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樋口裕子

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オンライン小説&出版本紹介のHP「ハレルヤ-樋口裕子-」のブログ、夢日記や短編小説など書いていく予定です。(コメントの欄に業者の方の宣伝はご遠慮願います)
 改訂版「ママの店」

前回までのお話・・・       10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32

ガタガタガタ、ブァッブァッ
まだ窓と雨が騒いでいる。これじゃとても
外に出れないよと言うところだが、
こっちの世界では天気なんて
見る場所でコロコロ変わっちまうのだ。
とくに家の窓から見える天気と、
玄関ドアを開けたときの天気とが違う。
たとえ窓の外が嵐であっても、
玄関から一歩外に出たら嘘のように晴れているのだ。
それじゃ、ちょっと早いけど
買い物にいくかな、私はタンスの中から
洗濯ずみのトレーナーとジーパンを出して
着替え始めた。いつも汚れた衣類を
洗濯機の中に入れておくと、
母が洗ってタンスに入れておいてくれるのだ。
トレーナーを被るとき窓をチラッと見たら、
依然暴風雨が続いている。
フゥー、と意味のない溜息をついて
私は部屋を出た。そして玄関にいき、
ドアを開けると、小鳥達の可愛い声が
部屋の中に飛び込んできた。
ほうら、やっぱりね、ここではいつもこうなんだ。
暴風雨などなかったかのように空は青く晴れ渡り、
遠くに見える海も静かで波ひとつない。
私は後ろ手でドアを閉めると、
目を閉じて深呼吸をした。
うーん、今日の空気もじつに美味しい。
家を出て右、『ママの店』にいくのと
丁度反対方向に向かって直進する。
色とりどりの民家が続く道を歩いて
十分のところに、昭日町スーパーがある。
『昭日町スーパー』と七色の文字で描かれた
派手な大看板が正面入り口の上にかけられており、
平屋建てのスーパーの前は
駐車場と駐輪場、
買い物客はそこに車や自転車を止めている。
入り口は透明ガラスの回転式、
クルクルとドアを回転させて出たり入ったりするのだ。
家から近いし、食品はほとんどここで揃うのだが、
店内が暗く陰気なのが玉に瑕(きず)だ。
店の入り口に青白い顔をした
薄気味悪い警備員の男性が一人立っているけれど、
この人は何の為にここにいるのだろうと
いつも疑問に思う。
だって昭日町には犯罪がないのだから、
警備員なんていらないはずだ。
中に入ると野菜類が両側の壁沿い、
その向こうが魚と肉や卵となっていて
一番奥の乾物コーナーに
パンや菓子も一緒に並んでいる。
外見はあまり良くないが、
店内はごく普通のスーパーだ。
ただ一つ違うところと言ったら、
お金のことくらいかな、
もちろん買った品物はレジに持っていき、
支払いのときサイフを開けてお金がちゃんと
入っていたらそれを出せば良いのだが、
時々わけのわからない紙切れが
入っていることがある。
私も最初の頃は焦ったが、
こっちの世界ではそんな紙切れでも
お金の役目をしてくれる。
こちらの世界にくる人は、完全に死んだか
死線を彷徨っている人達、
あるいは私のように夢という経路を伝って
紛れ込んでくるビジターなのだ。
本当は食べなくても別に構わないし、
買い物も必要ない。
それなのにみんな生きていたときと
まったく同じ生活を送っている。
何であっちの世界にいたときと
変わらない生活をするのかわからないけれど、
ここには学校や会社、店屋もちゃんとあって、
私は学生だし、両親は今でも
レストランを経営しているのだ。
そう考えれば、さっきのガードマン君も、
きっと生前の職業を
そのまま続けているだけなのだろうな・・・
そんなことを考えながら、
私はサラダ用の新鮮な野菜と
牛乳と卵をカートに入れ、朝食用の食パンを買う為に
そのまま乾物屋に向かった。

〜つづく

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2008.07.26. (09:22) 小説 文学 / TRACKBACK(-) / COMMENT(-) /
 改訂版「ママの店」

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ダメダメ、妙なことは考えない方がいい、
ママは何でもお見通しだから怖ろしいよ。
大きく溜息をついてから、
私はバフンと音を立て仰向けになり、
また回想の続きを始めた。
あの後ママがお詫びだと言って
ビーフシチューを作ってくれて、
先生と犬山さんとママの四人で食べたんだけど、
美味しかったなあー
今でも思い出すとヨダレが垂れてくるよ。
まあ、生きている私のことを
ママ達が羨ましいと思う気持ちも
わからなくはないし、何よりもこっちの世界に
ずっといたいと思っている私の気持を
戒める為にあんなことをしたみたいだから、
これは怒るよりむしろ感謝しなくてはいけないかも。
この世界がどんなに楽しくても、
ここは死者の世界だと言うことを
絶対忘れてはいけないんだ。
それからその後は家に帰ってお風呂に入って、
風呂上りに牛乳でも飲もうと思って・・・
そうそう牛乳を切らしているんだ
今日は買い物にいかなくちゃ。
その後部屋に戻ってベッドで寝ながら
本を開いた所までは覚えているが、
そのまま寝ちゃったのかして後の記憶がない。
ここはまだ昭日町だよね、
目を覚ますときいつも不安になるんだ。
いつかは本当に目覚めてしまい、
昭日町から出ていく日がくるのでは、なんてね。
あっ、学校にいかなくちゃ!
いきなり大事なことを思い出してガバッと飛び起きた。
枕元の時計を見ると八時をとっくに過ぎている。
ウワッ寝過ごしたと一瞬焦ったが、
時計の表示が(日)となっているのに気がついた。
今日は日曜日か。
ホッと胸を撫で下ろし、それじゃとばかりに
もう一度ベッドの中へ倒れ込んだ。
うつらうつらと気持ち良くなってきた頃、
丁度頭の方向にある窓ガラスが
ガタガタ鳴リ始めた。
風が強いなと思ったが別に気にもならず
目を閉じたままでいると、
まるで寝かせてたまるもんかと言わんばかりに
ガタガタ音がパワーアップし始めた。
ガタガタガタからグワンガランドカンドカン!と
頭の上から音が落ちてくる。
あぁっ、うるさい!と叫びながら飛び起きて、
窓のカーテンをシャーと開けると
外は真っ白、雨と風とが荒れ狂う大嵐になっていた。
一塊になった雨が
ブァッブァッと窓に叩きつけられる度に、
窓枠が悲鳴を上げている。
それが音の正体だった。ブァッブァッと来たら
ガタガタガタッこの繰り返しで
窓が壊れてしまうのではないかと不安になり、
その頃にはもう完全に目が覚めてしまっていた。
しょうがないな、起きるとするか・・・
父さん達には日曜も平日もないんだから、
息子の私がいつまでも寝ていちゃ申しわけないしな。
ベッドの上で両手を上にあげて背筋を伸ばしながら、
今日は買い物にいかなきゃならないことを
思い出していた。牛乳と卵を切らしているし、
他にもいろいろ買っておきたい物があるのだ。

〜つづく

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2008.07.21. (11:38) 小説 文学 / TRACKBACK(-) / COMMENT(-) /
 改訂版「ママの店」


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「何が地獄だよ、
みんなママらが仕組んでたんだ。
経験しとくほうがいいなんて、
よく言うよ。
ゾンビの映像だけ見せといて
実際に殴ったのはママ達じゃないか!」
許せない怒りに泣き叫ぶ私を見て、
さすがのママもやりすぎたかと
後悔したみたいで、
悪かったわよゴメンと謝ってきた。
犬山さんがすみませんっと言いながら
ガバッと床に這いつくばり
土下座をすると、先生も
ゴメンなと言って
頭をボリボリかき出した。
犬山さんと先生の様子を
白けた顔で見ていたママは、
さっきは自分も謝ったくせに――

「何も泣かなくてもいいじゃない。
あんたは只のビジターなんだし、
死んでる私達にちょっとは
楽しみをくれたって
いいと思うんだけどなあー。
それに全然痛くなかったんでしょ、
あんたにとっちゃ全部夢なんだもの」

なんて憎たらしい言葉を吐いて
口を尖らせた。
もうムチャクチャ腹が立つ!
「心が痛いんだよっ!」
私はママを睨み付け、
エッエッとしゃくりあげながら、
幼児のように泣いていた。

―昭日町奇譚―

ベッドの中で目が覚めて後、
そのままの姿で
天井の一点を見つめていると
いろいろな思いが頭の中を去来する。
昨日はママに
酷い目にあわされたなあ・・・
ママの言う通り
体は何処も痛くなかったんだけど、
殴られっぱなしと言うのは
どうも私の性に合わないんだよね。
悔しくて思わず
ワアワア泣いちゃったりして、
あれじゃまるで
小さな子供みたいじゃないか。
本当にもう
格好が悪いったらありゃしないよ。
何がバツゲームだ、
まったくもうママったら
ろくなことを考えないんだから。
しかしママが
金属バットを振り回すだなんて
今でも信じられないよ。
ママはもっとおしとやかで上品な・・・
そう思ったとたん、
言い知れぬ殺気を感じて
ガバッと起き上がった。


〜つづく

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2008.07.12. (19:00) 小説 文学 / TRACKBACK(-) / COMMENT(-) /
 改訂版「ママの店」


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声の限りに絶叫し続けているうちに
だんだん意識が遠ざかり、
やがてプスンと事切れた。
あれからどのくらいの時間が
経ったのだろう、気がつけば
ゾンビどもは消えていた。
辺りは真っ暗だが、
新鮮な空気が満ちている。

「もう目を開けていいわよ」

ママの声で我に帰った。
そうだ、私は目隠しをされて
バツゲームをさせられていたのだ。
ママに目隠しを取って貰った私は
ペタリと床に座り込んでいた。
ドッと疲れが押し寄せてくる。
空ろな目をして辺りを見回すと、
驚いたことに店の中が
無茶苦茶になっていて、
ソファーもテーブルも乱闘の後のように
ひっくり返り、飛び散らかっている。
これはいったいどうしたことだろう・・・
アレッ?ママ達すごい汗をかいているよ、
髪や服も乱れているし
顔も真っ赤になっている。
まるで激しい運動をした後みたいに
息も苦しそう・・・
いろいろな疑問が頭の中を
くるくる回っているとき、
ママが何かを後ろにサッと隠したのを見た。

「それ何、今何を隠したの?」

私は立ち上がり、
急いでママの後ろに回って
それが何か確かめた。

「ねえ、これバットじゃない?
しかも金属。
何でこんなもん持ってるの?」

「あ・・・えーと、これはね」

ママは目をパチパチさせて
バツが悪そうに横を向いた。
先生達はどうなんだろうと思って見ると、
先生はカナヅチ、
犬山さんは角材をぶら下げており、
二人とも私と目を合わそうとしない。

「ねえ、どう言うことさ説明してよ」

「あ・・・あのね、
私はやめなさいって言ったんだけど、
そのぉー」

先生が申しわけなさそうに言いわけをした。

「私も、その・・・すんません」

犬山さんの手からポトリと
角材が落ちたのを見ながら、
すべてを理解した。
つまり、私はハメられたんだ。

「何だ、そうだったの。
最初からバツは私って決まってたんだね、
三人で相談してたんだ」

目から悔し涙がこぼれ落ちる。

〜つづく

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