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樋口裕子

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2008.06

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オンライン小説&出版本紹介のHP「ハレルヤ-樋口裕子-」のブログ、夢日記や短編小説など書いていく予定です。(コメントの欄に業者の方の宣伝はご遠慮願います)
 改訂版「ママの店」


前回までのお話・・・       10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29

やがて彼らは私の前にくると、
持っていた松明を私と自分達の間にある
丁度草の生えていない部分に重ねて置いた。
山火事にならないように
気をつけているのだと思ったら、
より一層人間らしさが感じられ、
パチパチと音を立てて舞い上がる
火の粉の向こうに、
赤々と照らされている三人を
観察する心の余裕が出来ていた。
二人の男にとってボスなのか
マドンナなのかわからない
この女の顔は誰かに似ている。
顔つきやスタイルから想像すると
元はかなりの美人だったに違いない。
損傷が酷く、片方の目に眼球はなく
黒い空洞になっているが、
もう片方はパッチリとした涼しい目をしており、
鳶色の瞳が美しい。
鳶色?そうだ、ママの目と同じ色、
そう言えばママに似ている気が・・・
いやいや、そんなはずはない。
どう見てもこの女は死んでいる。
いや、もちろんママも死んでいるが、
こんなに酷い姿ではない。
しかも腐敗が進んでいるせいか、
鼻から下の肉がなくなっており
赤黒い歯茎が丸見えだ。
それにしても何て臭いだ、
コウバシイ死臭を嗅ぎすぎて
頭がクラクラしてくる。
ハッと気がつくと、
いつの間にやってきたのか、
女が私に身を寄せていた。
裂けた黒いワンピースの胸元から
はみ出た豊満な乳に、
大きなハエが一匹たかっている。
決して乳に見惚れていたわけではない。
だがしかし、女の手が
トレーナーの中に滑り込んだ瞬間、
私は動けなくなっていた。
波のように押し寄せる恍惚感に包まれて
意識が半分なくなりかけていたが、
耳の下辺りを思いっきりズルリと舐められ、
いきなり正気に戻された。
ヌルッとした冷たい感触は、
まるきり爬虫類の舌だ。

「わっ!気持ち悪いっ、ヤメローッ」

私は思わず女を突き飛ばしていた。
女は重ねてある松明の上にドンと尻餅を突き、
そのショックでグエッと口から
ヨーグルトのような物を吐き出した。
男達が慌てて両脇をかかえて抱き起こしたが、
女は苦悶の表情を浮かべ、
衝撃で飛び出して垂れ下がってしまった眼球を
元の穴に押し込んでいる。
松明はバラバラに崩れて火も消えかかっており、
薄暗くなった視界の中には
とても危険な空気が立ち込めていた。
さすがに申しわけないことをしてしまったと思い、
ゴメン悪かったよと謝ったが――

「ゆ、ゆるさない・・・コ・ロ・セ」

憎々しげに私を睨み付けた女が、
老婆のようなしわがれた声でそう言ったとたん、
男どもが歯を剥いた。

「ガルルルルルル!」

狂犬のように唸りながら
二人が私の回りを凄いスピードで走り出す。
そうか、そっちがその気なら仕方がない。
私だって負けちゃいないさ、
やられる前にブチのめす!
ゾンビめ覚悟しろとばかりに、
息つく間もなく飛び出す拳と回し蹴り。
しかしゾンビも相当強い、
倒れたかと思えば
またすぐに立ち上がって向かってくる。
息を抜いたら殺されると思い、
クルクルと体を回転させながら
必死に戦っているとき、いきなり頭の中に
ママの声が聞こえてきた。

「抵抗しちゃダメ。あんたがいる所は
等活地獄と言って喧嘩が大好きな人がいく地獄よ。
果てしのない殺し合いを続けるの。
手を出したらあんたも同罪だからね、
されるがままに身をまかせなさい。
殴らせておけばいいの、
どうせ痛くも何ともないでしょ。
あんたにとっちゃ、ただの夢なんだからさ」

えっ、これが地獄なの?
手を出したら同罪?冗談じゃないよ、
そんなの嫌だ。くそっ、こうなったら仕方がない、
好きなだけやればいいさ!
腹を据えた私が抵抗を止め、
地面にドッカと胡坐をかいて座ったとたん――

「キェェェェェーッ」

女がいきなり金切り声を上げ、
何処から持ってきたのか知らないが、
金属バットを振り上げて、
私の頭頂部目がけて振り下ろした。
ボカッと鈍い音がした瞬間、
うわあっーと悲鳴を上げたが、
衝撃の割には痛くない。しかし目を開けていたら
ショック死しそうだと思い、固く目を閉じた。
ゾンビ達に殴られ蹴られ、
あっちにコロコロこっちにコロコロ転がされながら、
私はズタボロになっていく自尊心の痛みに
必死で耐えていた。何んでこんなめに
遭わなくちゃならないんだろう・・・
情けなくて悔しくて涙が止まらない。

「もう嫌だあ、ヤメロー!」

〜つづく

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2008.06.28. (10:13) 小説 文学 / TRACKBACK(-) / COMMENT(-) /
 改訂版「ママの店」


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えっ、ちょっ、やめて・・・
不安のあまりにタオルを剥がそうとしたのだが――

「何も怖がることはないのよ。
心を空っぽにしていて」

ママに手を押さえられた。
心を空っぽにか、私は今まで何度も
こうしてママに映像を見せられている。
怖くない大丈夫だ・・・そう思った瞬間、
不安と一緒に意識までなくなった。
どれくらい時間が過ぎたのかわからない。
気がつけば辺りは真っ暗、
生暖かい風が湿っぽい土のような臭いを
運んできている。
そう言えば目隠しをされていたと思い出し、
顔に手をやったがいつの間にかタオルがない。
と言うことは、実際に暗いのだ。
やがて目が慣れてくると、
足元には鬱蒼と草が生い茂り、
周りには木しかないことに気がついた。
ここは深い森の中、それにしても暗い。
今は夜なのか?
あまりにも木が生い茂り過ぎて
陽が入らないだけなのかもと、
じっと目を凝らし頭上を見ていたら、
木の葉の間に見え隠れしているのは
青空ではなく漆黒の闇だった。
やはり夜なんだと思い、
視線を下に戻した瞬間、
クェーッと大きな音がしたので
慌てて見上げると、何処からやってきたのか
それは黒い大鳥で、バタバタと羽ばたきながら
私の真上をグルグルと旋回し始めていた。
大鳥はそんなに低い所を
飛んではいなかったのだが、無意識に
頭をひょいと下げたとき、
前方から小さな灯りが三つ、
近づいてくるのに気がついた。
灯りはどうやら松明で、その火の下に
ぼんやりと見えるのは人影か?
近づくにつれ、その者達の姿がわかってくる。
骨ばった手で松明を握り締め、
先頭を歩いているのは
黒いワンピースを着た女で、
鼻から下が黒くなっていて顔がよく見えない。
後ろに続く男二人は、
松明を持つ手がグローブのように膨れている。
明かりの中に浮かび上がった顔も
酷く膨れていて、上下の肉に
圧迫されているからか目は線になり、
鼻は両頬の中にめり込んでしまっている。
紫がかったどす黒い顔に不似合いな、
鮮やかなピンク色をした太いタラコ唇が
不気味さを醸し出してはいるのだけれど、
何かとてもおかしくて
笑いが込み上げてくるのだ。
何処からどう見てもこの男女は死体、
それがこうして歩いていると言うのは、
ゾンビ?しかし私は
彼らがゾンビだとわかっても、
不思議なほど全然怖くなかった。
大鳥は危険を感じたのか、
いつの間にかいなくなっている。

〜つづく

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2008.06.21. (10:07) 小説 文学 / TRACKBACK(-) / COMMENT(-) /
 改訂版「ママの店」


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楕円形のテーブルを囲み、
四人がそれぞれ手持ちのカードを見て
慎重に相手のカードを抜いていく。
抜いたカードと手持ちのカードが同じだった場合
その二枚を捨てることが出来る。
私がママのカードを抜き、
ママが先生のを抜き、
先生が犬山さんのカードを抜く。
そして私のカードを犬山さんが抜き、
私がママのを抜くと言ったふうに
グルグル回るのだ。
結構合うのがくるなと楽観していたら、
ママからババを頂いた。
ゲッ、やっちまったよ・・・と思った瞬間、
犬山さんが私の顔色を
うかがっているのに気がついた。
やばい、顔に出てなかったろうな・・・
ババがきたと気づかれちゃう。
かくなる上は何が何でも
犬山さんにコレを抜いてもらわねば。
私はさり気なくカードを混ぜ、
わざとババの横にあるカードを少し高くする。
人間は目立つ物があれば
意識してソレを避け、
その隣にある物を取ろうとする。
これぞ、おびき寄せ裏かきの極意なり。
こいっ、犬山!と心で念じたのが通じたらしく
彼は震える指でババを抜いた。
犬山さんがグッと生唾を
飲み込んだのがわかったが、
私と同じことを思ったのか
平然とした顔で先生の方を向く。
ババを犬山さんに抜かせて
ホッとしたのもつかの間、
何と一周してまた我が元へやってきた。
ぐうぅ・・・今度は同じ手を使えない。
みんなそれぞれ手持ちが
少なくなってきているのを見て
私は焦り出す。何と犬山さんも
残り一枚しかないではないか、
次に抜いたカードが合えば上がりだ。
ババ抜きくらいでこんなに焦るのは、
すべてバツゲームのせいだ。
地獄になんかいきたくない、
私の額から脂汗が滲み出る。
犬山さんがゆっくりと私のカードを抜く。
抜いたカードを見た瞬間、
犬山さんの顔がパッと明るくなるのがわかった。

「ワオッ!上がりです」

満面笑顔でバンザイと両手をあげて
喜んでいる犬山さんをぼんやり眺めている私。
この虚脱感は何なのだろう。
私は空ろな目をして、
ママが嬉しそうな顔をして持っている
たった一枚のカードを取る。
ママは両手の平をパッパと払う仕草をして、
ワーイ上がっちゃったと
嬉しそうにはしゃいでいる。
いいさ、と私はフッと笑う。
まだ勝敗は決まっちゃいない、
先生が残っているもの。
しかし舐めちゃいけない、
先生はいつも入院中の子供達と
トランプをしている手ダレだ。
何度かババがいったりきたりして
私と先生は白熱した戦いを繰り広げていたが、
とうとう先生の方が先に
最後のカードを場に捨てた。

「ゴメン、私の勝ちだ」

先生が申しわけなさそうに言った。
ガックリと肩を落とし、
もうどうにでもして・・・と思っている私の前に、
タオルを持ったママが立った。
ソレどうするの?と聞くと、
ちょっと目隠しをするわねと言いながら、
ママは私の目をタオルで塞いだ。

〜つづく

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2008.06.15. (10:08) 小説 文学 / TRACKBACK(-) / COMMENT(-) /
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前回までのお話・・・       10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26

今日はババ抜き?それとも神経衰弱?
と私が聞くと、ババ抜きよと
ママは嬉しそうに答え――

「今日のはちょっと
おもしろいおまけがあるの」

「おまけって何さ、
ババをもう一枚増やすとか?」

私の問いにママは
ニコニコしながら首を振った。

「いいえ、ババは一枚だけよ。
バツゲームが付いているの」

バツゲーム?何か嫌だなあー
ママって真面目そうだけど、
こう言うのに限って悪ふざけしそうだからなあ、
こりゃ只では済まない気がするよ・・・
私が露骨に嫌な顔をした為か、
先生と犬山さんが不安気に顔を見合わせた。

「どんな、バツなんですか?」

先生が少し緊張した面持ちで聞く。

「ピュウーッ負けた人は地獄いきー」

ママが口を尖らせ、
ふざけたような声を出して笑った。

「ねえ、それって地獄のような
怖い所って意味なの?
それとも、もしかして本物の地獄・・・
なわけないよね」

私がアハハハと笑いながら聞くと、
ママは大真面目な顔をして頷き、
うん、地獄よ、本当にいくのよと
キッパリ言い切った。
うへえ、何てこった、やっぱり予感は当たったよ。
フゥーと息を吐き出し
ソファーの背にグッタリともたれかかったとき、

「地獄って、やっぱりあるんでしょうかねえ」

犬山さんが不安そうに、小さな声で呟くと、
先生が労わるような目をして
大丈夫ですよと言った。
私は思う、犬山さんにとって地獄は
決して他人事ではないだろう。
あれだけ人に恨みをかって死んだんだもの、
地獄が気になるのは当たり前だ。
辺りの空気が重くなったのを感じたのか、
ママが慌てて犬山さんに言葉をかけた。

「犬山さん、只のゲームよ、
そんなに怖がらないで。
地獄なんてあるもんですか。
あれは人間が悪いことをしない為に
用意された架空の世界よ。
でも勉強になるし、
体験してみる価値は十分あるわ」

ママは明るい声でそう言って、
嬉しそうに片目をつぶって見せているが・・・
嘘だ、ゲームだなんて絶対嘘だ、
ママの顔が嘘だと言っている。
地獄は遊園地のお化け屋敷とわけが違う、
そんなところにいかされたら
命がいくつあっても足りないよ・・・
こりゃ絶対負けられない、
と言うかそんなゲームやりたくないよう。

「じゃあ、あんたシャッフルお願いね」

嫌がっているのがわかったのか
ママは意地悪そうな目で私を見て、
トランプを指で突いてきた。
渋々テーブルの上に置かれたトランプを
手に取ったものの、ウゥゥ、デカイ・・・
いつも思う、なんでママのトランプは
こんなにデカイのだ。
私も結構手は大きいほうだが、
それでもカードをつかみきれず
シャッフルが一度に出来ない。
二〜三組にわけて混ぜ、
後で重ねるしかないのだ。
それに何でいつも私がやらされるわけ?
ママがしたいんだから、ママがすればいいのに・・・
ブツブツ呟いているのが聞こえたのか、

「ちょっと何モタモタしてんのよ、
早く混ぜて配ってよ」

針を含んだママの声が飛んでくる。

「はいはい、わかりましたよ今すぐやりますって」

あぁ、メンドクサ・・・

「あの、手伝いましょうか」

親切に横から犬山さんが言ってくれたが、
いいですよ、私は慣れてますからと
やんわり断った。私にやれとのご指名なんだから、
私一人でやってやろうじゃないの。
髪の毛を振り乱して
死に物狂いでシャッフルしていると、
ママはバカねえと呟いてフッと笑ったが、
先生と犬山さんは何せ
地獄いきが懸かっているから
笑えるはずもなく、黙ったまま
真剣な顔で私の手の動きを見つめている。
いつしかシャッフルも終わり、
みんなにカードを配り終えると
ゲーム開始のゴングが・・・
鳴らないけど、とにかく始まった。

〜つづく

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2008.06.08. (12:39) 小説 文学 / TRACKBACK(-) / COMMENT(-) /
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―バツゲーム―

私が今住んでいる家は大きな道路沿いに建っていて、
道路の向こう側は海だ。おもしろいことに、
家の窓から見える天気と、
玄関ドアを開けて目にする天気とは
必ずしも同じではない。
窓からでは大荒れの天気であっても、
玄関のドアを開けると、外はもう、
日中なら抜けるような青空、夕方はオレンジ色、
夜には満天の星空になっていることが多い。
とにかく外出するときは
よっぽどの異変が起こらない限り
晴れているということなのだ。
私の部屋の窓からココナツヤシの林が見え、
その間から砂浜と海が見える。
天気の良いときの林は静かで
海の色は胸に染み入る藍色をしているが、
ひとたび嵐になれば
林は枝葉を波のようにくねらせ、
荒れ狂う水の色は真っ黒になる。
そんな景色の変化を
窓からぼんやり眺めているだけで、
もう心は遠いノスタルジアなのだ。
家を出て左方向に二十分ほど歩けば
広い道路に出て、そこをまた左に曲がって
五分ほどいったところに『ママの店』がある。
ドアの左横の壁には縦長の黒っぽい木で出来た
古びた看板が掛かっているが、
文字の部分が薄くなっていて読めない。
そう言えば、私はまだ
『ママの店』の本当の店名を知らない。
聞こうと思っていても、いつも店に入ったとたんに
忘れてしまうのだ。
硬質の透明なガラスで出来たドアには、
幅の広い黒木の縁取りが付いており、
それと同じ色の取っ手を手前に引いて開けると、
チャイムがカラ〜ンコロ〜ンと鳴るようになっている。
中に入ると、黒いワンピースの良く似合うママが
大抵カウンターの中にいて、
どんなに忙しそうにしていてもいつも笑顔で、
嬉しそうに迎えてくれるのだ。
入り口から見て右にカウンターの席があり、
左側から正面にかけて、向かい合わせで座われる
四人掛けの濃いエンジ色のソファーと
テーブルのセットが並んでいる。
床にはソファーと同系色の絨毯が敷いてあり、
少し暗い雰囲気だが何処となく
エキゾチックな感じで居心地がいい。
私がいつも自分の席と決めている
左奥のソファーに腰を下ろすと、
ママが待ってましたとばかりに
例のあの大きなトランプを持ってきた。

「ねえ、トランプしましょうよ」

ママはとっても嬉しそうだけど、
トランプと言ってもママが出来るのは
神経衰弱とババ抜きの二つだけ。
それでも何人か一緒なら楽しいが、
今日は私以外に客はなし。

「今日は誰もきてないんだね」

二人じゃつまんないよとの気持ちを込めて
私が言うと、何言ってんのよ、いるじゃない
と言ってママはカウンターに目をやった。
何処に・・・?と言いかけたとき、
カウンターの止まり木に
二つの炎がボーッと現れた。
野球のボールくらいの大きさの玉を、
熱を感じさせない青白い炎が包んでいる。

「ぎゃあっ!ひっ、人魂だー」

恐怖のあまりに、私はソファーから
ずり落ちそうになった。
こ、怖い!
ツツツーッと背中を冷たい汗が流れていく。

「よおっ、青年、私はここにいるぞ!」

人魂が喋った。その声は・・・
えっ、中田先生なの?

「私もおりますです」

犬山さんだ。
人魂が先生と犬山さんだとわかり、
ようやく震えが治まった。

「怖いじゃないですか、
幽霊が出たと思いましたよ」

だって幽霊だものとママが横から言って、
クスッと笑う。そうだった、先生達は幽霊だ。
あははは、そうだね、と
私も声に出して笑ったものの、
まだ心臓がドキドキ鳴っている。
やがて先生と犬山さんは全身を現わし、
二人ともニコニコしながら私の側に座りにきた。
驚かせてゴメンゴメンと先生が言い、
犬山さんも申しわけなさそうに頭を下げた。

「いやあ、気にしないで、いきなり
人魂を見たもんだからびっくりしただけだよ」

私が笑いながらそう言うと、
ママがまたトランプのことを言い出した。

「じゃあ、三人揃ったところでトランプしましょう」

「おっ、トランプですか・・・いいですねえ」

「トランプなんて久し振りだなあ」

先生に続いて犬山さんも嬉しそうな声を出した。

〜つづく

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2008.06.01. (10:38) 小説 文学 / TRACKBACK(-) / COMMENT(-) /
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