むようにして
じっと見つめている。
今のアボカドは何を食べても
味なんてわからないんだろうなと思うと、
たまらなく可哀相になり
何か言葉をかけてあげようとしたとき――

「それじゃあ、自己紹介を始めましょうか」

先生が言い出した。
今までカウンターの隅で暗い顔をして
ブツブツ独り言を言っていた先生と
同じ人だとはとても思えない。

〜つづく

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2008.04.09. (10:04) 小説 文学 / TRACKBACK(-) / COMMENT(-) /
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