
前回までのお話・・・
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たくさんの人を殺したんですよ。
おとなしそうに見えているが、実は人間の皮をかぶった
鬼なんだ。騙されちゃいけない、ねえママそうでしょ」
私は同意を求めるようにママを見た。
でもママはまだ目を閉じて何やらブツブツ
つぶやいている。ちょっとママ何とか言ってやって
と言いかけたとき、辺りの景色がグニャリと歪んだ。
「ぐおっ!ちょっ、またワープか?」
かろうじてバランスを取りながら
全身に加えられる衝撃に耐えているとき
先生が見えた。どうやら今回は私だけではないようだ。
私はもう何度も経験しているので
全身が蛸のようにグニャグニャになっている先生を見て、
自分もあんなふうになっているんだなと思えるくらい
心のゆとりがあった。しかし先生は
初めての体験だったらしく、
恐怖のあまりに顔を引きつらせ、
何か叫んでいるみたいだったが、
よく聞こえないまま極彩色の渦の中に呑まれて消えた。
さぞかし怖かっただろう。
自分の身に何が起こっているのかわからず不安だったろう。
私も初めてワープさせられたときは
不安でたまらなかったから先生の気持ちが良くわかる。
私は反転上昇を繰り返し、
色の洪水の中を突き進んでいった。
それは一時間の長さかも知れないし、
ほんの数分の間だったかも知れない。
飛ばされている間の時間の感覚が、
まったく曖昧でわからないのだ。
やがて着地したところは硬い地面ではなく畳の上だった。
部屋の中を見回すと、
小さな木製の整理箪笥が一つあるだけで
他には何もない六帖間。
随分殺風景な部屋だなと思ったのが最初の印象だったが、
すぐに、ここは寝室なのかも知れないなと解釈した。
部屋の中を歩き回っていると
何処からか小さな声が聞こえてくる。
耳をそばだてて聞いていると、それは子猫の鳴き声?
いや、違う、これは子供だ。
何処かで子供が泣いている。
微かだが、ごめんなさいとか
助けてとかも言っているようなので、
私は息を止めて身じろぎもせず、
全神経をその声を聞く為に集中させていた。
その声は今にも消え入りそうに弱々しい。
たちまち心臓が早鐘を打ち始める。
大変だ!激しい胸騒ぎに急いで襖を開けようとしたが
取っ手を触ることすら出来ず、
焦りのあまりに襖に体当たりしたとたん廊下に転がり、
その勢いで壁を突き抜け庭に落ちてしまった。
さっき雨でも降ったらしく
地面が湿って柔らかだったから良かったものの、
へたをすると打ち身で動けなくなっていたところだ。
土の上に座り込み、一息つきながら考えた。
そりゃそうだ私はこの世界では何も触れないのだから
襖を開けることなど絶対無理、
いや、むしろそんなことをしなくても
襖であろうが壁であろうが
自在に通り抜けることが出来るのだ。
要するに私は今三次元には存在しておらず、
二次元に存在している。
だから襖や壁などには触れないが、
地面の上にはちゃんと立つことが出来るのだ。
しかし今はそんなことはどうでも良い、
とにかく早く子供を捜したい。
私は急いで立ち上がり、目をつぶって壁をすり抜けた。
理屈ではわかっていてもいざすり抜けるときは、
まだ目を閉じないと不安になるのだ。
廊下に戻りじっと耳を澄ませていたら、
声の聞こえてくる方向がわかった。
あそこだ、正面に見えるあの部屋に違いない。
私は細く長い廊下を真っ直ぐ走り、
突き当たりの部屋の前に立った。
間違いない、子供はここにいる。
「ごめんなさい・・・もうしません」
何度も繰り返しながら泣く声が
ますます弱々しくなっている。
待ってろ今いくぞとばかりに中に飛び込むと、
そこにはとんでもない光景が広がっていた。
その部屋は二間の仕切りになっている襖が
取り外されており、欄間にかけられたロープの先に
五つか六つくらいの小さな男の子が、
素っ裸のまま逆さ吊りになっている。
足首を細いロープで固く縛られた子供は
顔を鬱血させて垂らした両手を力なく揺らして泣いており、
側に三十代の中頃と思える
一見ヤクザふうの男と派手な化粧の女が立っていた。
やめろ!と叫んで子供に駆け寄り抱こうとしたけれど、
情けないことにまたもや次元の壁が
立ち塞がって邪魔をする。
「あんた、もうそのへんでやめたら?
死んだら困るじゃないか、あたしら一応親なんだし」
女が男にそう言った。
死んで困るのなら何でこんなことをする、
こいつら本当にこの子の親なのか?
「フッそうだな、このへんで止めとくか。
おいクソガキよく聞け、ションベンは便所でやるもんだ。
今度垂れやがったらもっと酷い目にあわすからな」
何だと、オネショをしただけでこんな・・・
カーッと一気に頭に血が上るのがわかった。
「この野郎、お前らそれでも人間か!」
しかしいくら怒鳴っても、哀しいかな
彼らには私の声も聞こえないし姿も見えていないのだ。
〜つづく
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2008.09.13. (15:17)
小説 文学 /
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