2008.06.28. (10:13)
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前回までのお話・・・
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私が今住んでいる家は大きな道路沿いに建っていて、
道路の向こう側は海だ。おもしろいことに、
家の窓から見える天気と、
玄関ドアを開けて目にする天気とは
必ずしも同じではない。
窓からでは大荒れの天気であっても、
玄関のドアを開けると、外はもう、
日中なら抜けるような青空、夕方はオレンジ色、
夜には満天の星空になっていることが多い。
とにかく外出するときは
よっぽどの異変が起こらない限り
晴れているということなのだ。
私の部屋の窓からココナツヤシの林が見え、
その間から砂浜と海が見える。
天気の良いときの林は静かで
海の色は胸に染み入る藍色をしているが、
ひとたび嵐になれば
林は枝葉を波のようにくねらせ、
荒れ狂う水の色は真っ黒になる。
そんな景色の変化を
窓からぼんやり眺めているだけで、
もう心は遠いノスタルジアなのだ。
家を出て左方向に二十分ほど歩けば
広い道路に出て、そこをまた左に曲がって
五分ほどいったところに『ママの店』がある。
ドアの左横の壁には縦長の黒っぽい木で出来た
古びた看板が掛かっているが、
文字の部分が薄くなっていて読めない。
そう言えば、私はまだ
『ママの店』の本当の店名を知らない。
聞こうと思っていても、いつも店に入ったとたんに
忘れてしまうのだ。
硬質の透明なガラスで出来たドアには、
幅の広い黒木の縁取りが付いており、
それと同じ色の取っ手を手前に引いて開けると、
チャイムがカラ〜ンコロ〜ンと鳴るようになっている。
中に入ると、黒いワンピースの良く似合うママが
大抵カウンターの中にいて、
どんなに忙しそうにしていてもいつも笑顔で、
嬉しそうに迎えてくれるのだ。
入り口から見て右にカウンターの席があり、
左側から正面にかけて、向かい合わせで座われる
四人掛けの濃いエンジ色のソファーと
テーブルのセットが並んでいる。
床にはソファーと同系色の絨毯が敷いてあり、
少し暗い雰囲気だが何処となく
エキゾチックな感じで居心地がいい。
私がいつも自分の席と決めている
左奥のソファーに腰を下ろすと、
ママが待ってましたとばかりに
例のあの大きなトランプを持ってきた。
「ねえ、トランプしましょうよ」
ママはとっても嬉しそうだけど、
トランプと言ってもママが出来るのは
神経衰弱とババ抜きの二つだけ。
それでも何人か一緒なら楽しいが、
今日は私以外に客はなし。
「今日は誰もきてないんだね」
二人じゃつまんないよとの気持ちを込めて
私が言うと、何言ってんのよ、いるじゃない
と言ってママはカウンターに目をやった。
何処に・・・?と言いかけたとき、
カウンターの止まり木に
二つの炎がボーッと現れた。
野球のボールくらいの大きさの玉を、
熱を感じさせない青白い炎が包んでいる。
「ぎゃあっ!ひっ、人魂だー」
恐怖のあまりに、私はソファーから
ずり落ちそうになった。
こ、怖い!
ツツツーッと背中を冷たい汗が流れていく。
「よおっ、青年、私はここにいるぞ!」
人魂が喋った。その声は・・・
えっ、中田先生なの?
「私もおりますです」
犬山さんだ。
人魂が先生と犬山さんだとわかり、
ようやく震えが治まった。
「怖いじゃないですか、
幽霊が出たと思いましたよ」
だって幽霊だものとママが横から言って、
クスッと笑う。そうだった、先生達は幽霊だ。
あははは、そうだね、と
私も声に出して笑ったものの、
まだ心臓がドキドキ鳴っている。
やがて先生と犬山さんは全身を現わし、
二人ともニコニコしながら私の側に座りにきた。
驚かせてゴメンゴメンと先生が言い、
犬山さんも申しわけなさそうに頭を下げた。
「いやあ、気にしないで、いきなり
人魂を見たもんだからびっくりしただけだよ」
私が笑いながらそう言うと、
ママがまたトランプのことを言い出した。
「じゃあ、三人揃ったところでトランプしましょう」
「おっ、トランプですか・・・いいですねえ」
「トランプなんて久し振りだなあ」
先生に続いて犬山さんも嬉しそうな声を出した。
〜つづく
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2008.06.01. (10:38)
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